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『世界史赤点の俺。なぜか南北戦争の将軍になってしまった件』  作者: 西住
第二部 戦争の理由

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第三十八話 高地への道

 フレデリックスバーグの町は静かだった。

 静かすぎた。

 俺は窓際に立ちながら空を見上げる。


 一羽の鳥。

 それが南の空へ飛び去っていく。


「将軍?」


 ジョンが不思議そうに聞く。


「どうかしましたか?」


「いや……」


 俺は腕を組んだ。


「どうにも嫌な予感がする」


「予感ですか?」


「ああ」


 根拠はない。

 だが戦場ではそういう感覚が案外馬鹿にならない。


「嫌な予感がしたら大体当たる」


ジョンが小さく笑った。


「以前ジャックが言ってましたね

 将軍の勘は妙なところでよく当たる、と」


 俺はジャックの事を少し思い出し……

 そして命令した


「スミスに伝令を出せ!

 周辺警戒を強化しろと」


「何かありますか?」


「分からん」


 正直な答えだった。


「だが……」


 そう言いかけた瞬間にジョンが声を上げた


「将軍の勘はよく当たりますからね」


 数時間後。


「報告!」


 しかしこの報告は

 俺達が望んでいたものではなかった


「南軍部隊の移動を確認!」


 部屋の空気が変わった。


「規模は?」


「不明!」


「ですがリッチモンド方面へ向かっています!」


 嫌な予感が確信へ変わる。


「やはりか」


 俺は地図へ向かった。


 ジョンも隣に来る。


「将軍?」


「見ろ」


 地図を指差した。


「スミス隊の進路だ」


 そしてさらに南側を指す。


「もし俺がリーなら」


 俺は地図に線を書いた


「ここから回り込む」


 ジョンの顔色が変わった。


「後方遮断……」


「ああ」


 最悪の場合。

 スミス隊が孤立する。


 その刹那伝令が本部に飛び込んできた


「スミス将軍より伝令!

 周辺警戒を強化済み!」


「どういうことだ?」


 俺は伝令に詳しく説明を求めた


「詳しくはこれに書いてあると……

 そう聞いてます」


 俺は鳥からメモを受け取った

 そこにはこう書かれていた


「我々は後方の準備は万端。

 命令があれば将軍の部隊と連携して

 メアリーズハイツ攻略部隊の任を待つ」


 短いが確実に、

 そして絶対に大丈夫だという

 信念がこの文字には現れていた


「将軍!!」

 

 ジョンが叫ぶ


「……ああ」


 俺は満を持して命令した


「全軍出発!

 目的地はメアリーズハイツ!

 急げ!」


 ラッパが鳴る。

 兵士達が慌ただしく動き始めた。


 一方その頃。

 スミス隊。


「将軍」


 副官が地図を広げる。


「どう思われます?」


 スミスは苦笑した。


「将軍と同じことを考えている」


「と、言いますと?」


「後ろを取られる」


 副官が黙った。


「やはりですか」


「相手はリーとジャクソンだ」


 スミスは肩をすくめた。


「案山子に騙されるほど甘くない

 それに一度奴らは同じ方法で我々を欺いている」


 副官は頷いた


「名将は同じ作戦には引っ掛からない

 以前私の師匠がそう教えてくれた」


 副官は聞き返す


「小隊長にも師匠がいたんですか?

 生まれながらにしてその性格かと思ったんですが」


 スミスは笑う


「貴様は私をなんだと思っとるんだ!!」


 副官も続けて笑う


「では、その師匠は今何処に?」


 何気なく副官がスミスに聞いた


「……戦死したよ。この戦争でな……」


 スミスの顔は先ほどとは変わって

 暗くなった


「そんな事よりもだ!」

 

 スミスは地図を取り出して

 そして一点を指した。


「偵察隊を出しておけ!

 敵が現れたら即座に報告」


「了解」


 数日後


 メアリーズハイツ。


「将軍!」


 兵士が叫ぶ。


「要所を確保しました!」


 俺は大きく息を吐いた。

 間に合った。

 視界が広い。

 ここを押さえれば簡単には突破されない。


「どうやら正解だったようですな」


 聞き慣れた声。


 振り返る。


「スミス」


 そこには別動隊を率いたスミスが立っていた。


「無事だったか」


「将軍も」


 二人で笑う。


「しかし驚きました」


 スミスが言う。


「まさか本当にこちらへ来るとは」


「お前も気付いていたんだろ?」


「もちろんです」


 即答だった。


「相手はジャクソンですからな」


「リーもいるぞ」


「なお悪い」


 二人で苦笑する。

 しばらく沈黙。

 俺はふと呟いた。


「お前なら出来るかもしれんな」


「何がです?」


「俺の代わりだ」


 スミスが固まる。


「冗談にしては笑えませんな」


「本気なんだが」


「なお悪いです」


 即答だった。

 周囲の兵士達が吹き出す。


「責任が重そうなので遠慮します」


 スミスは肩をすくめた。


「誰かさんみたいなことを言うな」


 俺が苦笑する。

 スミスも笑った。


「そういえば……

 アイツもそんなことを言ってましたな」


 二人とも

 自然とジャックを思い出していた。


 だが。

 その笑いは長く続かなかった。

 南の地平線。

 そこに土煙が見えた。


「将軍」


 ジョンが双眼鏡を差し出す。


 覗く。


 見えた。

 灰色の軍服。

 南軍だ。


「来たか」


 俺は呟いた。

 スミスも表情を引き締める。


「どうやら」


 彼も南を見た。


「本番ですな」


 遠くの丘。


 そこには二人の将軍が立っていた。

 ロバート・リー。

 そしてストーンウォール・ジャクソン。


 双方の視線が交差する。

 距離は遠い。

 声も届かない。


 だが。

 互いに理解していた。


 この高地が……

 次の戦いの鍵になることを。

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