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『世界史赤点の俺。なぜか南北戦争の将軍になってしまった件』  作者: 西住
第二部 戦争の理由

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第三十六話 本当の勝利へ

 ワシントンの空気はどこか慌ただしかった。


 新聞売りの声。

 兵士達の噂話。

 酒場での口論。


 どこへ行っても同じ話題だった。


「奴隷解放宣言だってよ」


「本当にやるのか?」


「南軍が認めるわけないだろ」


 様々な声が飛び交う。

 俺達もその話を聞かない日はなかった。


「将軍はどう思われます?」


 スミスが新聞を読みながら聞いてきた。


「何がだ?」


「奴隷解放宣言です」


 俺は少し考えた。


「分からん」


 正直な答えだった。


「俺は政治家じゃないからな」


 スミスは苦笑する。


「実に将軍らしい」


 その時だった。

 ジョンが珍しく口を開く。


「でも」


 俺達はジョンを見る。


「これで救われる人もいると思います」


 静かな声だった。


「救われない人もいるかもしれませんけど」


 そう言って空を見る。


「それでも何もしないよりはいいと思います」


 ジャックを失ってから初めて聞くような穏やかな声だった。


 数日後。


 北軍の陣地へ数名の黒人達がやって来た。

 年老いた男。

 母親。

 まだ幼い子供。


「本当に自由になるのか?」


 老人が震える声で聞く。

 誰も答えられない。

 まだ戦争は終わっていない。


 宣言が出ても現実は変わっていない。

 それでも。

 老人の目には希望があった。


「将軍」


 スミスが呟く。


「あの人達は信じているようですな」


「ああ」


 俺は答えた。


「だからこそ負けられないんだろうな」


 その日の夜。

 ホワイトハウスへ呼び出された。


「来てくれたか」


 リンカーンは地図を見ていた。

 目の下には深い隈が出来ている。


「忙しそうですね」


「忙しいとも」


 リンカーンは苦笑した。


「全く、大統領というのは割に合わん仕事だ」


 しばらく雑談が続く。


 だがやがてリンカーンの表情が変わった。


「問題はここからだ」


「問題?」


 俺は聞き返す。


「奴隷解放宣言を出した」


 リンカーンは静かに言う。


「だが宣言しただけでは意味がない」


 机の上に置かれた宣言書を見る。


「奴隷は解放せよ。

 ただし本人が望む場合、その限りではない」


「奴隷解放によって生じた損失は、

 アメリカ大統領の名の下に全て補填する」


「この宣言は全アメリカへ布告するものであり、

 自由州もその対象とする」


 それがリンカーンが今朝、

 全アメリカへ向けて発表した内容だった。


「たった数時間でよくここまでまとめることが出来ましたね」


 俺はリンカーン大統領へ体を向けた


「相当に圧縮している……

 本当はもっと言いたいことがあったんだがな」

 

「さて将軍」

 

 リンカーンが俺を見た

 

「南軍が敗北を認めなければ

 これはただの紙切れにすぎん」


 部屋が静まり返る。


「奴隷解放宣言を現実にするには

 我々が勝たなければならない」


 リンカーンは地図を見ながら言った


 スミスが頷く。


「つまり」


「確実な勝利だ」


 リンカーンは即答した。


「誰の目にも北軍が優勢だと分かる勝利が欲しい」


「そのための次の戦いですか」


 俺も地図を見る。


「ああ」


 リンカーンは答えた。


「戦争を終わらせるために

 もう一度戦わねばならん」


 その時だった。

 扉が開く。

 伝令が飛び込んできた。


「報告!」


「次期作戦命令です!」


 リンカーンが頷く。


「読み上げろ」


 伝令は敬礼した。


「全軍フレデリックスバーグ方面へ移動!

 川を越境するための資材の調達を求む」


 部屋の空気が変わった。


 新たな戦場。

 新たな戦い。

 俺は窓の外を見た。


 奴隷解放宣言。


 ジャックの死。

 マクレランの死。

 全てを背負ったまま。


 戦争はまだ終わらない。


「行くか」


 誰に言うでもなく呟いた。

 そして俺達は再び戦場へ向かうことになった。

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