第三十三話 アンティータム
戦場は動いた。
「敵後方で戦闘発生!」
伝令が叫ぶ。
直後だった。
遠くで砲声が響く。
「ゴップ軍です!」
双眼鏡を覗いたスミスが叫ぶ。
「敵後方へ攻撃を開始しております!」
南軍の隊列が乱れる。
前方ではマクレラン軍。
後方ではゴップ軍。
挟撃だった。
「総攻撃!」
号令が飛ぶ。
北軍は一斉に前進した。
銃声。
砲撃。
怒号。
戦場全体が揺れる。
そして。
「敵軍後退!」
伝令が叫んだ。
「南軍が退いております!」
周囲から歓声が上がる。
俺も思わず息を吐いた。
「勝った……のか?」
スミスが頷く。
「おそらく」
ジョンは黙っていた。
双眼鏡を握る手だけが強くなっている。
「ジャクソンは?」
その一言だった。
「確認できません」
スミスが答える。
ジョンは不満そうに唇を噛んだ。
その時だった。
「全軍追撃準備!」
伝令が走っていく。
俺は思わず振り返った。
「追撃だと?」
マクレランは地図を見ていた。
「当然だ」
まるで当たり前のように答える。
「敵は崩れている」
「今こそ決着の時だ」
俺は即座に反対した。
「お待ちください」
マクレランがこちらを見る。
「何だ?」
「ジャクソンがいます」
俺は真顔で答えた。
「奴が簡単に逃げるとは思えません」
ジョンも続く。
「私も反対です」
「これは罠の可能性があります」
スミスも頷いた。
「少々出来すぎておりますな」
しばらく沈黙。
そして。
「やれやれ」
マクレランは深いため息を吐いた。
「負け癖がつくとこうも人は卑屈になるものかね?」
空気が凍った。
「何だと?」
俺は思わず睨みつける。
だがマクレランは全く気にしない。
「事実だろう」
平然と言った。
「敵を見れば罠を疑う……
勝機を見れば撤退を考える…
それでどうやって勝つ!!」
ジョンが一歩前へ出る。
だが俺は腕を伸ばして止めた。
マクレランは続ける。
「君達はここで休め。
疲弊した軍団をこれ以上使うつもりはない!!」
マクレランは続ける
やる気のない兵士を連れて行った結果。
士気が下がってはたまらんからな!!!」
そう言うと踵を返した。
将軍……
スミスが俺に声をかけた
「……知るか!!
どうなろうと知ったことか!!」
俺は吐き捨てるように言った
「追撃開始!」
号令が響く。
大軍が前進を始めた。
俺達はそれを見送ることしか出来なかった。
数時間後。
戦場は静かだった。
その静寂を破ったのは一人の伝令だった。
「報告!」
血相を変えて駆け込んでくる。
「追撃軍が伏兵と遭遇!」
全員が立ち上がった。
「場所は?」
スミスが叫ぶ。
伝令は地図を指差した。
「ここです!」
嫌な予感がした。
左右を山に囲まれた地形。
逃げ場のない場所。
「まさか……」
俺は顔を青くした。
伝令は続ける。
「南軍の伏兵です!」
「ジャクソン軍を確認!」
ジョンが拳を握る。
誰も言葉を発しない。
結果は聞かなくても分かった。
そして翌朝。
報告が届いた。
追撃軍壊滅。
マクレラン将軍戦死。
俺はしばらく何も言えなかった。
その頃。
谷の奥では一人の将軍が倒れていた。
血に染まった軍服。
霞む視界。
遠くで聞こえる銃声。
マクレランは空を見上げた。
「どうしてここを通ると南軍は分かったのだろうか……」
誰に言うでもない独り言だった。
しばらく考える。
だが。
「いや……」
小さく首を振った。
「そんなことはどうでもいい」
静かに目を閉じる。
そして最後に呟いた。
「私は負けたのだ……
南軍にな」
それがマクレランの最後の言葉だった。
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「作戦成功です!!!」
ジャクソンの言葉が戦場で響き渡る
「うむ。ご苦労だった」
ジャクソンの横には一人の老兵が立っていた
ジャクソンは苦笑した。
「しかしこんなにも上手くいくとは……
まだまだ私は貴方の変わりは出来そうにありませんな」
老兵は肩をすくめて振り返った。
「待ってくれよ!?じゃあ私はいつまで現役でいればいいんだ?」
老兵はジャクソンへ笑いながら問いかけた
「……少なくともこの戦いが終わるまでは」
ジャクソンは悪びれることなくその老兵に伝えた
「……はあ、あまり年寄りをイジメんでくれんかね?」
「しかし……」
ジャクソンは続ける
「この追撃してきた部隊に例の軍団はいません」
老兵はその言葉を聞いて身を正した
「ゲインズミルでは肝を冷やした」
老兵は苦笑した
「この戦いが終わるまでは無理でも、
あの軍団を倒すまでは現役でいて頂きます」
ジャクソンは老兵を見つめた。
その目には絶対的な信頼があった。
「そうだな。あの軍団は何をしでかすかわからん。
戦場では予測出来る敵より、
予測出来ない敵の方が恐ろしい」
「意見を聞いて頂き感謝します」
ジャクソンは老兵に対して敬礼し
一言彼に伝えた
「これからもよろしくお願いします。
リー将軍」
その後南軍では
マクレランを倒したという報告が届き
リッチモンドでは歓喜の宴が開催された




