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『世界史赤点の俺。なぜか南北戦争の将軍になってしまった件』  作者: 西住
第二部 戦争の理由

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第三十二話 メリーランド州

 撤退は続いていた。

 誰も口数が多くない。


 廃線を突破した。

 敵陣も崩した。


 それなのに。

 勝った気がしない。

 そんな空気が軍全体を覆っていた。


 数日後。

 俺達はメリーランド州へ入った。


「将軍」


 スミスが地図を見ながら呟く。


「嫌な場所へ来ましたな」


「何がだ?」


 俺が聞くと。

 代わりに答えたのはジョンだった。


「メリーランド州です」


 その声は相変わらず硬い。


「ここは南軍へ寝返る可能性がある土地です」


「何?」


 俺は思わず聞き返した。


「ちょっと待て」


 嫌な予感しかしない。


「それじゃあ俺達は前方のジャクソン軍と、

 後方のメリーランド軍に挟まれる可能性があったのか?」


「最悪ですな」


 スミスも青ざめる。


 俺は愕然とした


「もしかしたらこれも

 ジャクソンの策略だったっていうのか?」


 ジョンは顔をそむけた


「なんてことだ……俺達はまた

 ジャクソンにしてやられたのか?」


 絶望している俺達の前に

 誰かの足音が聞こえた


「その心配はない」


 聞き覚えのある声だった。


 振り返る。

 そこにいたのは一人の将軍だった。


「マクレラン将軍」


 男は軽く頷く。


「久しぶりだな」


 全く久しぶりという顔ではなかった。

 俺達を見る目は冷静そのものだった。


「どういう意味ですか?」


 ジョンが聞く。


 マクレランは地図を指差した。


「そのためにゴップ軍がいた」


 俺は眉をひそめた。


「戦場から撤退した連中がか?」


 マクレランの視線がこちらへ向く。


「違う」


 短かった。


「彼らの任務は戦場ではない」


「メリーランド州内の南軍支持者の監視と排除だ」


 俺達は顔を見合わせた。


「もし州内で反乱が起きれば……」


 マクレランは続ける。


「君達は前後から挟まれていた」


 俺は思わず黙り込む。


「だからゴップは軍を引いた

 国家を守るためだ」


 納得はできなかった。

 だが反論もできない。


「それでも」


 ジョンが低い声で言う。


「私達は戦っていました」


「そうだな」


 マクレランはあっさり認めた。


「そして二度もジャクソンに敗北した」


 空気が凍った。


「何だと?」


 俺は睨みつける。

 だがマクレランは表情を変えない。


「事実だ。

 確かに君達は勇敢だ

 だが今の軍団は確実に疲弊している」


 そして静かに言った。


「正直に言おう」


 マクレランは俺の目をみて言い放った


「今の君達を前線へ出しても使い物にならん!!!」


 ジョンが一歩前へ出た。

 俺も拳を握る。

 だがマクレランは気にしない。


「だから今回は私がやる」


 その一言だけだった。


 数日後。


 アンティータム近郊。

 両軍は再び向かい合っていた。

 マクレラン軍が前進する。

 だが戦況は動かない。


 砲撃。

 小競り合い。

 散発的な銃撃。


 それだけだった。


「偉そうなことを言ったくせに

 何も出来ないじゃないか」


 俺は双眼鏡を下げた


 隣のスミスも苦笑する。


「確かにそう見えますな」


 ジョンは何も言わない。


 ただ戦場を見ていた。


「(ジャクソンは私が仕留める)」


 そんな熱意が感じられる「目」だ


 その時だった。

 マクレランが小さく呟く。


「そろそろかな」


「何がです?」


 スミスが聞く。


 マクレランは答えない。

 代わりに遠くを見た。

 そして。


「伝令!」


 叫び声が響いた。

 騎兵が全力で駆け込んでくる。


「敵後方より軍団を発見!」


「敵の援軍か!?」


 周囲がざわつく。


 だが伝令は首を振った。


「違います!」


「味方の旗を確認!」


 俺は再び双眼鏡を覗いた。


 丘の向こう。

 土煙の中。

 見覚えのある旗が見えた。


「まさか……」


 スミスが呟く。

 俺も思わず息を呑む。

 そこにいたのは――


 ゴップ軍だった。


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