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『世界史赤点の俺。なぜか南北戦争の将軍になってしまった件』  作者: 西住
第二部 戦争の理由

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第三十一話 終わらない戦場

 遠くで砲声が響いた。

 それは勝利の祝砲ではない。

 新たな戦いの始まりだった。


「敵軍接近!」


 伝令が駆け込んでくる。

 周囲の将校達が顔を見合わせた。


「敵の新手か……」


 俺は思わず呟く。

 ようやく廃線を突破した。

 ようやく勝ったと思った。


 それなのに……


 戦場は終わっていなかった。


「規模は?」


 スミスが聞く。


「不明です!」


 伝令は息を切らしながら答えた。


「ただし多数の旗を確認しております!」


 嫌な予感しかしない。

 周囲でもざわめきが広がる。


 そして。


「前方の味方軍が迎撃を開始!」


 別の伝令が飛び込んできた。


 ゴップ軍だった。

 丘の向こうから砲声が響く。

 しばらくの間、戦闘は続いた。


「持ちこたえております!」


 伝令が叫ぶ。


 俺は安堵した。

 やはりゴップ軍も戦う。

 当然だ。


 ここで敵を止めなければ全てが無駄になる。

 だが……


「将軍」


 スミスの声が震えていた。


「どうした?」


「ゴップ軍が後退しております」


「……何?」


 一瞬意味が分からなかった。


「後退?」


「はい」


 スミスも信じられないという顔をしている。


「戦線から引き上げています」


 俺は丘の向こうを見る。

 確かに旗が遠ざかっていた。


「どうしてだ……」


 誰も答えられない。

 俺達には分からなかった。

 ゴップが何を考えているのか。


 なぜここで退くのか。


 何一つ分からない。

 だが現実だけは変わらない。

 敵は近付いてきている。


「迎撃しますか?」


 誰かが聞いた。

 俺は答えようとして。

 答えられなかった。


 周囲を見回す。


 兵士達は疲弊していた。

 負傷者も多い。

 弾薬も減っている。


 廃線突破の代償はあまりにも大きかった。


「無理ですな」


 スミスが静かに言った。


「戦えません」


 悔しかった。


 目の前に敵がいる。

 それなのに。

 手が届かない。


「まだジャクソンがいるかもしれません」


 ジョンが呟いた。

 その目は戦場を見ていた。


「私達が奴を…

 ジャックの仇を…」


 俺は首を振った。


「無理だ」


「ですが――」


「無理なんだ」


 自分でも驚くほど弱々しい声だった。


 ジョンは何も言わなかった。

 ただ拳を握り締めていた。

 しばらく沈黙が続く。


 やがてポープ将軍から命令が届いた。


「全軍後退」


 短い命令だった。

 だがそれが全てだった。

 勝ったと思った戦場から。


 俺達は撤退を始めた。

 誰も歓声を上げない。

 誰も勝利を口にしない。


 廃線は突破した。

 敵の陣地も崩した。


 それでも。

 何かを失ったような気がしていた。


『変な戦いだったわね』


 守護霊が呟く。


「ああ」


 俺は静かに答えた。


 勝ったはずなのに。

 勝った気がしない。

 そんな戦いだった。


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