第二十七話 不穏な行軍
首都を出発して数日後。
俺達はポープ将軍の軍団と共に南下していた。
行軍は順調だった。
少なくとも表面上は。
「将軍」
スミスが馬を寄せてくる。
「どうした?」
「兵士達の士気は回復しつつあります」
それは良い知らせだった。
マルバーンヒルで生き残った兵士達だ。
身体の傷は残っている。
だが心の傷はもっと深い。
「そうか」
俺は短く答えた。
ジャックのことを思い出す。
今でも時々姿を探してしまう。
もちろんいるはずもない。
『まだ引きずってるのね』
守護霊が静かに言った。
「当たり前だろ」
俺は小さく返した。
守護霊はそれ以上何も言わなかった。
しばらくして。
前方から騎兵が戻ってきた。
「偵察隊帰還!」
報告を受けたポープ将軍が地図を広げる。
「どうだった?」
「敵軍を確認しました」
その言葉で周囲が緊張する。
「規模は?」
「不明です」
偵察兵は申し訳なさそうに答えた。
「ただし」
「ただし?」
「妙に動きが遅いのです」
ポープが眉をひそめる。
「遅い?」
「はい」
偵察兵は続けた。
「まるで何かを待っているかのように…」
嫌な空気が流れた。
ジョンが腕を組む。
「またですか」
「何がだ?」
ポープが聞く。
「スパイです」
ジョンは即答した。
「マルバーンヒルでも似た話がありました」
ポープは黙った。
周囲の将校達も顔を見合わせる。
あり得ない話ではない。
戦争で最も危険なのは敵兵だけではない。
情報だ。
「証拠はあるのか?」
ポープが聞く。
「ありません」
ジョンは即答した。
「ですが疑う理由はあります」
その目は本気だった。
ジャックを失ってからのジョンは変わった。
以前よりずっと攻撃的になっている。
ポープは小さく息を吐いた。
「気持ちは分かる」
そして地図を指差す。
「だが今は敵が先だ」
それが現実だった。
誰が敵で誰が味方なのか。
それを調べる時間はない。
まず生き残らなければならない。
夕方。
軍議が開かれた。
ポープは相変わらず強気だった。
「敵を発見したなら叩く」
将校達も頷く。
「攻勢ですな」
「北軍の力を見せるべきでしょう」
そんな声が上がる。
俺は地図を見ていた。
何となく嫌な感じがする。
「何か意見でもあるか?」
ポープが聞いてきた。
全員の視線が集まる。
「情報が少なすぎます」
俺はそう答えた。
「敵の数も配置も分からない」
「慎重論か」
「ゲインズで学びました」
その一言で空気が変わる。
誰も反論しなかった。
敗北を経験した者の言葉には重みがある。
「それに見てください」
俺は地図を指さした
「ここに廃線がありますよね
もしこれを天然の塹壕にでもされたら……」
ポープは地図を見る…
だが。
「それでも前へ進む」
ポープは言った。
「戦争とはそういうものだ」
軍議は終了した。
夜。
焚き火の前で地図を眺める。
その時だった。
「将軍!」
伝令が駆け込んでくる。
「敵軍発見!」
周囲が一斉に立ち上がる。
「場所は?」
俺は地図を見る。
伝令が指差した先。
そこに書かれていた地名を見て。
思わず息を止めた。
――ブルラン。
『嫌な予感しかしないわね』
守護霊が呟く。
「ああ」
俺は地図から目を離せなかった。
またあそこで戦いが始まる。
そんな予感だけが胸の中に残っていた。




