第二十一話 愛国者
同じ頃。
首都の司令部では緊急会議が開かれていた。
「ゲインズより緊急要請です!」
伝令が次々に会議室へ飛び込む。
「東部戦線にて疫病発生!
南軍主力接近中!!
至急援軍を求む」
読み上げられた内容に部屋の空気が重くなった。
「援軍を出すべきです!」
一人の将軍が机を叩いた。
「当然だ!」
「ゲインズには彼がいる!」
賛同の声が上がる。
「シャイローの英雄だ!」
「リンカーン大統領も期待している!」
「今の北軍で最も勢いのある将軍ではないか!」
次々と声が上がる。
それも当然だった。
第一次ブルラン。
中国大返し。
そしてシャイロー。
「数々の戦果を積み重ねた結果。
今や北軍の希望とまで言われた将軍を
失うことは出来ない!!」
リンカーン大統領までもが
大声を出して賛同していた
「だからこそ反対だ」
その声で会議室が静まり返った。
全員の視線が集まる。
ゴップだった。
近年急速に出世してきた政治家。
マクレラン派の有力人物。
噂ではマクレランへの取り入り方が上手かっただけとも言われている。
もっとも本人は気にした様子もない。
「何故だ?」
将軍の一人が睨む。
ゴップは平然としていた。
「国家の軍隊を個人のために動かすのか?」
「何?」
将軍の一人がゴップを睨みつけた
「リンカーンのお気に入りだから援軍を出す!?
英雄だから援軍を出す!!??
それは軍事判断ではない」
ゴップは机を指で叩いた。
「ただの贔屓だ!!!」
「貴様!!!」
リンカーンは立ちがった
「違うか?」
ゴップは表情を変えない。
「もしゲインズに無名の将軍がいたとして
同じだけの兵を送るのか?」
「当たり前だ!!」
リンカーンは叫んだ
「彼だからではない。
北軍の兵士…
いや若者の命を守るために送るんだ」
「それが贔屓だというんだ!!
今必要なのは首都防衛だ!!!」
ゴップは地図を指差す。
「援軍を送る」
その援軍が敗北する」
ではその次は?」
静寂。
「首都防衛戦だ」
重い言葉だった。
「だから見捨てろと言うのか!」
若い将軍が怒鳴った。
「見捨てるのではない」
ゴップは静かに答える。
「彼らは時間を稼ぐ」
誰かが眉をひそめた。
「その死体を積み上げて防波堤にしろ」
部屋の空気が凍り付く。
「……ふざけるな」
将軍の一人が低く呟く。
「ふざけてなどいない」
ゴップは淡々と続けた。
「彼らは首都を守るために戦う」
「彼らは首都を守るために死ぬ」
そして静かに言った。
「真の『愛国者』として記録されるだろう」
誰も言葉を返せなかった。
やがて議長役の将軍が重々しく口を開く。
「……援軍は出せない」
その一言で全てが決まった。
伝令鳥が飛び立つ。
その小さな羽ばたきが。
やがて多くの命を奪うことになるとは。
この時まだ誰も知らなかった。




