第二十話 見捨てる決断
伝令の報告を聞いた瞬間、空気が変わった。
先程まで病人の対応をしていた兵士達が慌ただしく動き始める。
遠くでは鐘が鳴り響いていた。
「南軍主力が接近中!」
「各部隊へ伝達しろ!」
「防衛陣地の確認を急げ!」
怒号が飛び交う。
その様子を見ながら俺は頭を掻いた。
「隠居生活終了のお知らせだな」
「現実逃避している場合ではありません」
ジョンが即座に突っ込んだ。
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急遽開かれた会議。
集まった将校達の顔色は悪い。
理由は簡単だった。
病人が多すぎる。
「現在確認されているだけで数千名が戦闘不能です」
一人の将校が報告した。
「さらに増加傾向にあります」
「最悪だな」
思わず本音が漏れた。
敵が来る。
だが兵士は病気で倒れている。
冗談みたいな状況だった。
「将軍」
ジョンが口を開く。
「病人の移送を優先すべきです」
「無理だ」
即答だった。
部屋が静まり返る。
「将軍?」
ジョンが険しい顔になる。
「敵軍が目前まで来ている」
俺は地図を指差した。
「今から移送を始めたら途中で捕まる」
「だからといって置いていくのですか!?」
「そうだ」
ジョンが立ち上がった。
「彼らは病人ですよ!」
「分かってる」
「なら!」
「だからだ」
俺はジョンを見る。
「健康な兵士まで巻き込むわけにはいかない」
「それに敵対しているとはいえ
同じアメリカ人だ」
俺は続けた
「病気で苦しんでいる人間を
無下に扱う事はない!!」
ジョンは唇を噛んだ。
「南軍ですよ」
静かな声だった。
「奴隷制を敷いている国です」
「……」
「病人がどう扱われるか…信用できません」
その言葉に誰も反論しなかった。
確かに可能性はある。
だが。
「それでもだ」
俺は首を横に振った。
「今は軍を守る」
「私は反対です」
ジョンは真っ直ぐ俺を見た。
珍しい。
ここまで正面から反論するのは初めてだった。
「将軍」
スミスが低い声で言う。
「決定権は将軍にあります」
ジャックも続いた。
「我々は軍人です」
「ですが!」
ジョンが言い返す。
「それでも見捨てろと?」
「聞けないのであれば…」
ジャックの声が冷たくなった。
「今すぐ部隊を出て行ってください」
部屋が静まり返る。
しばらくして。
ジョンは椅子へ腰を下ろした。
「……分かったわ」
納得はしていない。
しかしそれでも従うらしい。
俺は小さく息を吐いた。
本当は俺だって好きでこんな判断をしているわけじゃない。
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「次だ」
気持ちを切り替える。
「援軍を要請する」
全員が顔を上げた。
「首都へ連絡しろ」
「了解しました!」
通信兵が飛び出していく。
金属の羽を持つ伝令鳥が空へ飛び立った。
「これで少しは楽になるでしょう」
ジャックが言った。
「だといいがな」
俺は窓の外を見る。
敵の姿はまだ見えない。
だが時間の問題だった。
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数時間後。
「将軍!」
通信兵が駆け込んで来た。
早い。
嫌な予感がした。
「返答です!」
「読め」
通信兵は紙を開いた。
そして固まる。
「どうした?」
「その……」
通信兵が顔を上げる。
「援軍は派遣できないとのことです」
部屋が静まり返った。
「……は?」
思わず聞き返した。
「援軍は来ません」
「理由は?」
ジャックが聞く。
通信兵は首を振った。
「記載されておりません」
「続けざまに鳥を送れ!!」
俺は通信兵へ怒鳴った
「将軍!?」
三人が同時に声を上げた
敵が来ている。
病人も大量にいる。
だから援軍を求めた。
それなのに。
「なんで……?
なんで援軍が来ないんだ!!」
誰に聞くでもなく呟いた。
だが答えを知る者は、この場にはいなかった。




