第十九話 ゲインズ到着
ゲインズへ到着したのは翌日の昼だった。
「思ったより早かったな」
列車から降りながら俺は周囲を見回した。
兵士達の数は多い。
補給物資も十分に見える。
少なくともシャイローよりは恵まれていた。
「それで?」
俺はジョンを見る。
「病人はどこ?」
ジョンの顔は完全に軍医のそれになっていた
「案内してもらいましょう」
スミスが続く
出迎えに来ていた将校が苦い顔で頷いた。
「こちらです」
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しばらく歩く。
そして俺は言葉を失った。
「……おい」
テントが並んでいる。
その中には兵士達が寝かされていた。
咳。
うめき声。
熱で苦しそうな顔。
想像していた以上だった。
「これは酷いな」
思わず口から漏れる。
「ええ」
普段のふざけた様子は欠片もない。
「何人ぐらいだ?」
「正確な数はまだ分かりません」
案内役の将校が答える。
「ですが毎日増えています」
「毎日?」
「はい」
それは嫌な話だった。
ジョンはすぐに診察を始めた。
その横でジャックが周囲を見回している。
「どうした?」
俺が聞くとジャックは眉をひそめた。
「隔離が甘いですね」
「隔離?」
「病人と健康な兵士が近すぎます」
そう言うと近くの将校へ向き直る。
「病人用の区域を作ってください」
「ですが人手が……」
「今すぐです」
珍しく強い口調だった。
「飲み水も分けてください」
「水も?」
「同じ場所を使わせない方がいい」
将校は慌てて走っていった。
「お前いつから軍医になった?」
俺はジャックに聞いた。
「なってません」
即答だった。
「ですが病人と健康な人間を一緒にしてはいけないぐらいは分かります」
「そうなのか」
「ええ。仮にもジョンと一緒にいたんですよ
ある程度の事はわかります」
そういえば気になったことがあったので
この機会に俺は聞いてみることにした
「ジャックとジョンの関係性ってなんだ?」
「幼馴染ですが?」
さらにジャックは続ける
「同じ日本の村で育ったんですよ」
「そうか、なるほ……ど!?」
「ちょっと待て!?ジャックお前日本人だったのか?」
「ええそうですけど……言ってませんでしたっけ?」
幼馴染なのは聞いていたが、
日本生まれに関しては初耳だ。
「そういえば、ジョンが医師を目指した理由も
ついでに知りたいですか?」
「知りたい…。どうしてあんな性格になったのか!!
あんなマッド医者なんか見た事ないぞ!」
「ジョンは凄く優しい人間だったんです
怪我人とか病人がいたらすぐにでも駆けつけて・・・」
”私が彼らを助けるの!!”
「そう言ってすぐに患者の元へ走っていきました」
ジャックは続ける
「それがあったからでしょうね……」
ジャックは空を仰いだ
”新しい治療法とかが発見されたら
すぐにでも試さないといけない
これは患者を助けるためなんだ”
「それがアイツの考え……いや
『哲学』なんですよね」
ジャックは真顔だった。
「そうか……」
俺はただ一言そう呟いた
「なので将軍!!あいつの『哲学』を満たしてやるために
定期的に大怪我してください」
ジャックの目は輝いていた
「あの巨大な大砲で数十回打ち出されたら
その内大怪我をすると思いますから!!」
「ちょっと待て!!どうしてそうなる!?」
俺は思わず大声で突っ込んだ
「将軍!そんな事言わないでくださいよ
人助けだと思って協力してください!」
「人に怪我を強制させる手助けなんて
聞いたことねぇよ!」
「でも、そうしないとおそらく標的は
別の人間に向けられます。
実際自分も何度かやられましたから!!」
ジャックは続ける
「将軍なら多少の大怪我なら大丈夫です!」
「なんでそう言い切れるんだよ!!」
「だって!将軍ですから」
「理由になってねえ!!」
俺のジャックへの問答は小一時間ほど続いた
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ジョンは何人もの兵士を診察していた。
熱。
咳。
倦怠感。
症状は似ている。
だが――
「……おかしいわね」
ジョンが呟く。
「何か分かったのか?」
スミスが聞く
「まだ分からない」
そう言いながらも表情は暗い。
「ただ、思ったより広がるのが早い」
「まずいのか?」
スミスの顔が暗くなる
「まずいわね」
ジョンは素直に答えた。
「かなり」
その言葉に周囲の空気が重くなる。
しかし。
その時だった。
遠くから誰かが走って来る。
「報告!!」
伝令だった。
顔色が悪い。
嫌な予感しかしない。
「どうした?」
スミスが聞く。
伝令は息を切らしながら叫んだ。
「南軍です!」
全員が固まる。
「……は?」
俺は思わず聞き返した。
「南軍主力を確認!」
「いや待て」
意味が分からない。
「なんで?」
俺達は疫病調査で来たんだぞ。
伝令はさらに叫ぶ。
「敵軍、こちらへ進軍中!!」
その瞬間。
テントの外が騒がしくなった。
鐘が鳴る。
兵士達が走り出す。
叫び声が飛び交う。
そして俺は悟った。
どうやら隠居生活どころではないらしい。




