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『世界史赤点の俺。なぜか南北戦争の将軍になってしまった件』  作者: 西住
第一部 南北戦争に飛ばされた俺

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第二話「サイン・コサイン・サンシャイン」

「軽症者は出て行ってくれ」


 軍医にそう言われ、俺は半ば追い出されるように病棟を出た。


 外に出た瞬間、鼻を突く火薬の匂いが広がっていた。


 遠くでは砲声。


 近くでは怒号。


 そこら中を兵士が走り回っていた。


「……夢じゃないのかよ」


 思わず呟く。


 だが頬をつねっても痛いだけだった。


『当然だ』


「うわぁっ!?」


 突然、頭の中に声が響いた。


 周囲の兵士が一斉にこっちを見る。


 やばい。声に出てた。


『騒ぐな。恥ずかしい』


「お前ぇぇぇ!?」


 聞き覚えのある声だった。


 教室で俺をぶっ飛ばした張本人。


『聞こえるか?』


「聞こえてるよ! 何だこれ!?」


『直接お前の脳に話しかけてる』


「もっと他に説明の仕方あっただろ!」


『お前、日本史だけは妙に成績良かったよな?』


「……だから?」


『現地の空気を感じると覚えやすいタイプなんだろ』


「だから飛ばしたのか!?」


『うむ』


「うむじゃねえ!!」


 こいつ、本気で言ってるのか?


「俺、アメリカとか全然知らないんだけど!?

 何で南北戦争を体験する流れになるんだよ!」


『安心しろ。翻訳用に守護霊をつけといた』


「は?」


『一応意味は通じる』


「一応!?」


『ただ全部を完璧に翻訳するのは無理らしい』


「いやそこ一番大事だろ!」


『あとナビゲーターもいる』


「誰だよそれ」


『ジャックとジョンだ』


 そこで一瞬、友人の声が止まった。


『それと——』


「?」


『その世界で戦死したら、こっちでも死ぬから』


「…………は?」


 頭が真っ白になった。


『じゃ、頑張れ』


「待て待て待て待てぇぇぇ!!」


 通信は切れた。


「ふざけんな……

 最後に爆弾投げて帰りやがった……」


「おーい! 新入り!」


 今度は現実の声だった。


 振り返ると、一人の兵士がこちらへ歩いてくる。


 アジア系。


 というかどう見ても日本人だった。


「……日本人?」


「お、通じるのか!」


 男は嬉しそうに笑った。


「助かった! こっちじゃ日本語がほとんど通じねえんだよ!」


「当たり前だろ!」


 思わずツッコむ。


 「ん?ちょっと待て」


 「どうした」


 「お前日本語通じないって言ってたけど

  通じる事があったのか?」


 「ああそのことか」


 そういうとこの男は先ほど俺がいた

 病院を指さした


 「あそこに軍医がいただろう?

 あれは俺の幼馴染でな

 名前はジョンっていうんだ」


 「聞こえているぞ

 さっさと行ってこい

 速くしないと小隊長がうるさいぞ」


 なるほど。


 その二人が例のナビゲーターか。


「まあ細けえ事は気にするな!」


 気にしろ。


「お前、新入りだろ? なら訓練場行くぞ」


「訓練?」


「この戦場じゃ、銃撃つだけでも才能だからな」


 その時だった。


「おいジャック! さっさと来い!」


 怒鳴り声と共に、大柄な男が現れた。


 青い軍服。


 髭。


 そしてやたらテンションが高い。


「祖国のために走れぇぇぇ!!」


「うるさっ」


 男はこっちを見るなり笑った。


「新入りか! いい目をしてるな!」


 全然嬉しくない。


「俺はスミス小隊長だ!」


 そう言って肩を叩いてくる。


 痛い。


「ここじゃ止まった奴から死ぬ! 分かったら走れ!」


「はい……」


 目だけが笑っていなかった。


 訓練場には、大砲とマスケット銃が並んでいた。


 兵士達が苦戦している。


「当たらねえ!」


「距離が合ってないんだ!」


「標的が動いてると弾が届く前に逃げられちまう!」


 見ると、砲弾が全然違う方向へ飛んでいた。


「いや、それ角度悪いだろ」


「角度?」


 スミス小隊長が反応した。


「二次関数とサイン・コサイン・タンジェント使えば——」


「サイン?コカイン?サンシャイン?」


 ジャックは真顔で聞き返してきた


「何でそうなるんだよ!」


 勢いで地面に図を書き始める。


「こう飛ぶんだよ。放物線。

 だからこの角度で撃てば——」


「お前……何者だ?」


「いや、中学で習うだろこれ……」


 だが誰一人理解していなかった。


「……撃てぇぇぇ!!」


 ドォン!!


 砲弾は綺麗な弧を描き——


 遠くの標的へ直撃した。


 一瞬、静寂。


 そして。


「当たったぁぁぁぁ!!」


 兵士達が叫び出した。


「すげぇ!!」


「何者だお前!?」


「天才だ!?」


「違う違う違う!」


 さらに俺は言ってしまった。


「そういえば、敵を誘い込んで囲むってのもありだよな?」


「囲む……?」


「島津の釣り野伏せみたいに」


 全員が黙る。


 スミス小隊長が震える声で呟いた。


「……敵を後退に見せかけ、包囲殲滅する戦術か」


「え?」


「恐ろしい……!」


「いや独り言なんだけど」


 周囲の空気が変わっていた。


 兵士達が、尊敬の目でこちらを見ている。


 嫌な予感がした。


 ものすごく嫌な予感が。


 その時だった。


「誰だ!!」


 奥から軍服姿の男達が走ってくる。


「大砲の修正をしたのは!」


 全員が、一斉に俺を指差した。


「お前か!!」


「違います!!」


「素晴らしい!!」


「話を聞けぇぇぇ!!」


 数分後。


「本部の決定だ」


「……はい?」


「君には前線指揮を任せたい」


「嫌です」


「安心しろ。臨時将軍待遇だ」


「何一つ安心できねえ!!」


「期待しているぞ、将軍」


「待て待て待て待て待てぇぇぇ!!」


 誰も待ってくれなかった。


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