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『世界史赤点の俺。なぜか南北戦争の将軍になってしまった件』  作者: 西住
第一部 南北戦争に飛ばされた俺

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第十七話 東部戦線

 シャイローを離れて数日。


 俺達は首都へ向かう列車に揺られていた。


「いやぁ、まさか本当に栄転とはなぁ」


 窓の外を眺めながら俺は呟いた。


 思い返せばシャイロー赴任時は散々だった。


 野砲は少ない。


 塹壕は浅い。


 物資も不足気味。


 どう考えても左遷先だった。


 それが今では首都勤務である。


 人生何が起こるか分からない。


「将軍」


 向かいに座るジャックが声を掛けてきた。


「なんだ?」


「本当に栄転だと思っているのですか?」


「思ってるが?」


 即答だった。


 ジャックは隣のスミスを見る。


 スミスはため息を吐いた。


 ジョンに至っては頭を抱えている。


 なんだこいつら。


「将軍」


 今度はジョンが口を開いた。


「例の命令書、全部読みました?」


「読んだぞ」


「本当に全部?」


「だから読んだって」


 三人は顔を見合わせた。


 嫌な予感がした。


「将軍」


 ジャックが机の上の封筒を指差した。


「裏です」


「裏?」


 俺は封筒をひっくり返した。


 すると小さな文字で何かが書いてある。


「なんだこれ」


 今まで気付かなかった。


 俺は読み始める。


 そして――


「え?」


 思わず声が出た。


 もう一度読む。


 やっぱり同じ事が書いてある。


「え?」


 もう一回読む。


 やっぱり変わらない。


「将軍?」


 ジャックが聞いてくる。


「ちょっと待て」


 俺は慌てて文章を読み返した。


 そこには今回の移動理由が書かれていた。


 ・シャイロー方面への物資不足は意図的なものだったこと。

 ・西部軍と東部軍による挟撃作戦が予定されていたこと。

 ・そしてシャイローでの戦闘結果を受け、作戦の再検討を行うこと。

 ・そのため俺達は一時的に東部戦線へ移動させること。


 そんな内容だった。


「いや待て」


 俺は顔を上げた。


「なんで?」


 三人は黙っている。


「いや本当に何で?」


 俺は命令書を振った。


「俺、無茶苦茶頑張ったよな?」


「頑張りましたね」


 ジョンが頷く。


「寡兵で敵を追い返したよな?」


「追い返しましたな」


 スミスも頷く。


「勝ったよな?」


「勝ちました」


 ジャックまで頷く。


「じゃあ何でこうなるんだよ!?」


 三人はまた顔を見合わせた。


 そしてスミスが口を開く。


「将軍だからですよ」


「意味が分からん」


「首脳陣は将軍を高く評価しております」


「え?そうなの?」


『そりゃあこんだけ部隊で慕われていればね』


 守護霊が呆れたように呟く。


「その将軍が追加の砲や鳥を要求した」


「大砲に関しては俺じゃなくてジャックだけどな!!」


 スミスは続ける。


「つまり現在の計画に問題があると判断したのでしょう」


「は?」


 思わず大声を出した


「そんな大層な話じゃないぞ?

 ただ通信に問題があるから、鳥を増やしてくれって言っただけだ。

 それで計画が中止って聞いてないぞ?」


「ですが首脳陣はそうは思わなかったのでしょうな」


「マジかよ」


 頭が痛くなってきた。


「それに」


 ジャックが言った。


「将軍はシャイローで結果を出してしまいました」


「出したな」


「だからこそです」


「だから何なんだよ」


「将軍の言葉には重みがあるのです」


 全然嬉しくない。


 むしろ怖い。


「そういえば……」

 

 俺は疑問に思ってたことを口に出した


「どうしました?」


 ジョンが聞いてくる。


「計画って何だ?」


 その瞬間。


 三人が固まった。


「将軍?」


 ジャックが聞く。


「なんだ?」


「本当に知らないのですか?」


「知らん」


 三人が同時に頭を抱えた。


「なんでそこで頭を抱えるんだよ」


「では説明します」


 スミスが咳払いをした。


「元々、我々北軍は二方向からリッチモンドを攻撃する予定でした」


「リッチモンドって南軍の首都だったか?」


「その通りです」


 スミスが頷く。


「東部軍が正面から圧力をかけ、西部軍が別方向から進軍する」


「さっき言ってたな」


「そうです」


 なるほど。


 それなら分かる。


 昔の日本でもよく使われた手だ。


「そして将軍の部隊は、その西部軍の中でも特に期待されていました」


「なんで?」


「第一次ブルランです」


 ジャックが答えた。


「将軍の部隊は異常な速度で移動しました」


「ああ、あれか」


 あの時は本当に死ぬかと思った。

 兵士達には申し訳ないことをしたと思っている。


「首脳陣はあの機動力を高く評価していたのです」


「へぇ。中国大返しがね……」


「へぇ……ではありません」


 ジョンが呆れたように言った。


「普通の部隊には真似できません」


「そうなのか?」


「そうです」


 三人が同時に頷く。


 知らなかった。


 てっきりどこの部隊もやっているものだと思っていた。


『いや、普通の部隊はそんな速度で移動しないから』


 守護霊が言うんならそうなんだろうな

 俺はそう思うことにした


「だからシャイロー方面へ回されたのです」


「へ?どういう事?」


 スミスが続ける。


「将軍の中国大返しは極力物資を少なくすることで

 行軍スピードを著しくあげる……

 これでよろしかったですよね」


「ああそれで問題ないぞ」


 スミスは続ける


「つまりそのためには極力無駄な物資を

 シャイローへ回すわけにはいかなかったのです」

 

 ……その時俺はすべて理解した


 野砲の異常なまでの少なさ

 

 塹壕が無茶苦茶浅い理由


 戦闘物資が限界まで絞られていた理由


「もしかして……」


「ええ、そうです」


 スミスは俺に対してはっきりといった


「首脳部は中国大返しを使って

 リッチモンドを攻略する予定でした」


「しかし首脳部からしたら予定外の事が

 発生してしまった」


 次はジョンが俺との会話に入ってきた


「……南軍の攻撃」


「そう」


 ジョンは続ける


「しかしその予定外の事ですら将軍は

 打ち勝ってしまった」


「結果的にそうなっちまっただけだ」


「その上で鳥の増強と重砲の追加を要求しました」


「重砲はジャックだけどな!!!」


 ここだけは、はっきりとさせておかないといけない


「だから」


 三人が同時に言った。


「計画そのものを見直すことにしたのです」


「なんでそうなる」


 意味が分からない。


 俺はただ不便だったから言っただけだ。


「将軍」


 ジョンが真顔で言う。


「首脳陣から見れば、将軍は今や英雄です」


「やめろ」


「事実です」


「やめろ」


「シャイローの勝利は北軍全体を救いました」


「だからやめろって」


「ですので」


 ジョンはニッコリ笑った。


「将軍の何気ない一言が、軍全体の方針を変えるのです」


「責任が重い」


 思わず本音が漏れた。


『今さらね』


 守護霊が呟く。


 今さらと言われても困る。


 俺はそんな大層な人間じゃない。


「だから我々は東部戦線へ送られるわけです」


 ジャックが締めくくった。


「新しい作戦が決まるまでの待機ですな」


 スミスも頷く。


「要するに隠居ですね」


 ジョンが言った。


「おお!」


 俺は思わず立ち上がった。


「そういう事なら最高じゃないか!」


「戦争も無し!」

 危険な任務も無し!

 のんびり首都勤務!」


 戦場じゃないんだろ?


 だったら最高じゃないか。


 そう思っていた。


 この時までは。

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