第十二話 シャイロー前夜
数日後。
俺達はシャイローへ到着した。
そして最初に思った。
「やっぱり左遷じゃないか……」
思わず声が漏れる。
目の前に広がる陣地はお世辞にも立派とは言えなかった。
兵士は少ない。
塹壕も浅い。
砲兵も不足している。
補給物資も山積みとは程遠い。
「なんだこれ……」
俺は地図を見下ろした。
守る場所は広い。
だが兵士は足りない。
「とても防衛できる陣地じゃないぞ……」
『左遷かもしれないわね』
守護霊が余計なことを言う。
「やっぱりそう思う?」
『少なくとも栄転には見えないわ』
「だよなぁ……」
俺は頭を抱えた。
ブルランで勝手に撤退した結果がこれだ。
どう考えても左遷である。
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その夜。
雨が降り始めた。
最初は小雨だった。
だが時間が経つにつれ勢いを増していく。
やがて土砂降りになった。
兵士達は急いで天幕へ避難する。
だが俺は一人で雨の中に立っていた。
冷たい雨が制服を叩く。
どうでもよかった。
「無理だろ……」
思わず呟く。
「兵士は少ない」
「陣地は脆い」
「補給も怪しい」
「どうやって守るんだよ……」
誰に言うでもなく吐き出す。
雨音だけが返事をした。
『珍しく弱気ね』
「弱気にもなる」
俺は空を見上げた。
真っ黒な雲しか見えない。
「俺は将軍じゃないんだ」
『知ってる』
「軍隊の指揮なんて分からない」
『知ってる』
「帰りたい」
『それも知ってる』
守護霊は即答した。
少し腹が立つ。
「だったら何か言えよ」
『今さら逃げられない』
その言葉だけは重かった。
その時だった。
「将軍」
後ろから声が聞こえた。
ジャックだった。
「放っておいてくれ」
「嫌です」
即答だった。
「今は一人に――」
最後まで言えなかった。
次の瞬間。
ゴツン。
「痛っ!?」
額に衝撃が走った。
ジャックに思い切り頭を小突かれたのである。
「な、何するんだ!」
「目を覚ましてください」
珍しく真顔だった。
「将軍は何を落ち込んでいるんです?」
「何って……」
「一度負けたぐらいで」
「負けてない」
「では尚更です」
反論できなかった。
ジャックは続ける。
「将軍の命令一つで兵士が動く」
「……」
「何十万という北軍の命が、その判断にかかっている」
雨音の中でも、その言葉ははっきり聞こえた。
「責任が重い?」
「当たり前です」
「怖い?」
「当たり前です」
ジャックは一歩前に出た。
「ですが我々は将軍を信じています」
「……」
「少なくとも私は信じています」
言葉が出なかった。
こんな風に言われる資格なんてない。
それでも。
少しだけ胸の重さが軽くなった気がした。
「参ったな……」
俺は苦笑した。
「俺よりお前の方が将軍向きじゃないか」
「お断りします」
即答だった。
「責任が重そうなので」
「おい」
思わず笑ってしまった。
ジャックも少しだけ笑う。
雨はいつの間にか弱くなっていた。
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しばらくして。
雲が流れ始める。
雨が止んだ。
静かな夜だった。
まるで嵐の前の静けさのように。
「明日は晴れるかな」
俺は空を見上げた。
その瞬間。
パン――――
遠くの森から銃声が響いた。
たった一発。
だが妙に大きく聞こえた。
俺とジャックは同時に顔を上げる。
「敵襲か?」
周りは誰もその音を気にしていないようだった。
しかし俺は、ある日本の歴史を思い出していた。
大軍が油断し、
大雨の奇襲で崩壊した戦い。
「これ……絶対あれだよな」
俺は嫌な汗を拭った。
「すぐに準備しろ!!」
俺は自分の軍団だけに準備を命じた。




