雨の声(番外)
哒哒哒、哒哒哒……。
窓の外では、雨がかなり強く降っているみたい。
その音がそっと耳の奥に入り込んできて、足先まで少し冷たくなった気がした。
私は布団の中で小さく丸くなって、足をもう一度引っ込める。
「小野ちゃん……」
雨の音がさらに大きくなって、自分の声がかき消されてしまいそうだった。
「どうしたの? 雷、怖い?」
小野ちゃんはそう言いながら、少しだけ私のほうへ寄ってきた。
「ううん……」
首を振ったけど、体は自然と小野ちゃんの方へ寄ってしまう。
「小野ちゃん……」
返事はなかった。
窓の外では、ただ雨だけが激しく響いている。
「ねえ……あの子の話、聞かせてくれない?」
私はそっと寝返りを打って、小野ちゃんの顔を見つめた。
部屋は真っ暗で、でも小野ちゃんはきっと目を開けていた。
夜の中には、雨の音だけが広がっている。
「七奈ちゃん、聞きたいの?」
小野ちゃんの手が、やさしく私の頭を撫でた。
「うん……」
私は小さく頷いて、小野ちゃんにそっと抱きついた。
哒哒哒……。
窓の外では、まだ雨が好きなように降り続いている。
……
小野ちゃんの呼吸が、少しだけ深くなった。
「あの子はね、私が小さい頃に一番仲良しだった友達。千晴ちゃんっていうの」
「村の空き地でよく遊んでたし、たまに畑で虫を捕まえたりもしてた」
小野ちゃんはゆっくりと寝返りを打つ。
「お金を少しずつ出し合って、ラムネを一本買って、二人で分けて飲んだりしてたなぁ」
私は静かにその声を聞いていた。
きっとその頃の小野ちゃんは、すごく楽しそうに笑っていたんだと思う。
「千晴ちゃんの誕生日の日ね、私はおじいちゃんと一緒に町に行って、自分のお金でクマのぬいぐるみを買ったの」
「ちょっと高すぎるって怒られたけど……足りない分は、おじいちゃんが出してくれた」
そこまで言ったとき、小野ちゃんの声が少しだけ詰まった。
「小野ちゃん……大丈夫だよ」
私はそっと抱きしめながら、小さくそう言った。
窓の外では、風が空を引き裂くみたいに鳴っている。
……
「そのあと何年かして、おじいちゃんは医療事故で亡くなったの」
小野ちゃんは静かに息を吐いた。
「でもね、千晴ちゃんはそのぬいぐるみをずっと大事にしてくれてた。空き地で遊ぶときも、いつも持ってきてたんだ」
「……千晴ちゃんがいなくなった日も、私は午後に何して遊ぼうか、そればっかり考えてた」
雨の音が少しずつ弱くなっていく。
「あの日はおじいちゃんと町に買い物に行ってて、村に戻ったのはもう夕方近くだった」
「空き地に行ったけど、千晴ちゃんはいなくて……ずっと名前を呼んでた」
「そしたら、近くに住んでいたおばさんが、小さな箱を渡してくれて」
私は黙って聞いていた。
「あのとき、なんとなく嫌な予感がした」
「箱を開けたら、中に手紙とハンカチが入っていて……“千晴ちゃんは今日、ご両親と引っ越しました”って」
小野ちゃんの声が少しだけ震える。
「“ずっとあなたを待っていたのにね。最後は泣きながら連れて行かれたのよ”って聞いたとき、頭が真っ白になって……」
話し終えたあと、小野ちゃんは深く息を吐いた。
雨はまだ降っていたけれど、さっきよりずっと静かになっていた。
「小野ちゃん……よしよし。私がいるから、大丈夫だよ」
そう言いながら、私のまぶたも少しずつ重くなっていく。
眠りに落ちる直前、小野ちゃんが何か小さく呟いた気がした。
でもその前に、彼女はさっきより少しだけ強く、私を抱きしめていた。




