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まだ残っている香り

3月8日

昨日、兄さまが学校まで送ってくれたとき、


自転車のギアが耳元でずっと回っていて、ぶーんという音がしていた。


空の端には、最後の夕焼けが広がっていて、


その色はまるで血のようだった。


私は前で一生懸命ペダルをこいでいる兄さまの背中を見ながら、


抱きついていた腕を、少しだけ強くした。


そっと顔を兄さまの背中にうずめると、


そこからふわっといい香りがした。


自転車はゆっくりと校門の前で止まった。


私は軽く飛び降りる。


「ありがとう、兄さま。」


兄さまは笑った。


夕焼けの最後の光が、ちょうど彼の後ろに落ちていた。


「学校ではちゃんと自分のことを大事にするんだよ。


何かあったら電話して。」


「うん。」


「じゃあ、もう行きな。」


私はうなずいて、校門の方へ歩き出した。


「妹ちゃん、ちょっと待って。」


兄さまが小走りで近づいてくる。


私は振り返った。


兄さまは私の小さなショールを整えて、


肩の上でやさしく直してくれた。


「よし、これでいい。」


兄さまが服を整えてくれるのを見ながら、


私は両手を広げた。


「じゃあ、兄さまも、たまには会いに来てね。」


「いい子だ。早く戻りな。ルームメイトが心配するよ。」


兄さまは私を軽く抱きしめて、頭をなでてくれた。


「うん!」


私は大きくうなずいて、


ゆっくり校門へ歩いていった。


校門に入ってから、少し左へ歩き、


石柱の後ろに隠れてこっそり振り返ると、


兄さまはまだこちらを見ていた。


「ほら、早く帰りな。」


兄さまが手を振りながら言った。


私は慌てて顔を戻して、


少し足を速めた。


寮の部屋に戻ったとき、


顔にはまだ少し涙の跡が残っていた。


部屋は静かで、がらんとしていて、


小野たちはきっとご飯を食べに行ったのだろう。


私はゆっくりワンピースを脱ぎ、


洗濯機に入れる前に、


思わずもう一度手に取って匂いをかいでしまった。


お風呂の熱いお湯を浴びると、


体が一気にほどけていく。


目を閉じると、


頭の中は今日のことばかりだった。


今日の私は、


ちゃんとできていたかな……


お風呂から出ると、


湯気がふわっと部屋に広がって、


寮の中の冷たい空気を追い払った。


小野たち、もう帰ってきたみたい。


私は振り向いて部屋の中を見ると、


みんなが私を見ていた。


「え……ど、どうしたの?」


井上ちゃんが近づいてきて、


両手を私の肩に置いた。


「さっき校門で送ってくれた人、


あなたのお兄さんでしょ?」


「えっ……み、見てたの?」


鈴木がいたずらっぽく笑う。


「へへ、さっきご飯に行くとき、


ちょうど見ちゃったんだよ。」


「え……」


顔が一気に熱くなった。


小野ちゃんいわく、そのとき私の顔は真っ赤だったらしい。


もしかして、


兄さまが私の服を直してくれたのも見られてたのかな。


それとも、


こんなに大きくなったのに、


兄さまと抱き合ってたところまで……


そう考えると、


頭の中がぐちゃぐちゃになって、真っ白になった。


「どうしたの?大丈夫?」


井上ちゃんが鈴木ちゃんの後ろから顔を出して、


心配そうに聞く。


「だ、大丈夫……な、なにも……」


そのときは頭が真っ白で、


今思い出しても、そのあと何を話したのか全然覚えていない。


「お兄さんって普段この辺にいるの?」


「今日はどこに遊びに行ったの?」


「ねえねえ、さっき校門でさ……」


「やだ!……」


私は思わず大きな声を出してしまい、


小野たちはみんな笑い出した。


寮の電気は、


その笑い声の中で消えた。


私は布団の中にもぐり込み、


兄さまがくれたぬいぐるみを抱きしめながら、


そのまま眠りに落ちていった。


次の日の朝、


私はゆっくりベッドから降りた。


まだぐっすり眠っているみんなを見て、


こっそり頬をふくらませて、


一人で少し笑ってしまった。


私はベランダに出て、


外を眺めながらゆっくり歯を磨く。


頭の上に干してあるのは、


昨日出かけるときに着ていたあのワンピース。


私は顔を上げてそれを見た。


外から吹き込む風に、


スカートがふわりと揺れている。


そこからは、


まだかすかに、あのやさしい香りがしていた……

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