夕日の帰り道
3月7日
窓の外から、鳥のさえずりがガラス越しにゆっくりと耳に入り込んできた。
私はゆっくり目を開け、手探りでスマホを探す。
「……7時。よかった。」
心の中でそうつぶやき、そっとベッドから降りた。
寮の部屋には、鳥の声と扇風機の回る音だけが静かに響いている。
今日は、いつもよりずっと早く起きた。
太陽はのんびり空に浮かんでいて、日差しが体に当たっても、ほんのりあたたかいくらい。
私はベランダに立ち、少しずつ見慣れてきたけれど、まだどこかよそよそしい景色を眺めた。
「もう一週間も経ったんだ。」
心の中でそうつぶやく。
手に持った歯ブラシの動きも、いつの間にかゆっくりになっていた。
身支度を終えると、つま先でそっと部屋に戻る。
小野たちはまだ眠っていて、私は小さく息をついた。
部屋のドアを開けて外に出ようとして、ふと立ち止まる。
何かを思い出して、また静かに戻った。
クローゼットを開ける。
そこには、私が一着だけ丁寧に掛けておいた白いレースのワンピース。
それを手に取り、そっと浴室へ向かった。
着替えて出てきたあと、私はこっそりハンガーだけをクローゼットに戻し、ドアを開けて静かに外へ出た。
やわらかな日差しが地面に降り注ぐ。
私は地下鉄の駅へ向かって、ゆっくり歩き出した。
寮の管理人のおばさんは、きっとまだ起きたばかりなのだろう。
大きなあくびをしている。
運動場では、もう何人かがジョギングをしていた。
イヤホンをつけている人もいれば、タオルを手に巻いている人もいる。
私はのんびりと校内の道を歩きながら、景色を眺める。
気づけば、歩くスピードも少しずつ速くなっていた。
駅のホームに立ち、目の前のガラスに近づく。
「服……ちゃんと整ってるかな。」
そう思いながら待っていると、列車がゆっくりホームに入ってきた。
車内は思ったより人が多い。
おばあさんが孫の手を引いている。
きっと遊びに行くのだろう。
ネクタイを締めた大人たちもいる。
週末なのに仕事なんだろうか。早く休めるといいのに。
私は車両の真ん中に立ち、窓の外を眺めた。
景色は飛ぶように流れていくけれど、陽の光だけは静かに体の上に落ちている。
私は目を閉じる。
人の暮らしの音を、耳でそっと感じながら。
将来の私は、どんなふうになっているんだろう。
……まだ、わからない。
駅を出たころには、もう11時近くになっていた。
待ち合わせの駅の出口で、私はゆっくりと人の流れを見つめる。
スマホを両手で持ちながら、ときどき背伸びして中を覗き込む。
そして――
やっと、見つけた。
「お兄ちゃん、こっち!」
私は手を振って、その姿を呼んだ。
兄さまは声に気づき、階段を上がる足を少し速めた。
出口まで来ると、私はすぐ駆け寄り、彼の腕に抱きつく。
「兄さま!よかった。」
体をそっと彼の方へ寄せる。
「はいはい、ちゃんと来ただろ。」
兄さまはもう片方の手で、私の頭を軽く撫でた。
「そんなに待った?」
「ううん。」
私は顔を上げて答える。
でもスマホの画面には、もう12時に近い時間が表示されていた。
「この近くに歩行者通りがあるの。そこでご飯食べて、それから少し歩こうよ。」
「今日は君の案内に任せるよ、小さなガイドさん。」
私は一瞬固まり、顔を赤くして小さく頷いた。
レストランの中では、ナイフとフォークが触れ合う軽やかな音が響く。
人々の会話、店員の声、食器の音。
まるで小さなオーケストラみたいだった。
「ねえ、この服……似合う?」
私はフォークを止め、向かいの兄を見る。
「似合ってるよ。さっき駅で君が立って待ってたとき、すごくきれいだった。」
私はゆっくり顔を下げる。
フォークとナイフが少しぎこちなく動く。
顔が熱い。
「ほ、本当に……?」
何でもないふりをして、ステーキを一生懸命切った。
「うん。なんだか、すごく大人になったみたいだった。」
兄さまは笑いながら、小さく切った肉を私の皿に置いた。
「わ、私はもう子どもじゃないもん。」
私は顔を上げて、笑った。
食事のあと、私は兄さまの手を引いて街を歩いた。
今度は、私が彼を連れていく番。
ここまで書いていると、また少し心臓が速くなる気がする。
私たちは街をあてもなく歩いた。
時間は砂時計の砂みたいに、静かに落ちていく。
「向こうに行こうか。あそこの抹茶、おいしいんだ。」
ベンチに座る私に、兄さまが言った。
「え……兄さま、ここ来たことあるの?」
私は見上げた。
胸の中が少しだけ空っぽになる。
「うん。昔、君と来たことあるよ。」
「え?」
「そのとき君はまだ小さくてね。抱っこしてたら、あそこの屋台のいちご飴をずっと見てたんだ。」
兄さまは笑いながら座った。
「手を伸ばしてたから、一本買って渡したんだよ。」
私は黙って聞く。
「でも今日は、妹ちゃんのおかげでもう一度この街を知れた。」
私はそっと兄さまの肩に寄りかかる。
手のひらを、彼の手の上に重ねた。
「じゃあ……わたし……」
言葉が、うまく出てこない。
「ここで少し休もう。」
兄さまは私の頭を撫でながら言った。
でも、どんな一日にも、いつか終わりが来る。
夕日が空を赤く染めていく。
兄さまはレンタルした自転車を押しながら、私を学校の近くまで送ってくれた。
歩道橋を上るとき、兄は自転車を押して登る。
夕日が彼の背中に当たっていた。
私はその背中を見ながら、そっと手を後ろに回し――
一緒に、自転車を押し始めた。
いつもそばで読んでくれて、本当にありがとうございます。
初めて投稿したとき、私はずっと考えていました。
「うまくできているのかな」「誰も読んでくれなかったらどうしよう」って。
でも毎日、そっと画面を開くたびに、
いつも何人かが読んでくれているのを見つけて、
そのたびに心がぽかぽかと温かくなりました。
私はまだ人生の経験も足りなくて、
うまく書けないことも多いと思います。
それでも、これからも頑張って書いていきたいと思います。
本当に、ありがとうございます。




