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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
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074 みんなでかえろー~はかばーがいいっ~


「ふーむ……」


森の昼下がり。


テント内でお師さまが、一通り話を聞いて腕を組もうとする。

その動きが余りにも遅いので、夕凪の眉間にしわが寄っていた。


霧乃は、お師さまのローブから零れる白い砂を眺めている。

お師さまが腕を組みおわり、夕凪に話しかける。


「もう一度、確認させてくれるかい?

らくーちという方が、黒く萌える……いや、尻尾の主という事かな?」

「そーだよ」


「それを君たちが、動かしていたと?」


そこで、夕凪も腕を組んでこたえる。


「らくーちが、ねたからね。そのあと、うーなぎも、ねたけど……」

「君は、北の山で生まれたんだね」

「そーそー、あなの中」


「ふむ……いや大変ためになった。

よく来てくれたね、らくーち殿のこども諸君。

私は、君たちに会えてとても嬉しいよ」


「うれしいの? へへへ……」


夕凪は、お師さまに嬉しいと言われて嬉しくなった。

尻尾を、パタパタとふり始める。


霧乃も豆福を抱きながら、もじもじして尻尾を動かし、朱儀もニンマリした。

お師さまは、ゆっくりとうなずく。


「いま、らくーち殿が黒い尻尾を出していないと言うならば、ぜひお会いしたいものだ。

ここから西に居ると言うなら、向かっても北の影響はそれほど出ないだろう」


そこで、ゆっくりと天を仰いだ。


「しかしな……この通り、私は今ここから一歩も動けないのだよ。残念だ」


しょんぼりするお師さまを見て、チヒロラもしょんぼりしてしまう。

すると先ほどから零れる砂を見ていた霧乃が、お師さまにたずねる。


「でもさ、おしさま、あそこから、どうやってきたの?」

「ん? あそことは何処かな?」

「え? あそこだよ、あそこ」


子供と話していると、自分の知っていることを、相手も当然知っていると言う前提で話してくる。

なので、根気よく聞くのがいい。


「そこを、くわしくっ」

 

お師さまが身を乗り出すと、砂がゆっくりと零れだした。




――霧乃からくわしく話を聞き終わり、お師さまが笑う。


「はははっ、なるほどな。

いやいや私は、そこから来たのではないんだよ」

「えっ、ちがうの!?」


ポカンとした霧乃に、お師さまはうなずく。

そして納得したようすで、つぶやいた。


「ふむ、やはりあるのか……」


チヒロラが、お師さまにたずねる。


「お師さま、それって前にお話ししてくれた、あれですよねっ」


チヒロラの体が、一回だけぴょんとする。


「ああそうだね、恐らくそこは墓場だろう」

「はかば?」


霧乃は聞きなれぬ言葉を、オウム返しする。


「ふむ、墓場とは少し違うかもしれないがね。

アンデッドの中でも知能の無いものは、自己崩壊も恐れず突き進んでしまうのだよ。


だから中心地へ至るどこかの地点で、大量のアンデッドが崩壊して、堆積した場所があるんじゃないかと思っていたのさ」


見ると霧乃が、眉毛を八の字にしている。

あれ? ちょっと説明が長かったかな?

そう思ったお師さまは、言い直す。


「バカな骨は、粉になっちゃうんだ。

それが一杯たまっている所を、墓場って呼びたいなあと思ったんだ。どうかね?」


霧乃の顔が、パッと明るくなった。


「へー、いいよっ」


今の説明で霧乃は納得してくれたらしく、お師さまは満足する。

そこへ、夕凪が割って入った。


「はかばーがいいっ、のばすと、カッコいい!」


「まあ、呼び方は何でも良いのだが。

しかし墓場……いや、はかばーに未だ多くのアンデッドが、形も崩れず残っているのは興味深い」


お師さまは、首をゆっくりふった。


「ああ、残念だよ。

今の話を聞いて益々、らくーち殿にお会いしたくなった」


少しうつむくお師さまを、チヒロラが気遣う。


「お師さま……」


チヒロラは、優しいお師さまに恩返しがしたい。

いつもそう思っていたので、こういう時こそ役に立ちたいのだった。


なのにチヒロラは、どうしたら良いのか分からない。

チヒロラが悲しくなってキュッと目を瞑ると、夕凪がお師さまを指差した。


「これ、みんなで、もってっちゃう?」


それを聞き、しばらくポカンとしたチヒロラの顔が、パッと輝く。


「あーっ、それです、それですーっ」


外に出て、三角テントの隅をそれぞれで持つ。

霧乃がひとつ。

夕凪がひとつ。

最後の隅を、朱儀とチヒロラがもった。


「いくよーっ、いっせーのーっ」


夕凪のかけ声で、三角テントを神輿のように持ちあげる。

思ったよりも全然軽かった。


お師さまなど体は大きいが、中身は骨だけなのでとても軽いのだ。

下の面がちょっとたわむけれど、問題ない。

ただ、テント内からお師さまの声がする。


「あの、これは不味くないかね?

おとなを幼子に運ばせるなど、何だか私が幼女虐た……」

「いくよ!」

「「「おーっ!」」」


即席の神輿が、森の中を揺れながら進んでいく。


その後ろを、豆福をくわえた松永が音もなく付いてきた。

仲間はずれにされて拗ねているかと思ったら、そうでもないようだ。


松永がくわえていると、何だか食事中に見えなくもない。


豆福は、ぐったりしていた。

ただそれは寝ているだけであり、決してかみ殺された訳ではないのだ。


そうとは分かっていても、チヒロラは、チラチラと振り返り青ざめる。

しかしその内、御輿を担ぐのに夢中になってしまった。


「よいしょっ、よいしょっ」


チヒロラの声が、軽やかに弾む。





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