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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
73/683

073 みんなでかえろー~テント内はもうギュウギュウ~


「えっ、えっ、えっ、じゃあ見ましたか!? 

あの黒くて大きくて、うねうねして、大きいのをっ」


肉眼で見たことがないので、言い方が大雑把だ。


チヒロラは、大きいを二回いうほど興奮していた。

見たのならば、ぜひ話を聞かせてほしい。

聞かれた霧乃が、ちょっと考える。


「あーそれ、らくーちの、しっぽだ」

「らくーちのしっぽって、言うんですか!」


チヒロラが大変に興奮して、ぴょんぴょん飛び跳ね出したので、霧乃と夕凪はポカンとし、朱儀は面白そうだから真似をした。


豆福は、すやすや中である。

霧乃と夕凪が、顔を見合わせる。


「あれ、うごかすの、たいへんなんだ。

なー、うーなぎ」

「なー、おもいんだよな」


霧乃と夕凪はただボヤいただけだが、その言葉はチヒロラの頭を大変に混乱させた。


「えっ、えっ、えっ!? それどういう事ですか!?」


チヒロラが余りにも聞きたがるので、霧乃と夕凪は交互に話し始める。

あれは自分たちが、動かしていたこと。

岩のでっかいのを、やっつけたこと。


「だーくなんとかが、いっぱい来たの」


霧乃がそう言うと、夕凪がうなずく。


「だから、いっぱいコロシた」

「そしたらね」

「なー」


「「もりが、めちゃくちゃに、なっちゃった」」


あれはまずかったと、霧乃と夕凪は苦笑いする。


「あははーっ」


聞いていた朱儀が、笑って何度もうなずいていた。

淡々と語る二人とは対象的に、チヒロラは驚きの連続だった。


「えーっ、えーっ、ええええっ!」


自分はとんでもない人たちと、お友達になったのではないか?

チヒロラは、震える指先をギュッと握りしめた。

それは、恐怖からの震えではない。


この人たちは強い。

そして匂いを嗅ぎ合ったとき、自分はこの人たちと一緒だとも感じている。

 

それらの認識が絵本ばかり見て育った、小さな鬼の内側を刺激した。


まだ幼いチヒロラは、自分の中で湧き上がる情動に無自覚だったが、自然と口のはしが上がり笑みを浮かべている。


「皆さんが、黒いうねうねだったんですねっ!」


霧乃が首をふる。


「ちがうよ、それは、らくーちだよ」

「らくーちさんっ!」


チヒロラは、まだ見ぬ「らくーちさん」へ想いを馳せるのだった。



    *  



チヒロラは散歩程度の気分だったので、それほど遠くへは来ていない。

すぐに、お師さまの籠るテントが見えた。

チヒロラは、見えた途端に駆け出す。


「お師さまーっ、お師さまーっ!」


テント入り口のスリットをめくり、中へ飛び込んだ。

テント内で、ローブにくるまっているエルダーリッチを強く揺さぶった。


「お師さまおきてっ、ねえおきてっ!」

「ふが……」


テントの外から、霧乃の声がする。


「ねーっ、何これっ? なに?」

「どうぞ、入ってきて下さいっ、この……お師さまおきてっ」


霧乃たちが、恐る恐るテント内へ入ってきた。


「ふわ、何かくらいっ」

「あな? ねえこれ、あななの?」

「ふわー」


霧乃たちは、初めて見る「建物」にビックリした。

今まで屋根のついたものなんて、見たことがなかったのだ。


おっかなびっくりである。

あなだこれ、あなだね、と三人で話しながらキョロキョロしていた。


簡易テントは、あまり広くはない。

ローブを何枚も羽織り、着ぶくれしたエルダーリッチだけで、ほとんどのスペースを占めてしまう。


そこへチヒロラと霧乃たちが入ってくるので、テント内はもうギュウギュウだ。

更に松永も入ろうとする。


「「「「ええーっ」」」」


チヒロラが、泣きそうな声をだした。


「あーっ、まーなかさん無理ですっ。テントが、こわれちゃいますー」


皆で、松永を押し返した。

霧乃は豆福を抱いているので、戦力外だ。


「みんな、がんばってー」


松永のパワーは、並大抵ではない。

白狐一人と、鬼子二人の三人でもってしても、そうそう押し返せるものではなかった。

チヒロラの顔が、真っ赤になる。


「ふぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛っ」


その騒ぎと、テント全体が激しく揺れたため、エルダーリッチが急速に覚醒する。


「ん?」


そうして、やっと松永を押し返した四人――ひとり応援――が、外から戻ってきた。


「みんな、おつかれさまー」


「はあはあっ」

「ふうふうっ」

「ぜいぜいっ」


皆、松永との押し合いで汗だくだ。

そんな子供たちに、吞気な声がかかる。


「おー、チヒロラじゃないか。ん? この子たちは?」

「むー」


チヒロラは最初の興奮がどこかへ吹き飛んでしまい、お師さまをつい恨めしそうに見つめてしまった。





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