第11話:煉獄の巨人(ギガンテス)の咆哮
ボス部屋の扉を押し開いた瞬間、空気が変わった。
奈落の第1層とはまったく異なる重さが肌を押しつぶし、冷たい風が頬を撫で、岩肌の壁が低く唸り続け、まるで部屋そのものが生きているかのような圧力が全身を包み込んだ。
薄暗い空間の奥に、巨大な影がゆっくりと動いた。
その影は、ただの魔物ではなかった。
天井に届くほどの巨体、岩盤のような皮膚、山脈のように盛り上がった筋肉、腕を振るだけで暴風が起きるほどの質量。
A級パーティが全滅するという噂は誇張ではなく、むしろ控えめですらあると理解できるほどの存在感だった。
巨体がゆっくりと顔を上げた。
赤い光を宿した瞳がこちらを捉えた瞬間、空気が震え、床が軋み、部屋全体が巨人の呼吸に合わせて揺れた。
その視線は、獲物を見つけた捕食者のそれであり、逃げるという選択肢を最初から奪うほどの圧力を持っていた。
巨人が一歩踏み出した。
その一歩だけで地面が沈み、岩壁が震え、粉塵が舞い上がり、部屋の空気が重く沈んだ。
巨体が動くたびに風が生まれ、体が自然と後退しそうになるほどの威圧が押し寄せた。
そして巨人は、迷いなく腕を振り上げた。
その腕は、岩盤を砕き、地形を変えるほどの質量を持つ死の塊だった。
天井に届くほどの長い腕がゆっくりと上がり、影が広がり、視界が暗く沈んだ。
大質量の一撃が、真上から振り下ろされる。
空気が裂け、風が唸り、床が悲鳴を上げ、影が覆いかぶさり、逃げるという選択肢すら奪われるほどの速度と質量が迫ってきた。
その瞬間、死が目前に迫っているという理解が脳内を支配し、呼吸が浅くなり、視界の端が暗く沈んだ。
視聴者数は一気に「3000」へ跳ね上がった。
画面の下部が白い文字で埋まり続け、コメント欄が爆発したように流れ続けた。
「おい巨人だぞ巨人!」
「終わった終わった終わった」
「ジャージでギガンテスと戦うな!」
「これ本当に生配信かよ!」
視聴者たちは状況を理解できず、ただ巨人の一撃が降りかかるという事実だけを捉えて混乱し続けた。
その熱量は、奈落の狼が塵へと砕け散った瞬間の静けさを逆に不気味なほど鮮明に思い出させ、今の危機がどれほど異常なのかを強く意識させた。
コメント欄は止まらず、白い文字が画面を埋め尽くし、視聴者の叫びがスマホ越しに押し寄せ続けた。
その中で、ひとりの視線が画面に釘付けになっていた。
元事務所の先輩配信者──シオン。
美少女として人気を持ち、トップクラスの視聴者数を誇る彼女は、偶然この配信を見つけた。
最初は興味半分で覗いただけだった。
だが、画面に映る巨人の一撃を受けようとしている底辺配信者を見た瞬間、
シオンの表情は固まり、息を飲み、椅子から立ち上がるほどの衝撃を受けた。
その瞳は驚愕と混乱で揺れ、画面から目を離せなくなっていた。
「……なんであいつが、あの場所に……?」
その声は震えていた。
巨人の影が広がり、死の瞬間が迫る中、シオンの視線は画面に吸い寄せられたままだった。
巨人の一撃が、ついに降り下ろされる。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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