宗像大社、髪の長い少女
主人公と共に、訳がわからないままを楽しみたい人、
気楽に読みたい人は、スルーされてください。
少女たちの視点となります。
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小さい頃から、うーちゃんとはずっと一緒だった。
そんなうーちゃんが泣いているのを見かけては、一緒に泣いていた。
ある時から、うーちゃんは凄く頑張る泣かない子になっていった。
ずっと一緒にいたけど、ずっと頑張るうーちゃんを見ていて、疲れてしまわないか心配だった。
気がつけば、いろんな人に頼られるようになったうーちゃん。
ずっと一緒にいてくれたけど、凄く、寂しかった。
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お父さんは、海に関わる仕事をしていた。
周りの大人にも頼られる、信心深くて、立派な人だった。
ただ、酔いすぎると、自分を誇張する発言が多くなり、手がつけられなかった。
ある時、そんな状態で人と揉めて、止めに入ったお母さんに手をあげた。
お母さんはそんなことがあっても、その場では平気な顔をして、原因であるお父さんすら安心させていた。
それから年をとるたびに、その回数が増えていった。
仕事が昼前までのことが多く、日中から飲んでいることがあった。
そんな時は、お母さんとよく出かけていた。
唯一、相談していたうーちゃんに勧められて、宗像大社へ行くことも多くなった。
お参りに行く頻度は増え、ただただ、家族を、お母さんを助けたい気持ちが積もっていった。
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お母さんがまた、怪我をした。
今日は一緒に外へ行くことはできなそうだった。
うーちゃんは、そんな私に、お参りに行こうと声をかけてくれた。
お母さんのそばにいてあげたかったけど、お母さんにも行くように勧められた。
宗像大社の本殿で参拝を終えた後、最近のうーちゃんでは考えられない行動を見て驚いた。
とても必死で、そしてこれが私のためだと感じた。
繋いでくれた手が、とても優しかったから。
いつもとは違う道順で、神宝館側の道から本殿をでる。
このまま行けば、第二宮、第三宮が見えてくる。
第二宮には思い入れが強い…沖津宮の田心姫神を祀る社で、海の仕事をするお父さんが特に大事にしていた神様だ。
お父さんのせいで、私も田心姫様が一番好きだった。
お父さんのせいで、ここへお参りに来ることが増えた。
お父さんのせいで、田心姫様へと向き合うことができなくなった。
私の手を引く速度が落ちたことを感じた時、うーちゃんの視線の先には知らないおじさんがいて、何とも言えない顔をして、第二宮、第三宮のある方へと入っていた。
二人の反応から、うーちゃんはこのおじさんを追いかけていた?よくわからない。
私たちからはまだ、第二宮、第三宮の入り口までは距離があった。
でも、私たちが入り口に着いた時に、そのおじさんもまだ入り口にいて、第三宮の方を見つめたまま立っていた。
ふと、私の頭に割り込むような感じで、思い起こさせられた。
私の手を引く直前、私越しに本殿を見つめていたうーちゃん。
第三宮を見つめて足を止めた、うーちゃんが追いかけていた変なおじさん。
二人に何か見えているのなら、私も…見たいです。お力をお借りしたいです。お母さんを助けてください。
おじさんの視線を追うときに視界に入っていたはずなのに気づかなかった。
今では第二宮と第三宮の間に、一人の女性が目に映っている。
私はその姿から目を逸らせず、時間が経つのを忘れてしまっていた。
うーちゃんの声で我に帰り、私は優しく握られたうーちゃんの手を名残惜しみながらほどき、手を合わせ、頭を下げた。
どうか…お母さんを助けてください。
優しい声が聞こえた気がした。
頭を上げた時、おじさんは私と神様の間を頭を下げながら横切っていった。
神様は、そんなおじさんへと手を向け続けていた。
こんな時だけど、ちょっと面白かった。
もう一度手を合わせて頭を下げた。
ありがとうございます。あなたは…田心姫様ですか?
ずっと信じてきた。
だからつい、失礼と思うよりも早く、聞いてしまった。
でも、また優しく肯定してもらえた気がした。
顔を上げると、田心姫神の姿は見えなくなっていた。
おじさんの姿を追うと、第三宮のお祈りを終えて、入り口に向かっていた。
目を合わせないようにしている仕草が、少し怪しい人に見える。
うーちゃんはそんな姿を見て怖がっている?
懐かしい姿を見た気がして、手を繋いだ。
うーちゃんが泣きそうな顔で私の顔を見た時、また私まで泣きそうだった。でもなぜか嬉しかった。
また、力をかしてね。うーちゃんの手を握った。
そばまで来たおじさんに向けて、精一杯の声を出した。
「じゃあ…カフェでも、行きませんか?」
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終始、人畜無害そうな仕草に、いろんな大人がいるんだな、とか思っていた。
カフェで注文した頃、お母さんから電話がかかってきた。
おばあちゃんが家に訪ねてきてくれて、あの怪我を見て病院へ連れて行かれたって。
病院では、それが暴力によるものだと判断されて、後押しもあって診断書を書いてもらったって。
被害届出すべきって言われたけど、でも、怖くて判断できないって。
聞きなれない言葉が並び、一気に不安な気持ちになった。
スマホから、おばあちゃんの声が聞こえてきて、説明を受けた。
お父さんと離れて、おばあちゃんの家で過ごす方が安全だって。
お父さんはもう、怖くないよって。
今は「お父さん」と聞こえるたびに怖くなる。
スマホから聞こえる声がお母さんの不安そうな声に変わった。
うーちゃん…頼るように振り返った時、おじさんの顔が目に入る。
困ったまま何もないところを見つめたままの顔が、ゆっくりと安心したような顔に変わり…急に引きつった。
「んふっ…」
怖い思いが吹き飛んだ時、田心姫様の姿が頭を染めた。
怯えなくていい、お母さんの笑顔がある、おばあちゃんの家で過ごす未来、希望が心を染めた。
「…一緒に、おばあちゃんの家に行けるんだね!」
お母さんには、おじさんの顔を見て笑った声まで聞こえていたようで、なによそんなに喜んで。私一人だけ真剣になってて、バカみたいじゃない、と明るい声が聞こえて、その声の奥からおばあちゃんの優しい笑い声が聞こえた。
通話が終わり、振り返ると、おじさんから目を背けて、凄い顔して笑っているうーちゃんと目が合った。
何?すごい可愛い。
簡単に、でもうーちゃんになら伝わるように話した。
うーちゃんと喜び合っている後ろで、
完全に解放されて、お餅と飲み物を楽しんでいるおじさんに癒される。
おじさんはお餅を食べ終えて、手を合わせると、一瞬こちらを見た。
うーちゃんからは見えていない。
おじさんは、うーちゃんだけが怖いみたいで、私には小さく手を振って帰っていった。
しばらくして、車のお祓い場で、お祓いをする神職さんと巫女さんの姿を眺めるおじさんが見えた。
あっ、近くに留めていた車に乗った。
うーちゃんに教えたら…面白いよね?
本作はフィクションです。
作中に描かれる神や出来事は、信仰や感じ方の一つの形を表現した創作です。
実在の宗教・信仰・人物とは関係なく、それらを否定・評価する意図はありません。




