宗像大社、田心姫神(前編)
軽い気持ちで取った行動が、良い結果に繋がった時。
だったら最初から本気で行ったら、もっと良い結果を生むんじゃないかなって。
そんな欲を出して良い結果に繋がったことは…今のところ無いんだよねぇ。
―――
午前9時20分。
俺は宗像にある神湊で、フェリーに乗っている。
船体には大きく"おおしま"と書かれている。
これから向かう島と同じ名前だ。
今日は連休の初日。
俺のいる階の椅子はすっかり人で埋まり、
立って海や陸を眺める人が多くいる。
思った以上に人気があるんだな。
甘くみていた俺は、もちろん立っている。
出発時間を過ぎても、釣り竿を持って歩いてくる客や、駆け込む客をゆったりと
受け入れる船を、揺れる甲板から眺めていた。
出航した船上から、引き続き、ぼーっと神湊側を眺めている。
雲も少なく快晴。穏やかな波にゆったり揺られて…少し酔った。
大島港に着いたフェリーの乗降口は、降りる人で混み合っていた。
降りる直前、搭乗する時と同じ乗務員の男性に、丁寧な挨拶を受けた。
こちらこそ、ありがとうございました。
―――
混雑するフェリー乗り場。
横に見える観光売店で、観光ガイドを手に入れる。
昔行った街の観光ガイドを部屋で不意に見かけた時、じっくりと読み返すのが好きだ。
マップ見てルート思い出してみたりしてね。
数年後の俺のために、是非とも我が家に来てくれ。
道中。海に近い休憩所と、猫を見かける。ねーっこ!
これは、あそこに腰掛けたら時間が溶けるぞ、とか考えが膨らむ時間もなく、あっという間に鳥居の前まで到着した。
ここは中津宮。湍津姫神が祀られている。
石段の上、本殿へ向けて一礼。お邪魔いたします。
中にもう一つある鳥居を潜り、橋を渡り、手水舎に着く。
柄杓を確認し、記憶にある参拝の作法を手繰る。
右手で柄杓を持ち、水を汲み、左手を清め、持ち替えて、
右手を清め、また持ち替えて、左手に水を溜め、口をすすぎ――
柄杓を立てて、柄杓の柄を清める、
「ヨシ!」(指差し)
俺は後ろにいた参拝客に気づいた。
すいません、ホント恥ずかしい。
―――
石段を登り、本殿前の門で一礼。
失礼致します。
宗像大社の第三宮。御分霊が祀られているお社でお見かけした時。
俺の意識を掻き分けるように存在が割り込んできた感覚。
違和感なく、そうであると認識したお姿。
中津宮の本殿に、あの時のお姿の湍津姫神を確認できた。
目の前の親子が本殿へ向けて一礼し、横へと下がっていく。
並んでいた俺は前に出て、お賽銭を納め、数歩下がり…目を伏せ前を見る。
緊張や震える感覚はない。ただ、そこに当然のように居られる。
二礼、二拍手
いつもお見守りいただきありがとうございます。
普段から気を付けていたことが、よりよく進むようになったと感じます。
今後も邁進致します。道に迷わぬよう、お見守りください。
一礼。
…うむ…
余韻を引きずり、いつもより少し長く、頭を下げたままでいた。
―――
参拝を終えた後から、湍津姫神のお姿をお見かけしていない。
おみくじのある一画。引いたおみくじを読むために椅子に腰かける。吉。
いや、本当の目的はこれではなく、もう一つの確認。
参拝者が礼を行う様子を眺めるが、湍津姫神のお姿を認識しているのか判断がつかなかった。
…俺が幻覚を見てる説。あると思います。
あっ、大丈夫です。治さなくていいです。やめて
減るお酒の説明がつかないね。そうだね。
俺が飲んでいる説…それもう、ほとんどビョーキ!
アホな自分に見切りをつけ、一呼吸入れて椅子から立ち上がり、守札授与所へ向かう。
ここで初穂料を納め、水色の中津宮のお守りを1体、いただいた。
―――
守札授与所で手に入れた境内案内図と観光ガイドを眺めて、大島を知るには時間が足りないことに気付かされた。
現在時刻は12時前。
俺は縁起のいい名前のカフェテラスで、レモネードを飲んでいる。
あれから、弁財天を祀る厳島神社があると知り歩き出した。
広島の厳島神社は行ったことがあるため気になった。
弁財天は辺津宮、宗像大社の市杵島姫神の別名だ。
まぁ、有名だな。
…いや、俺は知りませんでしたよ?えっ、そうなん?七福神の?
イチキシマ、イツクシマと似ていたから同一視された説、諸説あるようだけど、何にしても尊いですし、どちらにも平等に敬意をはらいますぅ。
好奇心から意気揚々と歩き出したが、透き通る海辺や、鳥居のある島(夢の小夜島)、興味を惹かれては足を止め続けた俺は、ついに歩くのをやめた。
今日はもう無理。
13時のフェリーで帰る予定だったので、今の俺が大島で食事するなら、もうここ!
全俺の意見を聞くこともなく、セットメニューを頼んでから、今に至る。
バーガータイプのパンに魚のフライが刺さる感じの一品と対峙。
どう表現しよう?背びれを立てた魚?
見慣れぬ出で立ちに、しばらく食べ方に悩んだが、コレをお供えしたら、湍津姫様が俺と同じように悩まれるのかと想像する不敬の極み。
フライを横へ寝かせるようにかぶりつき、何事もなく食べ終える。
日差しもあって、海風も程よく、…レモネードのやんわりした酸味を感じていた。
―――
「次は大島に泊まる。それで間違いない!」
神湊港から宗像大社まで車で移動中。
ハンドルを握る俺は、次の予定を俺の中の俺たちと計画していた。
満場一致だった。
帰りのフェリーで名残惜しみながらガイドを読んでいた俺は、大島の北側に"沖津宮遥拝所"(おきつぐうようはいじょ)があることに気付く。
沖ノ島(沖津宮)へは立ち入ることができないため、この遥拝所から参拝を行うのだと知る。
…完全に見落としである。
あれこれ悔やみ終える間も無く見えてきた宗像大社。
曲がるとこ間違えて、裏?から駐車場に入ってしまい…そのまま車を停めた。
車を降りてすぐに違和感。ここ一帯だけ駐車枠が白でなくオレンジ色なのだ。
あっ、これ絶対に意味ありますよね?と、周囲を見渡すと”車祓い専用”と書かれていた。
慌てて車に戻り、正しい駐車枠へ収めようと移動させるが、白線に誘導されて出口に至ってしまった。
とことん何してるんだ俺は。
駐車場へ再入場後、本日は大鳥居から、お邪魔いたします。
おっ、この時間は入り口の休憩所が開いてる。後で来よう。
手水舎。手を清め、口をすすぐ。
神門越しに見る本殿は、本殿をより際立たせて、あぁ、素晴らしい。
それと同時に、参拝中の人々がぼんやりと視界に入る。
敷居を跨ぎ、参列に加わろうとした時、先頭の参拝者が横に下がらず、
突然ぐるりと振り返り、その目線が、俺と重なった。
本作はフィクションです。
作中に描かれる神や出来事は、信仰や感じ方の一つの形を表現した創作です。
実在の宗教・信仰・人物とは関係なく、それらを否定・評価する意図はありません。




