宗像大社、市杵島姫神
仕事が上手くいって気分が上がると、周囲に対して感謝を振りまいたりするでしょ?(しない?)
俺の場合、たとえば週末にだけお酒をお供えしてるんだけど、気分が上がっている時は曜日に関係なく、感謝の報告とお供えをすることがある。
…でも、これって上手くいってない時は、お供えがなくなる不安を煽る行為かなって…
感情での軽はずみな行動は、自重したほうがいい気がする。
―――
衝撃的なことが起きたはずなのに、全く関係ない夢を見て目を覚ました。
いや、どこから夢だったんだろう?
まだ友人達の寝息が聞こえる。
座った状態で、夢の続きと現実が入り混じっている感覚を楽しみながら、そのうち脳が現実に染まる。
おはようございます、本日も一日、よろしくお願いいたします。
囁くほどの声で、どこを向くわけでもなく手を合わせて礼をする。
広縁に向かうと、減った日本酒と、開けていないビールが置かれたままだった。
音を立てぬようにお猪口を洗い、あわせて日本酒と鞄へ詰めた。
誠也くんの寝息が聞こえないことに気付く。すまん、起こしたかなぁ?
着替えながら様子を見るが、起きる感じではなかった。
着替えなどの入った荷物は、前もって彼らにお願いしている。
身支度を終え、持ち歩く鞄を肩に掛ける。
「もう行くんね?」
誠也くんの声。やっぱ起こしてたか。
「すまん、起こしたね。行ってくるよ。…荷物よろしくぅ。」
「はいはい」
振り返って手を振るも、誠也くんは布団に潜っていて、顔も見えなかった。
―――
旅館の食事処で朝食をいただき、バス停へ向かう。
見知らぬ土地を歩くと、それが好きだったことを思い出す。
その辺に生えている木や花、そこにいる虫、
その時の空模様…目の前から遠くの景色まで、
ただじっくり見ていたくなる。
気がつくと、木や花の美しさに目も留めず、虫は苦手になり、雨や暑さを嫌い、時間に追われ…余裕をなくしていた。
「…歩こうかなぁ…?」
そして俺は、ちょうど到着したバスに逆らえず、そのまま乗り込んだ。
―――
バス停は、昨日くぐった大鳥居ではなく、二の鳥居近くにある。
今日はここから境内へお邪魔させていただく。
視界の右に映る休憩所は、まだ開いていない。
左を向き、二の鳥居から本殿へ一礼。
境内は、昨日の夕方とは雰囲気が全く違う…ように感じる。
太鼓橋を渡り、手水舎へ向かう途中、"宗像大社由緒"の文字が視界に入る。
昨日、三女神を教えてくれた情報板だ。
姉妹なのに…本殿の第一宮と、第二宮、第三宮が離れているのは、人間の感覚では寂しいよなぁ…。
手水舎で手を清め口をすすぎ、本殿へ向かう。
やはり神門越しに見る本殿は、凄いな。
語彙力が凄い人たちは何て表現するんだろう?
…聞いたら、ずっとその表現を我が物顔で使いそう。
第一宮の参拝を終える。
木々に囲まれた高宮参道を歩きながら、俺の中の俺たちに意見を募る。
「誠也くん達がいつ迎えにくるかわからない。当初の目的である高宮斎場に向かうべきだ!」
うむ、最善だ。
「摂末社は参らないの?」
うっ…考えてもなかったよ…
「境内には、まだめぐってないエリアあるよ?」
宿で地図見たよ…神宝館とか祈願殿とか…この時間は開いているかね?
「のどかわいたー」
あとでね。
よーし、じゃあまとめるね。
「第三宮に行く勇気がないから、高宮斎場に行く。」
全俺がゆっくりと頷いた。
―――
高宮斎場に続く階段を登りながら、昨日とは違う恐怖を感じていた。
ここから割と近くにある、宮地嶽神社と、そこから繋がる奥の宮八社の参拝は、
空腹で向かったせいか、石段と傾斜のコンビネーションにバテてしまった記憶がよみがえる。
奥の宮八社の入り口には参拝者のために杖が置かれており、それに手を伸ばしていれば、と後悔した。
石段を登る最中に、連なる木々が途切れ景色が見えた。
ここだけ何故か開けた空間で、舗装された道から外れているのもあり、そちらへは足を踏み出すのを躊躇った。
道の先を目で追うと、少し先が行き止まりであることを確認でき、安堵する。
高宮参道の最奥、行き止まりにある建物には、おみくじが置かれていた。
そして左を向くと…三女神が降臨したと言われる場所"高宮斎場"があった。
…ん?側にある高宮斎場の説明板には、降臨の件は書かれてないな、どこで見たんだ?
高宮斎場に向けて一段上がった場所から、お賽銭を納める。
ここは高宮参道で感じた空気から、また一段と変わる。
山の涼しさと言われれば、そうかもしれない。
でもなんかね、凄い。(語彙力)
丁寧に参拝を行う。
―――
高宮斎場の階段を下り終え、案内板の前に立つ。
スマホを取り出すが、ディスプレイには何の通知も表示されていない。
第二宮、第三宮のある一画への入り口は、向かって右側。
第三宮が一画の左奥にあり、このまま普通に向かうと、真っ先に視界に入ってしまう。
意図せず何かが目に映らぬよう、俯き加減で目を伏せて入り口まで歩く。
体が第二宮と第三宮の中央を向いたあたりで、ゆっくり頭を上げる。
「えっ?」
昨日お見かけした姿が予想と違い、その中央にあった。
思わず声に出し、あわてて目を伏せ、頭を下げる。
社のない空間に向けて礼をする俺は、異様に見えるのでは?
参拝客であろう人影が、俺のそばで立ち止まり、俺が礼をする先を見ているようだ。
別に聞かれた訳でもないのに、言い訳が頭を駆け巡る。
アレです、鳥居を潜る時に、お邪魔しますって礼するでしょう?
ココは一画の入り口なのでソレです。察して!
誤魔化すんだ、俺。第二宮への参拝を急ごう。
頭を上げた時、傾けた頭を戻しながら振り返った参拝客と目が合う。
妙にしっかりと、違和感を感じるほどに。
…そしてスマホが震えだす。
―――
第二宮、第三宮のある一画から、震えるスマホを持って離れる。
「あっ出た…熊先センセ、もうすぐ着きますよー。」
声は隆だ。ちなみに俺は先生じゃない。
「わかった、ありがとう。あと2箇所参ったら駐車場に行くよ。」
「あーいあーい。」
通話が切れる。
顔を上げると、第二宮、第三宮のある一画には参拝客の姿はない。
今です。
入り口から見える湍津姫神へ一礼し、第二宮へ向かう。
第二宮への参拝を終えると、第三宮に向かう際に湍津姫神の前を通ることになる。
湍津姫神へ向き直り…ここでは深々と一礼だけ行った。
ゆっくりと頭を上げ、第三宮へ向かう。
第三宮への参拝。二礼、二拍手――
「いつもお見守りいただきありがとうございます。
道に迷ったり、悩んだ際にはお力添えをお願いいたします。
私たちの道中をお見守りください。」
一礼。
……
頷いていただけたような、許容いただけたような、そんな空気を感じた。
鳥居を潜り、振り向いて礼をしたあと、湍津姫神のお姿はなかった。
本作はフィクションです。
作中に描かれる神や出来事は、信仰や感じ方の一つの形を表現した創作です。
実在の宗教・信仰・人物とは関係なく、それらを否定・評価する意図はありません。




