宗像大社、湍津姫神
漫画やゲーム、アニメもフワッと楽しむんだけど、
ダークファンタジー漫画に出てくる妖精の声を、ゲームで初めて聞いたとき。
主人公が世代交代する漫画の、右手で空間を削り取るキャラの声を、CMで聞いたとき。
あまりにもイメージそのままで、当たり前のように受け入れた自分に対して違和感を覚えたんだ。
―――
俺は第三宮で目に映った女性を前にして、考えることをやめていた。
ただただ反射的に、その場でもう一度、目を伏せ頭を下げた。
あっ、いかん、いかん。鳥居を出てお社へ向けて礼をしなければ。
自分をも誤魔化すように「あっ、忘れてた」的なリアクションをとり、鳥居を出て社へ向き直す。
丁寧に礼をして…目を伏せた状態で、そそくさと第三宮を後にした。
―――
誠也くんたちと合流するため、早足で高宮斎場へ向かう。
行き先案内板の通りならば片道5分。まだ彼らがここを往復し終えるほど、時間は経っていないはずだ。
歩きながら、手水舎で眺めていたスマホの情報や、案内板を見て思い描いたものを反芻する。
正しい情報ばかりではないと思うけど、作り上げた世界観やイメージから想像した姿と、あの女性の姿は――
「おー、熊さん。」
うわぁー!?
頭にあったものが吹っ飛んだ。誠也くんの声か。
定まらない視点が徐々に、友人を正しく映し出す。
高宮斎場から戻ってきていた彼らと、鉢合わせしていたようだ。まぁ当然だ。
誠也くんが、俺の顔を怪訝そうな顔で見つめる。
「…隆くんみたいな顔してるよ?」
どういう意味だ?
俺は隆と目を見合わせた。
誠也くんは、俺たちのそんな姿を見て笑っていた。
―――
他の参拝者も階段を下りてくる。
この位置に立ち止まると、ちょっと迷惑をかけてしまう道幅だ。
一旦は一緒に石段を下りながら、この後、彼らが第二宮、第三宮を参拝するのかを聞いた。
「えー、お参りー?メインだけで良いでしょ?」
隆は端から第一宮だけしか参らない予定だったようだ。
誠也くんも「俺も、いいかなー」と行かない方へ同意していた。
こうなると、今から俺だけ高宮斎場に向かうのは気が引ける。
というか、日も傾き出したこの時間に、一人でこの先に進むのが…今はちょっと心細い。
俺たちは駐車場へ向かい歩き出す。
「明日はチェックアウト前に、一人で高宮斎場にいくかな」
バスもあるようだし。
「ぃえー?マジでー?」
抑揚のない隆の声が返ってくるが、好きにすれば?程度の気持ちが乗せられている。
社務所がまだ開いていたため、初穂料を納め、俺は中津宮の神水守を選んだ。
んん?黄色なんですか?
なぜか頭にあった紫のイメージが置き換わっていく。
程なくして、俺たちは宗像大社の鳥居を出て、振り返り、礼をした。
お邪魔しました。
―――
宗像大社の駐車場からホテルまでの道中。
俺たちはコンビニに寄り、寝る前に楽しむためのお酒などを購入した。
ホテルに着き、車の中と変わらないグダグダな会話を楽しみながら、
風呂に入り、メシを食って、見もしないテレビをつけたままに、
敷かれた布団の上でスマホをいじっていた。
気がつくと、誠也くんから寝息が聞こえていた。
「んじゃー、俺も寝まっスわ。」
まだ買ってきた酒に手を付けてない事に気づき、誘おうとしたが、そういえば隆は酒を飲まない事を思い出した。
少し考えた末、肯定の言葉を出す前に寝息が聞こえてきた。スゲェな。
広縁側の小さな電気をつけ、友人達の眠る部屋の電気を消す。
良いタイミングだ、と、小さなテーブルの上に授かったお守りを置いた。
コンビニで買ったお猪口付きの日本酒を開け、お猪口を供え、酒を注ぐ。
「本日を無事に終えることができました。
お見守りいただきありがとうございました。」
目を伏せ、手を合わせ、頭を下げる。
ゆっくりと頭を上げた目線の先、小さな灯りに照らされた空間に、ぼんやりと何か見える。
暗い部屋で目を開けてると、何もないのにじんわりと視界に映る、あんな感じ。
まぁ、つかれていれば、よくあることだ、とビールに手を伸ばし…手が止まる。
ぼんやりと見えていたものが、ちょうどお供えした日本酒くらいの大きさで留まり、黄色い衣を纏い、座して両手で持ったお猪口を傾ける姿が目に映った。
…お酒、減るんだぁ…
その姿は何故か、第三宮で見た女性だと感じた。
あの時と違うのは衣の色と、大きさのせいか幼く見える姿。
俺は空いたお猪口を確認し、少し間を置き、静かに両手を添えてお酒を注ぐ仕草をする。
彼女は目線を俺の手元に移すと、お猪口を少し高く掲げてくださった。
ゆっくりと丁寧にお酒を注ぐ。
何度か繰り返すと、満足していただけたのか空いたお猪口をコトリ、と丁寧に置かれた。
スッと立ち上がると俺の顔を覗き、
……
声が聞こえた気がした。
その姿はゆっくりと、幻だったかのように、
小さな灯りの奥の闇に、馴染むように消えていった。
減った日本酒を覗き込み、「飲みすぎたかなぁ…」と声に出して、布団へ戻った。
本作はフィクションです。
作中に描かれる神や出来事は、信仰や感じ方の一つの形を表現した創作です。
実在の宗教・信仰・人物とは関係なく、それらを否定・評価する意図はありません。




