櫛田神社
同じ趣味に対して、知識の豊富な人物がいた。
最初は距離感もあってか、足りない部分を補う程度に助言をくれたが、だんだんと知らないことを馬鹿にし始める傾向が見えてきた。
まぁ〜面倒なので、その趣味はやめたと伝えて距離を置いた。
必要になれば調べて分かる世の中で、いらん世話よ、と。
今思えば、距離感を調節した上で、もう少し上手く付き合えた気もする。
あの時の俺には、そんな余裕はなかったなぁ…
―――
〈天拝山行ってきましたー〉
《山…英彦山で絶望と挫折の話をした俺に当てつけかな?》
〈だから誘わないでやったんだろ〉
《へいへい、お心遣い感謝。しかし登山好きとか初耳なんですが?》
〈何を言って…菅原道真公に縁があるから行ったんだよ〉
《マジかー、誘ってよ…》
〈めんどくせぇー〉
アキノンとのメールのやり取りを見返していた。
その都度、彼の低音ボイスで脳内再生される。
身近にあるけど知らないことは多いもんだ。
せっかく神様に興味を持ってきたんだし、もう少し視野広げていこうかね。
―――
土曜の朝。
俺の肩掛けカバンには、いつものように中津宮のお守りが結ばれている。
(今、私は博多駅に来ております!)
いやね? もうすぐ”博多祇園山笠”が行われるとか見かけたんですよ。
毎年行われているのは知ってるけど、それが何かなんて興味がなかった訳で。
そしたら奥さん、これ櫛田神社の神事って聞いたのよ! ヤダもう!
そんな祭りを見るのもいいけれど、ごった返す人の中で気力失って、座れる場所探してる俺の姿しか浮かばなかったので。行くなら今かなーって。
そんなことを考えながら、“はかた駅前通り”をひたすら直進し始めた。
(はい、見えてまいりました!こちらは”キャナルシティ博多”っ!)
心の声は元気にしてみたけど、今の俺の顔は真顔で建物を見上げている。
こっちじゃねぇな、反対だ。
道路を跨ぐようにある歩道橋が頭上にあるので、これ使って行こうかな。
歩道橋って表現で合ってんのかな?教えてAIさん。
“その構造物の一般的な名称は、「ペデストリアンデッキ(Pedestrian Deck)」です。”
“日常会話では「あのペデストリアンデッキ」で十分通じます。”
マジかよ? 俺、日常会話が成り立たない人種っぽいぞ?
聞き馴染まねぇ〜
ペデスデッ…歩道橋に上がり、道路を跨ぐ。
そのまま進むとエスカレータの先に鳥居が見えた。
(はぁい皆様!こちらが櫛田神社でっす!)
鳥居より高い位置にいくつもの提灯が飾られている。
これ常設なの?山笠前だから?
石の鳥居の前で一礼。
お邪魔いたします。
一本ツノの生えた白い狛犬は、神社ごとの違いを感じて面白い。
俺の見た中で記憶に残る狛犬は、香椎宮のマッチョ狛犬。失礼にも笑ってしまった。
門を潜った後、末社の前を静かに通り過ぎ、奉納されている飾り山笠を見上げ、拝殿へと向かった。
こちらの末社は…いつかきっと、いずれ、たぶん。
そういえば、この本殿や拝殿を囲む壁って、回廊って言うんだね。
…
回廊の門を潜って見える、ぎゅっと豪華で綺麗な空間に見惚れていた。すごくカッコイイ。
…こっち側に手水舎無かったんですけど!?
ちらほらいる参拝者の邪魔にならぬように、本殿正面の門を出て手水舎で手、口を清めた。
改めまして。
二礼、二拍手、一礼。
―――
参拝を終えた俺は、手水舎近くの木陰で中津宮のお守りを撫でていた。
ここに祀られている御祭神を見たときに思った訳ですよ。
大幡主大神
天照大神
須佐之男大神
天照大神と須佐之男大神って、一緒に祀られて大丈夫なん?
いや、この2柱の関係性から湍津姫様も誕生した訳だから、うーん?
俺が距離をとった人とも、もう一度関係を見直せば…距離を測り直せれば、何か生まれたりせんかね?
まぁ、機会があれば。と自分の中に区切りをつけて、本殿へ向けてもう一度一礼し、振り向いた。
ちなみに山笠は、疫病退散で須佐之男大神が深く関わるお祭りらしい。
正面の門も、ゴツくてカッコイイ。(語彙)
何とも力強い神社だった。
(はい、いかがでしたか櫛田神社。人生のパートナーができたとき、是非、末社へもご参拝くださいね!)
正面の鳥居を出て振り返り、一礼した。
―――
〈オチは?〉
《無いよ?》
〈それ、どうなん?〉




