表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/20

英彦山神宮、上宮


 その場しのぎ。


 もうないでしょ、バレないっしょ、大丈夫っしょ。


 人生で何回、凌げなかったことか。


 大人になって、これがどれほど危険か、やってはいけないかを…身に染みて知っていたはずでした。


―――


 “稚児落とし”

 物騒な名前だが、鍋島清久さんという方が幼少の頃、この断崖から転落したけど奇跡的に助かった故事から言い伝えられている、と。


 女性たちもまだ読んでいるので、案内板のすぐ後ろの窪んだ穴をぼーっと見ていた。


「…そこじゃないと思いますよ?」

 心を読まれた!

 いや、思ってないし。


「ンフッ」

 詠さんはずっとこんなだ。

 これ、俺は何もしてなくない?


「…お守り、付けてるんですね」

 笑って顔を逸らした先で目についたのか、俺のカバンに括ったお守りを見ている。


「大島の中津宮で授かってね。ご一緒願ったんだ」

 普通に話して、これまでと同じ反応を期待した。


「「…」」

 笑わんのかい。

 お姉さん以外は、しばらく真面目な顔だった。


 まだ違和感のある背中から、さっきお姉さんとスマホのメールアドレスを交換したことを思い出す。

 詠さんは不服そうだったが、連絡が取れるなら、と引き下がった。

 俺が何を知っているの?うーん…


 うっすら何か浮かび上がったとき、開けた場所に出て、全てが吹き飛んだ。


 建物も見えるが…頂上ではなかった。

 ちょっと失礼かもしれないけど、お参りする元気がない…


 そして

 “英彦山神宮(上宮)0.4km”


 目の前には空に続く石段。

 えっ?これを400mも登るの?


 女性たちもお疲れのようだが、奏恵さんからも漂っていた、前に進むオーラを感じた。


 ゆっくりと女性たちの視界から外れるように、石段の隅へと体をスライドしていく。


「えっ? おじさん?」


 律さん、勘がいい子は嫌いだよっ!?

 できる限りの笑顔を見せて後退りしたら笑われた。

 この子、今日、初めて笑ったのでは?


 あぁ、お姉さんにも、詠さんにも気づかれた。

 もう、限界なんです…俺は石段をもう一度見上げた。


 …ゆっくりと手を広げてバランスをとるように、そしてときおり手を振りながら…奏恵さんが降りてきた。


―――


 10時40分

 私、熊先の英彦山登拝失敗が確定した時刻です。


 奏恵さんとお姉さんが笑いながら話している。

 すげぇな、初対面で。

 いや、お姉さんは俺とも普通に話してたな。


「おじさん、女性の友達もいるんですね」


 どういうことかな?

 心の距離感がおかしくない?


「うーちゃん…」

 律さん、そう、この子を止めて。

 いや笑ってないで…また俺の顔見て笑い出した?


 ここまで来たのに降りるの?

 笑い上戸な詠さんに最後まで笑われながら、女性たちに手を振って別れた。

 俺は奏恵さんと英彦山を降り始めた。


 登りは太腿に負担がかかり、継続して登るのが本当にきつかった。

 降りは…膝を執拗に攻撃されている感じだが、まだ耐えられた。


「何、結局あそこまで登ってきたなら、登り切るまで待ってたのに」


 もうほんとあとちょっと、と言いながら前を歩く俺の肩に両手を乗せる。

 彼女は降りの負担がきついらしい。

 足の長さか?


「降りる言い訳が欲しくて…で、それを奏恵さんとの合流にしてたんだよ…」


「あっはっは!どんな言い訳しても、はたから見たら途中で降りた人だよ」


 きっつー。

 つられて一緒に笑っていた。


 時計を見ると11時半。

 最初に壁と思った岩に到達する。

 垂れた鎖を伝って登ったが、隣に足場があることに気づき、そちらから降りた。

 それでも急な斜面と染み出した水、ぬかるんだ土で危険な感じだった。


 下津宮のある場所、自祓棒が備えられた場所へ帰って来れた。

 ここで気づいていれば登らずに済んだ…

 でも、登らなかったら、いくつかの縁は無かったかもしれない。


 複雑な気持ちで、自祓棒と共に備えられたお賽銭箱へと気持ちを納めた。

 無事に戻ってこれました。ありがとうございました。


 12時10分までスロープカーを待つことになったため、

 おみくじを売る場所で奏恵さんと時間を過ごした。


「熊ちゃん、ここ調べてたら来てなかったんじゃない?」


「いやー、絶対来てないですね…」


 いや、中津宮の詳細がわかっていたら…

 でも、それ以上に、調べる過程で山の険しさも知ってそうだしなぁ…

 あー、中津宮を知っているのに来ないのは、自分を許せない気もするなぁ…よし、忘れよう。


「来れてよかったです!」


「あはははは! どうしたの急に」


―――


 スロープカーで花駅に到着後、俺たちは小学校跡の食堂で蕎麦を食べていた。


 待つ間に配布されている地図を見ていたが、登拝には他のルートがあるっぽい。


 そういえば道中に出会った青年たちとすれ違わなかったな…そのまま別のルートで降りたのか…

 年配の方達も、なんか別のルートで登ってきてたし。


 簡略化された地図上でも、来た時に通過した国道500号線から見ても半分も満たない。

 まだ新しい道がある…また今度、があるのかないのか。


 ご馳走様を伝えて帰る時、食堂の壁にも英彦山の手書き地図が目に入った。

 紙の地図もいいけど、こっちの方がいいなぁ。

 俺たちが登った中岳は…一番登りやすい、と。

 南岳はスリル満点、北岳は道が険しくてとても大変です…と。


 奏恵さんの顔を見て、やっと太宰府で見た笑顔と再開した。

 今かぁ…


 帰る前に銅鳥居(これで、かねのとりい、と読む)に寄った。

 参道にも石鳥居にも居ないと思ったら、ここに狛犬がいた。


 この鳥居から山道の先を見上げるが…奥が見えない。

 ここから登っていたら、絶対に山まで登っていない。


 認識していなかったが、参拝客は多数いる。

 そんな中に手を振る姿が見える…


「おじさーん!」


 うぎゃー

英彦山神宮の御祭神

(名前は都度、神社や書物で変わってくるので、細かいことは気にしない方が吉)

奉幣殿

伊邪那岐命いざなぎのみこと

伊邪那美命いざなみのみこと

(天忍穂耳命は上宮に書いているので省略)


 国産みの夫婦ですねぃ


下宮

速須佐之男命はやすさのおのみこと

神武天皇じんむてんのう

大国主命おおくにぬしのみこと


 須佐之男の何代か子孫に大国主。

 で須佐之男の娘と大国主が結婚する。

 …時系列なんて知りません。


中宮

市杵島姫命いちきしまひめのみこと

多紀理毘売命たきりびめのみこと

多岐津毘売命たぎつひめのみこと


 多岐津毘売命(湍津姫)様〜

 多紀理毘売命(田心姫)も大国主と結婚する。

 …時系列がついて来いっ!


上宮の御祭神

天忍穂耳命あめのおしほみみのみこと


 天照の子。

 天孫降臨の邇邇芸ににぎのお父さん。


英彦山神宮は「駆け上がり大会」とかやってるみたいで、それ見かけた時に死人が出るのでは? と心配したけど、銅の鳥居(かねのとりい)から奉幣殿までみたい。安心だね。

…いや、俺には無理だけど。


画像は英彦山神宮 最後の石段と鳥居です。

(自分で撮った写真を加工してます)

挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ