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幣立神宮(後編)

小学生の頃、バスで遠方へいくイベントがあった。


「はーい、では次の問題です。日本の坂道は、上りと下り、どっちが多いでしょう?」


バスガイドのお姉さんが、子供達が飽きないようにと話を振る。


「下り!」

「上りっ!!」

「下りぃ!!!」


答えなんかより、勢いで勝とうとしてない?

小学生の頃の俺は答えを知るよりも、騒がしいこの空間が、楽しかった。


―――


車中では、幣立神宮が歴史のあるお社だと聞いた。

その時に思い描いた空気。しかしここは、これまでお参りしてきた社とは全く違う感じがした。


鳥居を見上げると奥にある木々と重なり、共に大きい。

石段は新しいわけではないのに綺麗で、それを囲むように生える木々は生い茂っているような感じではない。

それは威圧感がなく、秩序を感じた。

手水舎は奥ゆかしい作りのものとは別に、センサー式のものも設置されていて驚いた。

本殿前の鳥居を越えると、門はなく本殿がすぐに見えた。


ただあっさりと辿り着いた。身構えをさせてもらえなかった。

不自然なほどに、自然に。


幣立神宮は、これまで巡った社とは、また違った世界なのだと思えた。

これまで同様に、俺に表現はできない。


―――


石段を登り終えた時、ノグと雪が本殿へ向けて参拝中だった。


その後ろに並び周囲を見ていると、本殿前の階段に”参拝の作法”と彫られた板に気づいた。


“二拝、二拍手、一拝"


同じことを伝えているのに、見慣れた「二礼、二拍手、一礼」とは表現が少し違う。面白い。


ノグと雪が一拝して横へ下がる。


空いた空間に、当たり前のように俺たちが収まり、お賽銭を納め、鈴緒をもち、鈴を鳴らす。


二拝、二拍手


本日はこちらへ向かう道中を無事に過ごせました。帰路でもお見守りいただければ幸いです。


一拝。


リクオミと横へ下がり、雪たちと合流した。


西の宮、東の宮、應神天皇おうじんてんのう健磐龍命たけいわたつのみことの社など、周囲へと参拝を行ったが、さっきの子供と犬は見当たらなかった。


あとは、奥に見える鳥居の先か。

いや、本殿前の石段の途中に横道もあった。そちらへ抜けたのかもしれない。

…でも境内にいる気がするんだよなぁ。リクオミも、なんか見渡してるんだよねぇ。


境内の奥、小さい鳥居の方へ足を進めるが、続く気配がなく、俺は振り返る。


「いってらっしゃーい」

リクオミは歩くのを諦めたようだ。


「アタシ、サンダルで来ちゃってて…」

雪は少し残念そうだ。

クッションは準備できたが、悪路歩行なんて想像できなかったのだろう。


「あたしも、この靴じゃちょっと…」

星が主張する、悪路も踏破できそうなスニーカー履いてて何いってんだコイツ。


一番下手な回答したノグの手を掴もうとするが、拒否される。


「ヤメテヨ、モウ!」


雪の真似の延長線上なのか、何なのか。

雪の顔を見ろ、表情殺してお前を見ているぞ。


そこで気まずい思いしてろ。ノグへのちょっかいで出した手をひらひら振りながら、境内の奥、小さい鳥居をくぐった。


―――


ここまでとは一転、空気が変わった。


土と木の根、要所に敷かれたブロックを足場に、道を下る。


木の匂いを強く感じながら進む。

太く二股に分かれた双子杉、天に手を向けたような五百枝裏杉いおえのうらすぎ

それらを通り過ぎ、多くの杉に囲まれた先、開けた空間へ出た。


田んぼと、お社…


“東水神宮”と書かれた鳥居とお社、そして先ほど見かけた少年と犬…犬じゃねぇよアレ、絶対。


「湊。では、戻るぞ」


聞こえた声に対して少年が頷き、ふっと姿が消えた。


湍津姫様、帰宅後にでも、お話を聞いていただいてもいいでしょうか…

俺は風景が見えるようにと、鞄に括っていた中津宮のお守りを手で包むように揉みながら呟いた。


―――


俺は、東水神宮への参拝を終え、皆と合流した。


「また…俺の車の悲鳴を聞くのか…」


これから来た道を戻るのだと、現実に戻った俺は、ぼとりと本音が落ちた。


そんな俺の肩に、不意に手が乗せられた。


「熊さん。きつかった上りは、下りに変わってるんだぜ!」


ノグ…なんだその引きつった笑顔は。


「んー。そーそー。」


雪がこちらも見ずに、適当な相槌をうった。


「帰りなら蕎麦、行けるんじゃね?」


観光ルートに切り替えたから、道中に蕎麦屋を見かけなかっただろう馬鹿野郎。


来る時に俺の車を助けてくれた下り坂が敵になり、およそ同じ数の悲鳴をあげながら、騒がしい馬鹿4人を乗せて帰路へとついた。

本作はフィクションです。

作中に描かれる神や出来事は、信仰や感じ方の一つの形を表現した創作です。

実在の宗教・信仰・人物とは関係なく、それらを否定・評価する意図はありません。

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