9話 星の巡り合わせ
「──星の勇者です」
そう、フレアの恩人であり、一人前になるまで育ててくれた師匠とは、かつてゼティフォールと死闘を繰り広げた『星の勇者』その人だった。
「……だから、私たちの動向を先に知り、事前に準備できていたのか」
「パパ、どういうこと?
フレアのししょーって、パパに『たすける』っていったのに、たすけてくれなかったひとだよね?
なんで、フレアはたすけたのに、パパはたすけてくれなかったの?」
ステラは困惑した。
星の勇者は確かにゼティフォールに未来を託した。しかし、同時に『どうしようもなく困ったら助ける』と伝えていた。
だが、ステラが育った時代では勇者が現れず、ゼティフォールはステラを置いて決戦に赴いたのだ。……死を覚悟して。
確かに自分たちでどうにかできなかった不甲斐なさはあるが、父を失い母も封印されたステラからすれば、約束を破った酷い人に他ならない。
だからこそステラ自身がこの時代にタイムワープしたんだし、そんな星の勇者が人助けをするなんて、想像もできなかったのだ。
「星の勇者は時の女神の加護を受けているからな。
戦いでは光属性の技や回復ぐらいしか見てないから、どれぐらい時間に干渉できるのかは知らないが、未来視が出来てもおかしくない」
ゼティフォールがそう言うと、フレアも頷いて付け加える。
「師匠は時々、ゼティフォールさんの話をしていました。ステラさんのことも。
その中で、今日この日にディアマンテに来ることとか、無銭飲食になりかける事、装備や冒険者になるためのお金がなくて困ることも言っていました。日時も正確だったので、事前準備は簡単でしたよ」
フレアは懐かしむように語り、その後少し切なげに言葉を続けた。
「……加護のことは詳しくは教えてもらえませんでしたが、少なくとも凄まじい力を持っているみたいでした。
未来に関わる内容なので今はお話できないですが、ひとつだけ伝えるなら。
…………『時間に干渉できても、出来ないことがある』と、そう言っていました」
「なるほど。
納得はできないが、今この時代に表立って手伝えない事情があるのかもな。
そして、ステラの時代でも、なんらかの事情があり手伝えなかったと見るのが妥当か」
とは言え、ステラが満足できる様な答えではなかったが。
「……ママにあったら、きくからもういい」
ステラは不信感を抱きつつも、パパに『事情があるかも』と言われて、フレアは勿論、勇者も責められなくなってしまう。
何にせよ、いずれ時の女神に会うのは確実だから、その時に勇者のことを聞けばいいと判断した。
「……ま、これ以上は今何を考えても答えは出ないし、今日のところは休まないか?
色々あって疲れたし、明日からはクエストとやらを受けてみたいからな」
「……深く詮索せずにいてくれてありがとうございます。
じゃあ、お部屋は用意してますので自由に使ってください。
ご飯はどうされますか?」
「ステラはおなかへってない」
ツンとした態度で言う。
ステラは星の勇者を慕うフレアとの距離感を図りかねていた。
それはそれとして、この街に来てからお腹いっぱいにご飯を食べたし、果肉ゴロゴロ濃厚ラズベリーラテを飲んだので実際にお腹は減っていない。
「私もだ。
仮に腹が減っても、道中で見つけた野生の果物があるから大丈夫だ」
森に来るまでにいくつかリンゴやオレンジみたいな果物が生っていたので、ゼティフォールは何個か採っていたのだ。もちろん、農家さんやフレアが育てたものではない。
「分かりました。では、おやすみなさい」
● ● ●
ゼティフォールは2階の部屋を借りることにした。
中には真新しいキングサイズベッドと、引き出しが充実した机、2脚の椅子、装備も服も収納できるクローゼット、冒険者道具を入れるストレージ、魔法の氷で冷やす小型冷蔵室など、色々充実していた。
古いものと新しいものが混在するが、その全てがピカピカなので、最近フレアが2人のために用意してくれたのだろう。
「……ステラ、本当に一緒に寝るのか?」
体のサイズにぴったりなパジャマに着替えたゼティフォールとステラは、同じベッドで並んで横になっていた。
「うん。パパ……うでまくらして?」
ステラは夜になり心細くなって来たのか、日中のハイテンションは鳴りをひそめ、ゼティフォールにしおらしく甘えていた。
元の時代で両親の安否も分からず、最悪の場合も考え得る。
そんな状況で過去とは言え親の1人に会えたのだから、ステラにとっては唯一の心の拠り所なのだろう。
「これでいいか?」
ステラの頭をそっと上げると、ゼティフォールは腕を伸ばして頭を支える。
「ぎゅーも」
「……甘えん坊だな」
ゼティフォールは小さく息を吐き、これも子供を預かる上での責任なのだろうかと思いながら優しく抱きしめた。
「パパ……いなくならないでね?」
ステラがゼティフォールに甘えるように抱きついて、懇願するように呟いた。
「もちろんだ。
居なくなったりなんて、しないさ」
「ほんと……?」
きっと未来の自分はもっとステラを大切にしていたはずだ。だが、1人で戦地に向かうしかなかった。
ステラに寂しい思いをさせたとしても、生かすにはこうするしかなかったのだろう。
でも、親が子供を大切にするように、いや……それ以上に子供は親を愛している。
こんな小さな子が、自分を助けるために未来から駆けつけてくれたのが証拠だ。
「本当だ」
この気持ちを大切にしたい。
そう思いながら、ゼティフォールは眠る前に最後にこう付け加えた。
「明日も、その次も、そのまた次も、ずっと一緒だ。
だから、安心して眠りなさい。
私の可愛いちゃん、良い夢を見るんだぞ。おやすみ」
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