10話 クエストデビュー!
2日目の朝。
ステラとゼティフォール、そして引率のフレア(フル装備)は穏やかな日差しが差し込む森に来ていた。
「……見るからに平和だし、一般人でも来れそうに見えるな」
小鳥のさえずり、そよ風に揺れる木の葉、川のせせらぎ、小動物のじゃれあい。
そんな平和そのものみたいな環境だが、ここにはピクニックできたわけじゃない。
『パープルハーブ ×5 の採取』
そう、ここには正真正銘、冒険者の依頼を引き受けて来たのだ。
「モンスター、いるのかな?」
ステラがゼティフォールの顔を覗き込みながら言った。
ちなみに、今朝からステラはパパにべったりで、今もゼティフォールに抱っこされている。
「確かこの森には、スライム、ファング兎、ゴブリン、ケルベロ雀が居ます。
森の奥地の洞窟にはゴブリンの巣があって、ホブゴブリン、ゴブリンキングも居ますので、一見平和そうに見えても不用意に一般人が来たらとても危険です」
スライムは温厚なので大丈夫だが、牙が生えた兎のファング兎はナワバリ意識が強く、一度怒らせれば大怪我じゃ済まない。
ケルベロ雀は大きさこそただの雀だが、三つの頭で敵を捕捉し、三つのクチバシで隙のない連続攻撃を仕掛ける恐ろしいモンスターだ。群での行動を得意とし、並の冒険者じゃないと勝てない。
ゴブリンは凶悪な顔を持つ小鬼型モンスターで、集団連携と道具の扱いがそれなりに得意。
1体1なら一般人でも勝てるが、罠や連携、そして仲間呼びからの上位種ホブゴブリン召喚までするので、それなりの強さ+パーティ戦じゃないと勝つのは難しい。
ちなみに、出会ったら100匹いると思えと言われている。
「なるほどな。
確かにそれじゃあ一般人では難しいか」
「なるほどなー」
ステラはパパのマネをしたようだが、ゼティフォールに比べて緊張感は皆無だ。まあ、ステラならこの森にいるヤツらが束になっても楽勝なので当然だが。
「では、パープルハーブのところに行きましょうか。僕についてきてください。
道中できのみとか、薬草類を教えますね。きっとこの先、野営とかおふたりで冒険するときに役立つでしょう」
フレアが歩き出すと、ゼティフォールたちはぽかぽか陽気のもと歩き出した。
● ● ●
平和だった。
道中でスライムはぼんやり佇み、ファング兎はステラを見て逃げ出し、ケルベロ雀に至ってはステラに媚びて綺麗な鳴き声で可愛いアピールまでしていた。
そのステラを抱っこしているゼティフォールもモンスターに舐められることなく、その先導をしているフレアには誰も近づかず。
「これなら、サンドイッチでも用意してきても良かったかもな。
軽く食べられるナッツとベリーしか持って来ていないんだ」
柔らかな木漏れ日の中、ゼティフォールはあくびをなんとか堪えてステラに言った。
「そっかー。
ステラもチーズとね、おちゃだけ」
ステラが持って来たのはポッケにキャンディチーズ、斜めがけの水筒にゼティフォールが入れた冷たい紅茶だけだ。
一応、ゼティフォールの魔法の貴族服も、ステラの純白ドレスも、魔法効果でポッケがアイテムBOX化しており、大きなものも入れることができる。
なので今後荷物が増えても大丈夫。だが、今は駆け出しなので殆ど手ぶら同然なのだ。
「……あ、クッキーぐらいならありますよ」
話が聞こえていたフレアは、腰袋からクッキーを取り出していく。
「おお!
クッキーすき!」
ステラが抱っこされたまま興味津々で前に乗り出す。
「ん?
何種類もあるのか。……え、多くないか?」
誰に言われるでもなく、ゼティフォールがドン引きする中、フレアはどんどんクッキーを出していく。ちなみに、出したクッキーは事前に出しておいた大きめハンカチの上に山積みだ。
「チョコチップクッキー、ジャムクッキー、プレーンクッキーのサクサク系、プレーンクッキーのしっとり系、ドライフルーツクッキー、チーズクッキー、ナッツクッキー、スパイスクッキー、バタークッキー、紅茶クッキー──」
「すごいね、すごいねえ!」
どんどん出てくるクッキーに、ステラのおめめはキラッキラだ。
「とっておきはこれです!」
フレアは少し焦らしながら、その切り札とも呼べるとっておきのクッキーを取り出した。
「じゃじゃーん!」
「──これは!
……………………なんだ?」
ゼティフォールもドキドキしながらそのクッキーを見たが、特になんの変哲もないクッキーに困惑してしまう。
「……プレーンクッキー?」
そう、見た目はプレーンクッキーしっとり系にしか見えないそれに、ステラもゼティフォールと顔を見合わせる。
しかし、フレアはその反応になる事を想定していたのか、むしろ満足そうに笑う。そして、意気揚々と紹介するのだった。
「ふふふふ……ふふふふっ。
そうでしょう、そうでしょう!
プレーンにしか見えないこれ、実は特別なんです!」
別の腰袋からなんらかの気の根っこを取り出す。
「この根っこ、何かわかりますか?
ブラッドツリーの根っこ。普通の人間が食べたら毒になりますが、吸血鬼の血族がこれを食べれば一気に大量の血液が作られて、大きな傷でも即時回復、魔力も大量回復できる優れもの!
そのまま食べたら1ヶ月は後悔するほどマズいんですが、それをとにかく適当にハーブと調合してクッキーにすることで、なんかまろやかで美味しいヤツになったんです!!」
「おいしいヤツ!!
おいしいオヤツ!?」
「適当……なんか……?
そ、それは大丈──」
ゼティフォールが不安の声を出すや否や、声にかぶせるように。
「大丈夫です!
僕が身をもって何度も美味しい事体験済みです」
「そ、そうか……」
「そして、このブラッドクッキーは戦闘中でも口に含めば持続回復できますし、念のためにゼティフォールさんとステラさんにあげます。
でも、大量摂取で鼻血が出ますので、美味しいからって食べすぎないようにしてくだ──」
「おいしゃ〜〜〜〜〜!!!」
フレアの忠告を待たず、ステラはブラッドクッキーに食らいついた。
その美味さは計り知れず、なんかめっちゃ好きな味だし、しかも体が欲していたものが一気に補充されるような気分だ。
「ステラ、一個だけにしなさい!
食べ過ぎは鼻血って言われただろう!?
こ、こら! 私の手を噛まないで!
あ、いででででで!? ぬわ〜〜!!!?」
そして、なんとかグロテスクは回避したものの、ゼティフォールはヨダレでべちゃべちゃになってしまうのだった。
「それでですね、その根っこがこの複数の幹が螺旋状に絡まったみたいな木のものなんですよ」
ゼティフォールがべちゃべちゃになっているのも気にせず、フレアはマイペースに話続けていた。
「……へえ、これ?」
甘噛みでノックアウトされたゼティフォールの腕から解放されたステラは、フレアの教えてくれた木をポンポンっと触る。
「そうです!
マズいし、噛み切りにくいし、チクチクしますが、根っこをそのまま食べても近い効果が得られますので、この木を見つけたら、根っこの柔らかい部分を貰っておきましょうね」
フレアの話を聞いたステラは、足元に通った木の根っこを掴む。しかし、無自覚スーパーパワーのステラが引っ張るのだから、何も起きないはずがなく……。
「うん!
じゃあ、もらうね。
ふんにゃ〜!!」
──ズモモモモモ……グァッシャーン!!!!
予想通り、10mもの木がいとも容易くひっくり返ってしまうのだった。
「……ぶへっ!?」
そして、根っこに引っかかっていたゼティフォールはついでに吹き飛ばされていくのであった。
* * * * *
余談だが、ブラッドツリーは強い木なので根っこの一部が土に着いていれば、まるで何事も無かったかのようにそのまま逞しく育つので安心だ。
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