11話 でも、やり過ぎはよくない
紫の花が咲き誇る花畑、通称『目覚めの花園』
海に面した崖に広がる一面の花たち。一年中ユリのような紫の花が彩り、朝露に濡れた花が陽光に照らされ輝く早朝は神秘的である。
パープルハーブは、その紫でおおわれた花畑にたまに生えるのだが、背が低いハーブであり花の色と同じなため見つけるのは至難。
効果は魔法耐性アップと、状態異常耐性アップ。
つまり、風邪や花粉症の季節に予防として需要が爆増。5個でだいたい100人分の予防ができるが、数が少ないのが困りもの。
ただ、効果は抜群であり、一度煎じて飲めばワンシーズン花粉症とオサラバで、数年継続すれば花粉症から完全回復&完全耐性、ついでに風邪ウイルスにも強耐性というぶっ壊れハーブ。
貴族も平民も冒険者も、みんなが欲しがる花粉症の救世主だ。
* * * * *
モンスターがいない『目覚めの花園』
そこは、紫の花が出す香りがモンスターよけになっているので、ここまで来れば基本的に安心。……なのだが、今日は少し事情が違った。
「ケシシシシ……」
そう、どこから迷い込んできたのか、モンスターが1匹。この花に紛れてエモノが来るのを待っていたのだ。
──パープル・デスサイズ・ヘブン
紫色の花カマキリ型モンスターで、固体の強さはせいぜいF級冒険者1人分程度。大きさも手のひらサイズ。
ゴブリンやケルベロ雀がG級、ホブゴブリンがF級なので、ひよっこ冒険者でもパーティで挑めば問題ない。
しかし、コイツの厄介なところは、花のモンスター避けが効かない上に、その花に擬態して油断しているエモノを不意打ちし、その鋭い鎌で斬りつける所にある。
これを喰らえば、D級ならクリティカルヒットでヘブン行き、後衛職ならC級でも大怪我する恐ろしいモンスターなのだ。
「ケヒヒケシっ」
人が来る気配を感じたパープル・デスサイズ・ヘブンは、紫の花に擬態して待ち構える。
成虫になって初めてのエモノだったが、親のパープル・デスサイズ・ヘブンより大きく、知恵が回るので、成功すると確信があった。
● ● ●
「──うわぁああ!
パパー!
すごくきれいだよ〜!!」
ステラが森を抜けて『目覚めの花園』に狂喜乱舞しながら錐揉み突撃してやってきた。
「ステラ、花とパープルハーブが散ってしまうから、踏むんじゃないぞ」
「はーい」
ステラは類稀なるその身体能力と、ちっちゃな翼を器用に使い、飛び込むように跳躍し、空中前転してフワリと着地。仰向けに寝転がった。
黄金の小さな翼を持ち、純白のドレスを着た女の子が、綺麗な花畑で寝そべる姿はまさに天国のようで幻想的だ。
パープルハーブを探しているゼティフォールも穏やかに微笑み、フレアも兜の内側で目尻を下げ、もう目が離せなかった。
……そう、パープル・デスサイズ・ヘブンも目が離せなかった。
『き、キィイィぃ〜〜!?!?』
しかし、ゼティフォールとフレアの様な穏やかなものではなく、感じ取ったのは生命の危機!!
──ゾクゾクゾクゾクゥウウ……!!!
その小さな体(パプヘブよりは大きいが)に内包された圧倒的パワーを感じると、努力や作戦だけでは越えられない残酷なまでの格差があると悟ってしまう。
魔王の娘であり、勇者。
それは、不意打ちが得意なだけの一般モンスターには踏み込めない領域だった。
「──あ、なんかみぃつけた!」
「………………っ!!?!」
覚悟した。
自分のモンスター生において、多分……いや、確実にここが1番の正念場だ。
生涯を賭けた、一世一代の大博打。これ以上ない最高の擬態を、今ここに!
──……ひらり。
……それはあまりにも儚かった。
まさに花。
それどころか、花として生まれその立場にあぐらをかいた花よりも、可憐で儚げで、花以上に本物の花だった。
「……きれいだねぇ」
一命を取り留めた。
神のごとき存在に、小さきカマキリが勝てるはずがないのだ。むしろ、騙せただけで大金星。もし生き延びられたなら、子々孫々この功績を語り継いだって良い。
「ステラ、パープルハーブを見つけたぞ。
何を見つけたんだ?」
「きれいな、おはなだよ」
依頼品を見つけたゼティフォールがステラのそばに寄ってくる。
「……………………」
その姿を目に捉えたパープル・デスサイズ・ヘブンは思った……『こいつはヤれる』と。
そう、パープル・デスサイズ・ヘブンは割とおバカさんだった。そして、欲深かった。
生き延びられた実感を得られたことで、もう大丈夫だと錯覚したのだ。だから、ステラが背後を向けたその時──
「キシャァアアアア……!!!」
ステラの手をすり抜けゼティフォールに襲いかか──
「ん?
なんか、くすぐったいな」
襲いかかれなかった。
なんなら危うく自分が天国行きになるところだった。
手をすり抜ける時に動いた感触が伝わり、ステラが振り返ってしまったのだ。
……そもそも、反応速度もステラの方が桁違いに速いので、仮に振り向かずにいたとしても簡単に空中キャッチされるのだが……もちろん、そんなことパープル・デスサイズ・ヘブンが思いつくはずもなく。
「どうしたんだ?」
ゼティフォールがステラの側にしゃがんでステラの手に目線を向ける。
「きれーなおはな!
ステラがみつけたの」
くいっと手を向けて花を見せた。
もちろん、花ではなくモンスターだ。
「………………」
パープル・デスサイズ・ヘブンはさっきステラを騙せたことで自信をつけ、さらなる擬態の高みへ昇った。
人で言うところの『お人形さん』みたいに綺麗な花だった。
でも、それがいけない!
そう、人間で言う『お人形さん』なら、花だと『造花』なのだから。
「……ふむ。なるほど」
造花なのに、他の花と全く同じような風の揺られ方をしている。
一度抱いた疑念は簡単には拭えず、それどころかゼティフォールの目を鋭くさせてしまった。
「……き、きしゃぁあん⭐︎」
苦し紛れのぶりっ子ポーズでゼティフォールを悩殺を試みるも、あえなく失敗。
「ステラ、そんなもの捨てなさい」
「はーい」
──ぽいっ。
「き、きしゃぁあ〜〜」
ステラの投擲により空の彼方へぶっ飛ばされてしまうのだった。
「──ステラさん、ゼティフォールさん、そろそろ夕飯の時間ですし帰りますよ〜」
「「はーい」」
こうしてステラとゼティフォールは無事、初クエストである『パープルハーブ ×5 の採取』をクリアする事ができたのだった。
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