12話 過去の魔王と今のパパ
ステラたちはパープルハーブを手に入れ、ひとしきり景色を楽しんで冒険者協会で納品すると、お金と心地いい疲労と空腹を引っ提げてお家に帰ってきた。
「ただいまー!!!!」
「おかえりなさーい!!!」
元気なステラの挨拶に、同じくらい元気な挨拶を返したのはフレア。夜が来て元気になってきたようだ。
光属性の扱いが得意だとは言えやっぱり吸血鬼。夜の方が体質に合っている。
そもそも、お昼は日光に焼かれないように防御魔法を常時発動しているので、注意力も戦闘力も削がれてしまう。特に、人見知りなフレアは知らない人が大勢いる冒険者協会では、会話のために思考を巡らせるのが不可能だった為、初対面の時に無言だったのだ。
「おいおい、家の中で走るんじゃない。どうせ走るなら洗面所に行って手洗いうがいをするのだ。
……ふっ。私はひと足先に済ませたがな」
洗面所から出現したゼティフォールは、得意げに2人をたしなめた。
余談だが、色白な吸血鬼ではあるが、上位個体だと陽に焼かれても命を落とすことはない。ただ、真夏のパリピなみに日焼けした挙句、ダウナー系厨二病少年みたいなニヒルな雰囲気になるので手が付けられたもんじゃない。
「──僕が先です!!」
──ドンガラガッシャーン!!
鎧騎士がその鎧をぶち撒けて脱ぎ捨てると、中から長い白髪と赤い目をした線の細い美少女が出現。
廊下の曲がり角をドリフトし、壁ダッシュをしながら洗面所に突入した。
その動きはおおよそ、聖騎士とは思えないものである。
「まてまて〜!!」
ステラはすごい勢いでまっすぐ直進し、最短距離を通って洗面所までダッシュした。
もちろん、壁に大穴が空いたのは言うまでもない。
「ああああ〜〜〜!?
僕のお家が〜〜!!!」
フレアの断末魔のような声が森中に響き、ゼティフォールはやれやれと小さくため息を吐くのだった。
● ● ●
「「はい、ごめんなさい……」」
2人は正座をしてお説教されていた。
「……走るにしても、やり過ぎだ。
フレア、君が鎧を勢いよく脱ぎ捨てたせいで、灯りは破壊され、テーブルも木の残骸になってしまった」
「はい……」
「ステラ、確かにその身体能力ならまっすぐ進んだほうが速いし、壁もチップスみたいに脆いだろう。
でもな、破壊されれば修復する必要があるのだ」
「はい……」
「この調子だと、数日で家は住めなくなってしまうぞ」
ゼティフォールは木片を拾い上げると、地属性魔法と水属性魔法を駆使して繋ぎ合わせ、炎属性魔法で焼き固めることで、破壊された箇所を修復していった。
「パパ……すご!」
陶器のようなコンクリートのような質感になってしまったが、それでも壁は塞がったしテーブルも繋がる。
灯りだけは例外で、地属性魔法で砂を出し、炎属性魔法で溶かし固めてガラスにする事で、ただの照明が見事なまでのシャンデリアに進化したのだった。
「ゼティフォールさん、魔法の出力も魔力量も少ないのに、そんな事ができるんですね……」
ステラとフレアはその魔法の精密さと、技術力の高さに感心する。
「3歳児の時の強さになってしまったが、元々は世界最強の魔法使いであり、最高峰であり、時に魔法の神として崇められていた。
そう……魔法の王……『魔王』とな」
それが魔王という称号の始まりだった。
魔族、魔物、そして混沌の王としての称号となったのは魔王になってから数百年後の話である。
「魔王……」
「そうだ。
いくら弱くても、身につけた感覚まで消えない」
「…………」
複雑な表情をするフレアの顔を見て、ゼティフォールは再び口を開く。
「なぜ人間の敵対者になったか気になるか?
単純な話だ。
私を取り込んで兵器とし、世界の王になろうとした邪悪な人間がいた。
そこから戦いが始まり、戦火が広がり、エルフ、ドワーフ、獣人などを味方につけた人間軍。
吸血鬼、スケルトン、ミノタウロス、オーク、ワーウルフ、ドラゴンなどを味方につけた魔王軍の、世界を股にかけた大戦争になった」
「でも、魔王は悪と言われてましたし、それが発端ならなぜ正義の象徴の女神ルチアがゼティフォールさんに敵対したんですか?」
「最初の人間は倒したが、戦いは終わらなかった。
人間に失望していた私はそのまま戦うことを選んだ。
そのせいで、いつしか最強の兵器であり、絶対王者として君臨し……憎んでいたあの邪悪な人間の理想である存在になっていたんだ。
……私は邪悪な吸血鬼だった。それだけだ」
勇者と戦っていた頃のゼティフォールは、元々の思想とは逆の邪悪な存在になっていた。
だからこそ時の女神が動き出し、勇者が召喚されたのだ。
「………………さあ、修理は終わった。ご飯にしようか」
ゼティフォールは手をパンパンっと叩き、重たい空気を終わらせた。
「そ、そうですね!」
考え込んでいたフレアも我に帰る。
「……ステラ、黙り込んでどうしたんだ?」
さっきから何も言わず、話が終わっても口を開かないステラを心配して声をかけた。すると、ステラはようやく顔をあげた。
「あのね、よくわかんないけど……ステラのしってるパパは、いいきゅうけつきだよ?
だからね、女神ルチアもね、パパに『いいよ』って、いってくれるとおもう」
「……そうか。そうだと良──
いや、ステラが言うのだから、本当なのだろうな。ありがとう……」
背を向けていたので顔は見えなかったが、ゼティフォールの声は今までで1番穏やかで優しかった。
ステラは未来のゼティフォールとルチアを見ている。そして、そもそもステラの存在こそが、その言葉の真実性を裏付ける証拠なのだ。
戦争によって止まり、歪んだゼティフォールは数百年の時を経て、この時ようやくまっすぐ進みだしたのだった。
「うん!
だって、ママもステラも、パパのことだいすきだもん!」
「……そうか。
久々に料理をしたくなってきた。
今夜はクエスト報酬で手に入れた食材で、私の得意料理を披露しよう!」
「なにつくるの〜!?」
「デミグラスソースのチーズグラタン、チーズ増し増しだ」
「それって時間がかかるんじゃ?
お腹ペコペコなんですけど……」
「魔王の魔法を侮るな。
時短で5分で出来上がるから、食器を用意して座ってなさい」
「「はーい!!」」
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