13話 記念日の味
魔法の腕によりをかけて、ゼティフォールは『デミグラスソースのチーズグラタン、チーズ増し増しver.』を作った。
材料を風魔法で切り刻み、炎魔法で温度調節しつつ水魔法で旨みを抽出、魔法で圧力鍋の強化版みたいな事をしてデミグラスソースを一瞬で完成させる。
それとほぼ同時に茹でていたペンネマカロニパスタを耐熱皿に盛り付けると、大量のチーズを山のように盛り付けて、表面カリカリ中はとろ〜りの二重のチーズの層を作り出して、4分35秒でフィニッシュ。
魔王の実力をいかんなく発揮された5分間だった。
今回の魔法は複数の魔法を同時使用する高度な技術だったので、経験を大きく積め、だいたいレベル5ぐらいまで成長したようだ。8歳の時と同じぐらいの強さだ。
ちなみに、比較的ゼティフォールは大器晩成型なので、魔力以外の身体能力はG級(ケルベロ雀やゴブリンと同等)冒険者の程度である。
「……さあ、できたぞ〜!」
キッチンミトンで山盛りになったグラタン皿を持ってダイニングに入場すると、キッズたちは目を輝かせてフォークを掲げた。
「「きた〜!!!」」
フレアは香ばしいチーズの匂いに腹を鳴らし、ステラは早く食べたい欲で口の中がヨダレでジャブジャブだ。
「こらこら、ちゃんと取り分けてやるから前に乗り出すな。
火傷するからな……君たちは火傷しなさそうだが、まあ良いだろう」
ゼティフォールもゴキゲンでテーブルに着くと、グラタンの表面に大きなスプーンを差し込んだ。
──ザクっ!
「「「おおお!!」」」
カリッとしたチーズの表面が割れると、ホワっと蒸気が溢れ出し、中のトロトロチーズがなだれの様に垂れてきた。
デミグラスの茶色ととチーズの白のコントラストが食欲をそそり、3人は感嘆の声を漏らしてしまう。
「……よし、まずはステラからだ」
小皿にグラタンを乗っけると、エモノを睨む猛獣のような目つきのステラの前においた。こんな子をこれ以上放っておいたら、きっと食欲モンスターになってテーブルごとくらい尽くしてしまうに違いない。
だからゼティフォールの判断は正解だった。
「うにゃう!!!」
当のステラもグラタンを目の前にして、宣戦布告とも呼べる雄叫びをあげる。
「次はフレア。
……ほら、その素振りの成果を発揮する時だ」
──シュッシュッ!
「はい!
一撃で刺してあげますよ、シュシュ!」
フォークの素振りで温まった手首をスナップさせる。
2人ともお行儀が悪いが、それだけゼティフォールの『デミグラスソースのチーズグラタン、チーズ増し増しver.』が食欲を惹きつける魔力(比喩表現)が凄まじいと言うことでもあった。
「では、いただこうか」
「「イタダキマスッ‼︎」」
ゼティフォールが自分の分も取り分けて声をかけると、食欲の魔獣とフォークの悪魔はリードを外された犬っころの様に凄まじい勢いで一口目を頬張った。
「「アッツ!!」」
しかし、出来たてのグラタンは溶岩の様なもの。
食欲で自制心を失った獣は、その灼熱のチーズによってお口の中を叩きのめされてしまう。勢いも消沈し、涙目でゼティフォールに助けを求めた。
「……フーフーして冷まさないからだぞ。
──ダークヒール。……今の私では効果が低いから、ジワジワと回復するのを待ちなさい。
フーフーしない君たちにとっては、食べられる熱さになるまで待つ良い時間じゃないか?」
ダークヒールは吸血鬼やワーウルフなどの魔族に効果が高い回復魔法である。
普通の治療魔法だとダメージを受けることが多い、スケルトンやゾンビなどのアンデッド系モンスターも回復できるが、他の種族には効果は薄めだ。
「はぁい……」
ステラは舌のヒリヒリが治るのを待ちながら、待ち遠しそうにグラタンを見つめる。
「すみません、僕としたことが……。
久しぶりの自分以外の手料理に、はしゃぎ過ぎたのかもしれません」
基本的に一匹狼だったフレアにとって、師匠と離れてしまってから約数百年ぶりの手料理だった。
「気持ちはわかるが、料理を最大限味わいたいからって体をまとうマナを全て取っ払うのはどうかと思うぞ?」
「はいぃ……」
そう、人もモンスターも基本的に強くなればなるほど体を守るエネルギーの膜が強くなる。それが、剣や魔法で攻撃してもダメージを受けるだけで、怪我や物理的な損傷を受けない理由なのだ。
そのマナの膜を全て取っ払えば、肉体的な強度は少し強い人程度。
熱々のグラタンで火傷するのも仕方ないのだ。
● ● ●
「──おいしぃ〜!!」
「美味しいです!!」
「口に合うようで何よりだ」
満足そうに食べる2人を見てゼティフォールは微笑んだ。
しかし、ふとステラのフォークが止まり、黙り込んでしまう。
「……………………」
「……ステラ、どうしたんだ?
何か気になったことでもあったか?」
ゼティフォールが優しく尋ねると、ステラは困ったように目をさまよわせながら、小さな声で言った。
「パパって……『パパ』なんだね」
「……それはどう言う意味だ?」
「あのね、ステラ……これ、たべたことあるの」
「…………なるほど」
ゼティフォールは静かに頷いた。
「ステラのね、4さいのおたんじょうびに、パパがつくってくれたの」
過去に戻る前、未来のゼティフォールがステラのために振るまったのだろう。
「私の得意料理だし、全く同じではないが元の料理は私の母から受け継いだもの。
……そして、大切なひとの特別な日に作るものなんだ」
何かの記念日、祝い事、卒業、そして誕生日。
何かいいことが起きた日にはこデミグラスソースのチーズグラタンで祝う。
元の料理は質素な、牛肉の煮込みと余った穀物を使ったチーズ焼きだが、ゼティフォールがそれを改良してこの料理が生まれた。
だから、娘であるステラの誕生日を祝うにはうってつけの料理なのだ。
「ゼティフォールさんにとって、ステラさんは大切だったってことですね」
「……ステラ、寂しいか?」
ゼティフォールがそっと尋ねると、ステラは首を横に振る。
「ううん。
あのね、ステラはいまのパパにあえて、とってもうれしいよ。
グラタンも、とってもうれしいよ。
だからね、その……パパは、パパだからね。いっしょだからね?
さみしくないの」
未来のゼティフォールとは離れてしまったが、現代のゼティフォールは同一人物であり、ステラと出会って変化はしたものの、未来も現代も大切なパパなのは違いない。
自分が言うまでもなくそれを証明してみせたゼティフォールを目の当たりにして、ステラは現代のゼティフォールが本当の意味で『パパ』なのだと確信したのだろう。
そして、この時からステラは、今まで甘えてはいるものの若干距離があったのが、本来の意味での安心と信頼をゼティフォールに寄せることになるのだった。
「……そうか。
それは良かった。じゃあ、来年もデミグラスソースのチーズグラタン、チーズ増し増しで祝おうか」
ゼティフォールがそう言うと、ステラはパァッと顔を明るくして大きく頷いた。
「うん!
あのね、ステラのたんじょうびと、パパのたんじょうびと、ママのたんじょうびと、フレアのたんじょうびもね、いっしょに おいわいしようね!!」
「え、僕も良いんですか!?」
フレアが驚いたように目を見開くと、ゼティフォールはやれやれと小さくため息をつく。
「今回の『冒険者デビュー祝い&初クエストクリア祝い』に参加し、しかも家に住まわせてくれて、伝説級の装備をくれて、右も左も分からない私たちに手を差し伸べてくれて、もはや家族みたいなものだろう。
吸血鬼は同族との繋がりが強く、恩も忘れない種族だ。
だから、フレアさえ良ければ祝わせてくれ」
「そうだよフレア!
フレアはね、ステラよりあとだから、いもうとにしてあげるね」
「い、妹ですか!?」
フレアは困惑するが、なぜかすぐに楽しそうに笑い──
「……まあ、いいか。ステラさんの妹なのも、楽しそうです!」
すんなり受け入れてしまうのであった。
「……では、『冒険者デビュー&初クエストクリア&フレア妹化記念』として、改めてお祝いし直そうか」
そして、ゼティフォールたちはステラが寝落ちするまで、楽しく談笑しながらお祝いするのであった。
お話を読んでくれて ありがとうございます。
良いなと思ったら 気軽に
ブックマークと ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎(ポイント)を
よろしくお願いします。




