14話 ステラは天才
ゼティフォールは昨夜のグラタン作りで高度な魔法を並列で使った結果、たくさんの経験を得て魔力の扱いが上手くなるのと同時に、体をまとうエネルギー強度(レベル的なもの)が上がり、冒険者でいうところのG級からF級程度まで強くなれた。
モンスターの性質によって相性や強さは異なるが、G級がゴブリン、F級がホブゴブリンと同等のマナの強さだと言われいる。
* * * * *
お祝いの次の日。
ゼティフォールは己の拳を見つめながら強さを実感していた。
「ふふふ……ふはははははっ!!
力が、力がみなぎってくるぞぉ!!
今までは拳を握っても手が痺れたみたいに力が入らず上手く握れなかった。
それに、仕込み杖を持ってもスルッと滑ってまともに振れなかったが、今の私なら最低限武器として使える!」
そう、ゼティフォールは今まで子供レベルの腕力しかなかったので、大人用の武器が使えなかったが、ほんのり力を取り戻したことで、小学校高学年程度の腕力を獲得!
短い戦いならなんとかできるようになった。
「そっか、よかったねパパ」
しかし、隣で聞いていたステラはまともに聞いていないのか生返事。
「……ステラ、私が成長したのになんだその反応は?
パパの格好良い姿が見られるかもしれないんだぞ、嬉しくないのか?」
ゼティフォールは得意げに語った……が、ステラはやれやれと小さなため息をついて嗜める。
「あのねパパ、いまはステラのおべんきょうのじかんでしょ?
パパがおしえてくれるっていったんでしょ?
それとね、パパのチカラのおはなしはね、もう5かいきいたよ」
……そう、この話は寝起きに一度、起きてステラが顔を洗った時に一度、そしてフレアと朝の挨拶をした時、朝食中にも話していたのだ。
そして今、リビングではゼティフォールがステラに文字を教えている最中。なので、そこにまた聞いたことある話をされちゃ、お勉強どころではない。
「……それもそうだ。
悪かった、すまない。
……ちなみに、その文字は『大きい』と読む。その次は『王』だな。魔王の王だ」
ステラのノートにお手本を書いたり、事前に用意しておいた『はじめての文字』という教科書を見せながら教えていく。
「えっと……『大きい』?
こっちは……『王』?
見ててね……『パパはま王です』……どう?」
ステラは教えてもらった文字をノートに書いて得意げにパパに見せた。すると、ゼティフォールは嬉しそうに頷き、ステラの頭を撫でた。
「素晴らしいぞ!
そうだ、パパはま王だ。意味も理解してるし、文字もしっかり書けている。
飲み込みも早いし、ステラは天才だな」
ベタ褒めだった。
ちょっとグニャっとなった文字だったが、それもまた味である。
「ふふ〜ん!
すごいでしょ?
ステラね、こんどは『ま王』の『ま』をしりたい」
「魔王は少し難しいからな、腰を据えてたくさん練習しよう」
「うん!」
「──ただいまー」
そうこう話していると、外出していたフレアが帰ってきたようだ。
「「おかえりー」」
「おお!
ステラさん、新しい文字を書けるようになったんですね」
兜を外しながらテーブルに広がるノートを見て微笑む。
「そうだよ〜。
すごいでしょ。これはね、ステラがじぶんでかいたの」
「はい、覚えるたのもすごいですが、自分でいろいろ文を作っていくというのが特にすごい。
ただ写したり、言われたことを書くだけでなく、自分で進んで応用するのは習得までの近道ですからね」
フレアに褒められると、ステラはパパに向き直って嬉しそうに笑う。
「だってさ!」
「良かったな」
「むふふ〜」
ステラは嬉しくなって笑顔が溢れてしまったようだ。
そして、少ししてからゼティフォールは思い出したように口を開く。
「……そうだ。
フレアはどこに行っていたんだ?」
朝早くから出かけていたフレアだったが、帰ってきた時は手ぶらだったので買い物ではなさそうだ。
「ああ、前々から人里に降りてくるゴブリンの数が増えていると問題になってたんですが、今朝連絡が入り、正式にクエストとして認められたそうです。
初心者向けですし、ゼティフォールさんが受けるのも良いかも」
「ステラはパパのおてつだいするからね」
「ありがとう」
「ただ…………活発化はよくある事なんですが、周期が乱れてるんですよね。
もしかしたら、何か他のモンスターが絡んでるのかも。
だから、僕はその万が一の時のために出動できるようにと、ギルドマスターから依頼されたんですよ」
万が一……格上の、少なくともホブゴブリン以上の強さのモンスターと遭遇する可能性があるのだ。
「なるほど。
あくまで、そのモンスターがいた場合はフレアが倒すから、初心者はゴブリンに専念すれば良いというわけだな?」
「とはいえ、正体不明の強いモンスターがいるかもしれないという事で、ほとんどの初心者冒険者は辞退してしまいまして……。
モンスターの調査をしたいから、ゴブリンはゼティフォールさんたちに任せたいんです」
「私もホブゴブリンとなら戦えるはずだし、ステラもいるし問題ない。
念の為に、転移魔法陣を描いたスクロールを用意しておこう」
スクロール……それは、宝石で魔法陣を描かれた特殊な紙で、使えば無くなる代わりに魔力を消費せず確実に特定の魔法が使える代物だ。
「転移魔法スクロールですか、それなら安心ですね。
でも、自分で用意できるんですか?
……お金、出しますけど」
「いや、大丈夫だ。
血の魔法で宝石を作り出してスクロールを描くから」
そんな便利アイテムのスクロールは宝石を使う分とてもお高いのだが、ここはさすが吸血鬼魔王のゼティフォール。
吸血鬼が使える血の魔法は『血液を凝固させたり自由に動かせる』という特性があるのだが、ゼティフォールはそれを使って己の血をブラッドルビーという真っ赤な宝石を作り出せるのだ。
しかもこのブラッドルビーは魔法の触媒として最高峰なので、理論上はどんな魔法でもスクロールにできる。
ただ、今のゼティフォールではあまり複雑な魔法陣を描くほどのブラッドルビーは用意できないため、転移魔法陣一枚が限度である。
「へえ、すごい!
ゼティフォールさんはブラッドルビーが作れるんですね!
僕は回復系しかできないので、ちょっと羨ましいです」
そう、血の魔法は吸血鬼によって使えるものが変わるのだ。
「ステラも血のまほう、つかえるかな?」
ステラがゼティフォールから(ステラの)手のひらサイズのブラッドルビーを見せてもらいながら言う。
「ああ、ステラも吸血鬼の血が入ってるし使えるはずだ。
クエストが終わったら、どんなものが使えるか調べてやろう」
「やった〜!」
「じゃあ、さっそく冒険者協会に行ってゴブリン討伐に行くぞ──」
こうして、ゼティフォールたちはゴブリン討伐のクエストを引き受けるのだった。
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