15話 ゴブリン討伐に向けて
ゼティフォールは先日の森に入り、ゴブリンの巣である洞窟の近くでクエスト開始前最後の確認を行なっていた。
「──では、強力なモンスターがいた場合、無理をせず転移魔法のスクロールで離脱。フレアと合流して戦闘だな?」
フレアが頷き、言葉を加える。
「もしゴブリン活発化の原因が例の覇王の一派だった場合もです。
ゼティフォールさんの魔王の力を奪った時同様に、ステラさんの勇者の力を奪われるかもしれませんからね。
戦闘力だけならこちらにもありますが、能力を奪う手法も分からない以上は下手にステラさんを前線に出せません」
「じゃあ、ステラはなにするの?」
ステラが首を傾げると、ゼティフォールが答えた。
「ステラは切り札、みんなが困った時の最後の希望だ。
つまり、私たちでは勝てない場合、魔王時代に残したなけなしのスクロールを使って支援するから、フレアと協力して相手を倒して欲しい」
覇王一派が魔王の力を行使した場合、フレアでも対処は難しくなる。もちろん、力を失ったゼティフォールでは役に立たないので、結果的に勇者の力を持つステラに頼るしかないのだ。
「わかった!
ステラがパパとフレアをたすけてあげる!」
「魔王時代のスクロール、残ってたんですね。
どんなものがあるんですか? やっぱり、強力な攻撃魔法?
それとも、特別な魔法があるんですか?
教えてください!」
フレアは興味津々だ。とても気になっているのだろう、ブラッドクッキーを献上しながら尋ねているのだから。
歴史的に見れば悪という括りの魔王だが、吸血鬼にとっては同胞が世界を支配していた栄光の時代でもあった。
しかもゼティフォールは吸血鬼に甘く、世界に散らばる数少ない同胞には支援を送っていたという事もあり、今でも立場は複雑でも実力や手腕は認め、支援自体は感謝している者が多いとか。
「……そうだな。
いくつかあるが、なにぶん古くて変質してしまってな。
例えば『ブラックホール』は発動したら暴走して止められなくなるし、『インフェルノ』はなぜか冒険者協会の食堂にあるキッチンの火が出てくるし、血の魔法を応用した魔法剣技の『クリムゾンローズ』は私が失血して終わり、『ダークネスオーラ』という防御魔法は遮光カーテンと似た効果が10分使えるだけと、ほとんど使えなさそうなんだ。
だから、今確実に使えるのは『魔王の波動』と『進化』だな」
「どれも気になるので、使えないのは残念です。
特に『クリムゾンローズ』は、同じ吸血鬼としてぜひ見たかった……」
血の魔法は個性が出るので気になる吸血鬼も多く、吸血鬼の雑談ではテッパンネタになるほど。だから、吸血鬼であり魔王 (だった)ゼティフォールの、しかも応用した魔法剣技ともあれば、世界一のプロゲーマーが考えたこの世に1人しかできないレベルのヤバいスーパープレイみたいなものだ。
もしくは、オリンピックで長い年月一度も抜かれないほどの殿堂入り記録保持者が、その成績を収めるために使っていた隠しテクニックか。なににせよ、失われれば吸血鬼みんなが悔しく思うほどのお宝みたいなもんだった。
「でも、その『しんか』と『ま王のはどう』っていうのはつかえるんでしょ?」
そう残っているスクロールもあるのだ。
「ああ、そうだ。
まず『進化』は使った本人の才能を引き出し、内包する力を解放して、さらなる強さを手に入れる。
昔、魔王軍の者が使った時は、人型からドラゴンの姿になったり、天をおおうほどの巨大な異形になったりもした。
まあ、さらに『進化』を使うことで、人型に戻る者もいたが……全員星の勇者の前では手も足も出なかったな。
私が使った時は見た目は変わらなかったから、個人差があるし戻れないかもしれないからリスキーな魔法だ」
つまり、第二形態、第三形態になるための魔法だった。
「異形になって戻れないかも……と考えると、うかつに使えませんね……美少女が台無しです」
「……ふむ。
それで『魔王の波動』だがな、相手の加護や補助魔法を解除、相手の体を守るマナを一部吹き飛ばすことで弱体化する魔法だ。
スクロールが1枚しか無いから使い所が限られるが、もし覇王が魔王の力を使ってきても一度だけならその加護を消して、一時的に弱体化した状態で戦える」
強化を強制解除して弱体化までする、まさに魔王の魔法と呼ぶべき凄まじいものだった。
「…………それなら確かに、格上でも戦えそうですね」
「さすがにステラに『進化』はさせられないがな」
「ステラは『しんか』したら、どうなるのかな?
つばさがあるから、とりさん? もしかしたら、ママみたいになるのかな?
パパになるもたのしそう!」
ステラは無邪気に目を輝かせるが、ゼティフォールとしてはステラに元の姿を手放させるのは絶対にやりたくない手段だ。仮に進化するならステラやフレアを逃すためにゼティフォール自身が使うだろう。
「……さあ、そろそろ僕はモンスターの怪しい痕跡があったポイントに向かいます。
ゼティフォールさんもステラさんも、充分気をつけて挑んでくださいね。
ゴブリンとホブゴブリンは強くは無いですが、道具を使ってくるので状況次第ではとても厄介ですから」
そう言いながらフレアは出発する。
「任せてくれ。
ゴブリンの厄介さは知っているし、私も弱体化したとは言え数えきれない修羅場を潜った戦士でもある。
手を抜かず容赦なく真剣に挑むさ」
「パパがこまってたら、ステラがパンチするからね」
2人の言葉に安心したのか、フレアは足取りが軽くなり『いってきます』と言う声も柔らかかった。
そして、ゼティフォールはフレアを見送った後、得意げにこう高らかに宣言する。
「──さあ、突撃だ!!」
そう、ゼティフォールは元々最強の魔王。正攻法しか知らないのだった。
「おぉお!
とつげきだ〜!」
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