16話 確定会心攻撃
とある日のお昼過ぎ、木の実と肉をたらふく食って満腹になり、午後のポカポカ陽気に当てられて眠くなりながら、新米冒険者から奪い取った装備を気だるげに手入れする。
日々のルーティンであり、ゴブリンにとっての日常だ。
この時ばかりは、下顎が発達し牙が飛び出た凶悪な顔も穏やかに見える。
「ぎゃうぎゃう」
「ぎゃははっ」
ちょっとした冗談を交え、午後にはどんなことをしようか、冒険者が来たらどんな装備を拝借できるか、そんな話で盛り上がる。
かつて自らを脅かした存在など忘れているのか、それとも思い出さないようにしているのかは定かではないが、少なくともこの瞬間は略奪トレンドで盛り上がるくらいにはリラックスできていた。
「グゴォオオオオン……」
「「ぎゃぎゃ!?」」
洞窟の奥からすごい音が聞こえるが……。
「ぎゃぶがが?」
「ぎゃっぎゃ!」
それがホブゴブリンのイビキだと気がつくと、2ゴブリンは思わず吹き出してしまう。
「「ぎゃっひゅ!」」
そして、しばらく笑い転げて落ち着くと、『ふぅ〜』と楽しさの混じった吐息を漏らす。
…………きっと、これから穏やかな日々が続くんだろうな。ニンゲンを襲い、動物を狩り、木の実と肉をたらふく食う。幸せだった。
そして、その幸せな未来が来ることを誰もが疑わなかった。が────
「突撃! 突撃〜!!
ものどもに、この魔王ゼティフォールの恐ろしさを思い知らせるのだぁっ!!」
「──とつげきとつげき〜!!」
2人の吸血鬼の血族が邪悪な文言とともにゴブリンの巣を襲撃してきたのだった。
「ぎゃい!!」
「ぎゃっぎゅ!」
きっと問題ない。
3日前、金持ちそうなザコ冒険者から手に入れたこの『ミスリルダガー』を手に入れてから、いくつもの冒険者を倒してきた。
戦いにも、もう1匹の仲間との連携にも慣れてきたんだし、負けるわけがない。
「ぎゃりぃ!!」
トマホークを持ったゴブリンが先制攻撃、からのもう1匹がミスリルダガーで死角からの不意打ち。ここ3日のトレンドの負けなし戦術だ。
「がぎゅ!」
声掛けをしながら配置に移動していく。しかし──
「ほう、そのような手段で私を倒すつもりか」
至近距離に迫ったゼティフォールは、背後を取りながらそう言った。
「「ぎゃぎゃ!?!」」
ゴブリンは度肝を抜かれながらも慌てて距離を離す。
ゼティフォールに筒抜けだった。
そう、ゼティフォールは元々魔王であり、世界を支配していたのだ。だから、支配下においていたほぼ全ての種族の言語は習得済み。
戦闘中に作戦を言い合ってしまっては、バレるのも仕方ない。
「ぎゃうる!!」
作戦変更、声掛けはできないが今回はミスリルダガーで連続攻撃を仕掛け、トマホークを遠距離から投げて致命的な一撃を与える。
これなら、マナ強度がゴブリンと大差ない吸血鬼にも──
「隙だらけだ……!」
「ぎゃ?!」
いつの間にか迫っていた吸血鬼が杖を振り下ろす。
きっと大丈夫。斬撃でもないし、クリーンヒットでもしなれば倒されないはず。
「1匹目」
クリーンヒット。会心の攻撃。
「ぎゃ!?」
杖の柄が直撃したゴブリンは、体を守っていたマナを打ち破られて致命的なダメージを受ける。そして……。
──カラン……。
体を保てなくなり、コアである魔石を残して倒されてしまった。
半端に投げ飛ばされて空中を舞うトマホーク。それを見たゴブリンは激昂し、牙を剥いて飛びかかる。
「ぐるるぎゃああ!!」
ミスリルダガーを構えて、ゼティフォールの心臓を狙う。攻撃後の隙がある、この瞬間ならあるいは……。
「絶対強者は慢心しない」
緩慢でありながらも的確で最適な軌道を描いて杖を振る。
それは最低限の弧を描き、杖のグリップでミスリルダガーのツバを引っ掛けた。
「ぎゃぅ!!」
体が引っ張られて体勢が崩れる。でも、こんな態勢からの攻撃なら、致命傷は避け──
「2匹目」
──ザンッッ!!
杖の中から現れた……もとい、最初から仕込まれていた刃が、居合斬りのように飛び出てゴブリンを空中で切り裂いた。
「──ぎゃぎゃ!?」
騒ぎを聞きつけたゴブリンが巣の中から飛び出てくるが──
「想定済みだ」
落ちてきたトマホークをキャッチすると、そのままの勢いで投擲。
「ぎゃふ!?」
「3匹目だ。
……ステラ、魔石を集めておいてくれ。魔法を使う時の補助になるから集めておきたい」
「はーい」
ゼティフォールはまだまだ飛び出てくるゴブリンを尻目に、ステラに優しい声で指示を出した。
ステラも一連の戦いから察したのか、ゼティフォールをしんぱいする素振りもなく魔石を無邪気に集めていった。
そう、ゼティフォールはかつてその実力で世界征服を果たし、、自らの力だけで魔王ににまでなった男なのだ。いくら身体能力が劣っていても、その戦闘センスと数百年分の経験で、ダメージさえ通れば力関係をひっくり返す。
「ゴブリンよ、残念だがここで終わりだ。
貴様らの所業に、ニンゲンたちは"討伐"と言う決定を下した」
ゼティフォールは剣を振って刃に付着したマナの残滓を振り払う。
「ぎゃぎゃ!
がうがあがが!」
「ぎゃひっ!」
「ぎゃぎゃ!」
「なに、『多勢に無勢』だと?
この後に及んで、まだそのような幻想に縋り付くのか。無駄だ」
ゼティフォールはニヤリを笑って闇のオーラを出すと、ゴブリンたちは冷や汗を垂らす。
魔王の力は失ったが、その威圧感は本物だった。
「なにせ、戦えば戦うほど私は強くなる。
そして、この仕込み杖は私の魔力に呼応して、その鋭さを増すのだから。
それだけじゃない、ゴブリンは熟知している故、私の攻撃は全て会心の攻撃となる。
しかも、疲労したとしてもブラッドクッキーで回復できるのだからな!」
説明する上に話が長いのは、魔王時代の悪いクセだった。まあ、それで勇者が現れるまで負けなしだったのだし、話し相手も少なかったのだから仕方ない。ちなみに、友達も少なかった。1人はいるのか、それとも虚勢で『少ない』と表現しているのかは、本人のみぞ知る。
「「「ぎゃぎゃぎゃ〜!!」」」
耐えきれなくなったゴブリンたちは一斉に飛びかかる。
「言ったはずだ。『無駄だ』……とな」
──シャンッ!
軽快な音だった。しかし、その一振りで飛びかかったゴブリン8匹が真っ二つに切り裂かれて魔石へと変わってしまった。
会心の攻撃。そう、8匹の対象を、少しのブレもなく完璧な軌道のひと振りでイチコロにしてしまったのだ。
──ブォオオオオ!!
角笛が鳴り響く。
恐れをなしたゴブリンの仕業だった。
「パパ、なにかくる!」
気配を察知したステラが魔石を拾いながら警戒を促した。もちろん、ステラの敵ではないので、ステラ自身は魔石を拾って待機だ。
「そのようだな……」
刃を杖に戻して洞窟の入り口を睨む。
「……ぎゃっらるふぉぉお」
大きく発達した牙、人を殺してそうな目、表現が難しい凶悪な顔、ゴブリンの倍以上……つまり2m以上ある筋骨隆々な身体、象のような厚い皮膚、人間から奪ったであろう腰巻きと籠手。
そして、その手に握られていたのは、エメラルドがはめ込まれた棍棒にもなる巨大な杖だった。
「ホブゴブリン……道具を使えるのは知っているが、魔法もできるのか。
……面白い。
しかし、魔王であった私に魔法で挑むとは笑止千万、せいぜい道化として私を楽しませるがいい!!」
「たのしませるがいい〜!!」
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