5話 よわよわ魔王も怒れば強い……はず
「──吸血鬼は助け合いだが、流石にやり過ぎだろう……」
馬子にも衣装とばかりに、よわよわ魔王はどこの誰かもわからない同胞からプレゼントされた伝説級の装備を身につけて、なんとかかつての威厳の5%ぐらいは回復させていた。
「タダが一番怖いと言うが、まさかこの身で知らしめられようとは思わなかった」
しかしそんな煌びやかな姿とは裏腹に、ゼティフォールの心はどんより雨模様だ。
とは言え確かに、見ず知らずの者から制作費だけで1000万金貨(10億円相当)もする装備品を突然渡されたら、いくら魔王と言えども警戒するし、仮に全盛期のゼティフォールでも何かの罠だと判断して決戦準備をするだろう。
ただ、今は世界を救う旅の途中であり、覇王といつ戦いになってもおかしくない。それに、装備を買う金すらないという背に腹は変えられない状況。
なので、ここは贈り主が陰で不敵に笑っていたとしても、受けとる選択肢しか選べないのだった。
「ほら、パパ……いくよ」
そんな不甲斐ないパパの手を引きながら、ステラは次の目的地である冒険者協会へと進んでいく。
「うん……」
……もはや、どっちが保護者かわからない。
● ● ●
しかし、そんなどんよりパパもさすが魔王というべきか、しばらくすれば立ち直り、意気揚々とステラの手を引く側になっていた。
「──こんな不甲斐ない姿を晒していては、私に希望を託した勇者が可哀想だからな。
ヤツの期待と、この装備に恥じぬ活躍をしてやろうではないか。
なにせ、私は数百年間も世界を統べた最強の魔王なのだからっ!!」
「でも、ゆーしゃにパパはまけたんでしょ。
ほんとに、さいきょーなの?」
「ぐはぁああ……!!
お、おのれ勇者、勇者さえいなければ誰にも負ける事はなかったのに。女神さえも手出しできなかったこの吸血鬼魔王の最強の座が、勇者のせいで2番目の称号に…………ぐはっ。
…………バタンっ」
せっかく立ち直りかけていた魔王の心は、ステラの言葉による会心の一撃で粉砕してしまう。
「え?
パパ、パパ〜!?!」
断末魔をあげ倒れてしまうゼティフォールにステラは慌てて駆け寄る。そして、頭を受け止めながら『パパにゆーしゃのおはなし、しないでおこっかな』と心に誓うのだった。
● ● ●
「──あけるね!」
「ああ!」
そして、ステラのキャンディチーズを貰って回復したゼティフォールは、再び元気になり、ようやく冒険者協会へと踏み出すのだった。
「おお!
すごいねえ!
あ、おいしそうなにおいがする!!」
そんなことを言いながらステラは目にも止まらぬ速さで駆け出していった。
──そして、1人になったゼティフォールは見慣れない冒険者協会の中を、じっくり観察しながら探索する事にした。
頑丈な木造建築でできたその大きな建物の中には、フロントだけでも数十人もの冒険者が賑わせていた。
むせかえるような闘気と魔力に満ち溢れた熱気に満ちた空間には殺伐とした者、陽気な者、馴染めない者、冷静な者……種族はエルフ、ドワーフ、ニンゲン、獣人……職業は戦士、魔法使い、回復術師、武闘家などなど多種多様な人たちが入り乱れていた。
その奥にはクエスト受付カウンターに、クエストボード、報酬の受取所があり、部屋の端には待ち合わせ用の椅子やテーブル、総合案内がある。
フロントを抜けて奥には重大な怪我や状態異常を治療するための救護室。その横の部屋は回復ポーションや薬、テントに寝袋、野宿用キャンプ用品を売る道具屋。並んで横に、最低限の武具の販売と修理を行う臨時武器屋。
次に、クエスト中に食べる携帯食料と飲み物を売る食材屋があり、建物の反対側には大きな食堂が隣接している。
そして最後に、2階から5階までは冒険者の宿泊施設と共用スペースとして開放され、多くの冒険者が憩いの場として使用していた。
● ● ●
そんな大きな施設に入ったからには、多くは見向きもしないが、やはり中には見慣れない顔に敏感に反応する者もいた。
「……おうおうおう!
見慣れない顔だな、新人かぁ?」
至るところに傷跡を持つ、人相が最悪のスキンヘッド戦士のおじさんが、ゼティフォールの前に仁王立ちをして行手を塞いだ。
ニンゲンなのにオーガみたいな見るからに悪人ヅラで、まるで山賊のオヤブンだ。
身長が190cmはあるゼティフォールだが、この男の前ではその高身長も霞んでしまう。
「それがどうかし──」
「おっと、手荒なマネはしない方が良いでゲスよ〜」
ゼティフォールが警戒の色を見せて身構えようとするも、いつの間にか背後を取られてしまう。
「なっ!?
……私の背後をとるだと?」
こっちは深くフードをかぶった華奢な男で、顔色も悪いし常にプルプル震えて一見弱そうな盗賊。しかし、ゼティフォールに少しも勘付かれずに死角に入り込んだのも事実。
「げへへ……あっしは盗賊のフランクリン。
背後を取るのは朝飯前でさぁ。ま、新人の隙をつくなんて、スキル無しでも余裕でゲスがね」
フランクリンは不気味に笑うと、ゼティフォールの肩を掴む。……これは『逃げるな』という脅しだろうか?
「俺様は戦士スミス!
この拳でモンスターを破壊し、モンスターの攻撃もこの体で受け止めるタンクだ。
……おっと、攻撃しようとしても無駄だ。
お前みたいな甘い顔をした新人の攻撃なんて、今まで戦ったモンスターに比べりゃ大した事はないんだからな」
「……っ!」
ゼティフォールはスミスを前に動けなかった。
スミスの言う事は事実だ。
確かに魔法を絡めて隙を突けばなんとかダメージを与えられるかもしれないが、そもそも決定打に欠けるので勝率が低い。
それに加えて背後に控えるフランクリン。
ゼティフォールでは到底追いつけないスピードを持ち、しかも隠密スキルまで隠しているのだとすれば、下手に動けばこちらが一瞬でやられる。
それに、常に怪しく笑っていて何を考えているかが読めない。もしかすると何か他にも隠しているのだろうか?
──勝率0.0001%
普通に考えて勝てるわけがない。実力差がありすぎる。
ゼティフォールは悔しかった。最強が2番目になり、今や目の前の冒険者にも勝てないのだから。
……まあ、今のゼティフォールが弱すぎるだけなのだが。
「なんだぁ?
黙っちゃって、俺様たちにビビったのか?
ほら、そんな所で突っ立ってねえで、こっちに来いよ」
スミスに肩を組まれてどこかに案内されそうになるが、今の絶望したゼティフォールにはもう抗う力も残っていない。
「素直に聞いとけよ。
あっしらに任せりゃ、悪いようにはしねえからヨォ〜」
フランクリンが肩を揺らして笑いながらゼティフォールの背中を押す。
「……くっ」
「そう卑下すんなイケメンくん。
お前みたいなヒヨッコでも、役に立つんだから。な、フランクリン」
「はぐれゴブリンぐらいなら、いけるかもってとこかねえ?」
「はぐれ……ゴブリン……ひとりぼっちの、ゴブリン……。
弱くて、寂しい……惨めなゴブリン。それが私にお似合いだと……?」
己の内にくすぶっていた怒りに炎が灯される。
魔王としてのプライドが許せなかったのだ。
「ん?
急にどうした?」
そして、スミスが軽快にゼティフォールの肩を叩いた瞬間──
「うぉおおおおお!!
私はゼティフォール!!
勝率が0.0001%だろうとも構わん。勝つ見込みがゼロではないのなら、この魔王の名にかけて不可能を可能にしてやろう……!!
冒険者共よ、覚悟するがいい!
……さあ、終焉の始まりだ!!!!」
魔王モードになり己の力が爆増す──
「──パパただいまー!
いっぱい、ごはんもらえたよ!!!
……ん? うわっ、ぶつかるぅうう!!?」
「「ぅわあああああああああ!!?」」
──どんがらがっしゃーん!!
力が爆増すると思いきや、ちょうど勢いよく帰ってきたステラに激突。
スミスとフランクリンがぶっ飛んで戦闘不能になってしまい、ゼティフォールは魔王モードになる前に不戦勝してしまうのだった。
「ああ、ぶつかっちゃった〜」
「……………………今何か、そう……なにか分かりそうだったのだが、忘れてしまったな。
まあ良いか……」
ビックリしたゼティフォールは元のよわよわ状態に戻り、魔王モードのコツを掴み損ねてしまうのだった。
「……あ、そうだパパ!
あっちでね、おばちゃんがシュークリームくれたの!
あとね、からあげと、ホットドッグと……ポテト!!
おいしかったよ〜」
「そうか、良かったなステラ。
では、一件落着したし、冒険者登録をしようか」
こうして先輩冒険者からの洗礼を乗り越えた2人は、このあと無事に冒険者になることができたのだった。
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