4話 助け合いのレベルじゃない
『──わたしも、ぼうけんしゃになる!!!』
ステラにこう言われたゼティフォールは一瞬ダメだと言って断ろうと思ったが、すぐに思い直して一緒に冒険者になろうと決めた。
まず、未来から来たステラは身分の保証が無い状態なので、万が一トラブルが起きた場合ゼティフォールとステラは引き離され、しかもゼティフォールは誘拐の疑いをかけられてしまう。
そして、冒険者協会のシステムが長い眠りの前と同じならば、多少のお金と実力さえあれば冒険者に成れる上に、街の商品と治療費が割引きされ、身分証明書も貰えるはず。
だから戦うかどうかは置いといて、冒険者になって身分証明書を貰い、ついでにギルドを立ち上げて『2人が一緒にいることが自然である』と、世間に認められる必要があったのだった。
● ● ●
「──では、そうと決まれば食事の会計を済まし、冒険者協会に向かおうか。
……ああ、その前に装備屋か服屋で着るものを用意しないと」
ステラはいま泥だらけの寝巻きに腕を千切られたジャケットを着ているので、さすがにまともな服を着せてあげたい。このままじゃ戦いどころか生活にも困るだろう。
「わかった!
ステラはね、しろいドレスがすき」
ステラは嬉しそうに要望を伝えながら席を立つ。
「分かった。
金貨はたくさん持ってきているし、好きなものを買ってやろう」
そう言いつつ会計に向かい、ふところから金貨を数枚カウンターに置く。……が、店員さんは金貨を二度見した挙句、じっとゼティフォールの顔を見て、今度はなぜか納得したように頷いた。
しかも、その金貨を返してきたのだから、ゼティフォールはもう何が何やら分からず首を傾げてしまう。
「ああ、これはお返しします」
「え?」
「そもそも、この金貨は使えませんよ」
店員の言葉に耳を疑った。
この金貨はちゃんと純金で作られた本物であり、決してニセモノではないのだ。
「なぜ使えないのだ……?」
ゼティフォールの眉間に深くシワが寄り、真剣な面持ちで尋ねた。しかし、店員は面白そうに笑ってしまう。
「ははははっ。
言われた通りだ」
「どういうことだ?
その『言われた通り』……とは」
「どうしたのかな?」
ステラも不思議そうにしていると、店員さんはようやくネタバラシをしてくれた。
「このお金貨は、勇者歴以前……つまり、魔王ゼティフォールが君臨していた時代のものです。ほら、ドラゴンの刻印が刻まれてるでしょ?
今は勇者歴です。刻印は翼の生えた女神の刻印が刻まれた金貨が使われてるんですよ。
お客様の出したものは500年以上前の金貨なので、今は使えません。
しかも歴史的価値があるので、普通に使用したり溶かして金にしたら犯罪になるはず。
つまりお金として使いたければ、金貨を博物館か王宮に行って寄贈して協力金を貰わないといけないんですよ」
「……なるほど。困ったな」
そうなると、いまは所持金がゼロ。食事代が払えない。
「パパ、どろぼうになっちゃうの……?」
ステラが不安そうにゼティフォールを見上げる。
「……協力金を貰うには、どれくらい時間がかかる?」
価値のあるものは手元に金貨しかないので、食事代を払うには、今はこの使えない金貨を博物館か王宮に持って行って協力金を貰うほか道はない。
「そうですね、だいたい早くても1週間ですね。厳重な審査をしますので」
「1週間!!?」
そんなの待っていられない。
店員さんが食事代をそれまで待ってくれたとしても、生活費や服代や宿代も必要なのに。しかも銀貨すらないんじゃ冒険者にもなれない。
ゼティフォールとステラが困り果てていると、店員さんが確信したように頷き、2人にだけ聞こえるように声をひそめて慎重に口を開いた。
「お客様が、かのゼティフォールさんですね」
「え?
……ああ、そうだが」
ゼティフォールは隠していたわけではないが、名乗ってもないのに言い当てられてさらに混乱してしまう。
「ああ、すみません。
さきほど、あなたと同じ目の色をした方に、ゼティフォールさんの食事代を頂いたんです。
なので、お客様はお支払いしなくて結構ですよ」
「同じ目の色……ということは、吸血鬼か?
まさか、近くに仲間がいたとは幸運だ」
吸血鬼は数が少ないので同族同士の絆が深い事が多く、知った仲じゃなくてもこうして助け合うのだとか。
「かの有名な魔王がまさか泥だらけでボロボロの服を着ていると思ってなくて、何度も試すような事をしてしまい申し訳ございませんでした」
店員さんが深々と頭を下げた。
「い、いや……確かにこんな姿じゃ不審がられても仕方がない。こちらこそ迷惑をかけてしまったようで申し訳ない」
「どろぼうにならなくて、よかったね」
「だな」
安堵した2人はようやく息をついた。
「そうだ、先ほどの方から伝言を預かってますよ。
……たしか『この店の向かいにある装備品店と、冒険者協会にもお金を払っておくから安心して』だそうです」
「……話を聞かれていたか」
まあ、大きめの声だったので聞こえていても不思議じゃない。それよりも、問題は別の場所にある。
「すまない、その方の名前は伺ってないか?」
「いえ、聞いたのはさっきの伝言と、お客様が魔王歴の時代の金貨を使うだろうということだけです」
「だれなんだろうね?」
「そうだな。これじゃ、貸しを返せない。
……仕方ない、相手は私たちのことを知っているようだし、いつか再会できることを願って、ひとまず言われた通りに装備品店と冒険者協会に行こうか」
名乗れない理由があるのか、もしくはお礼をされたくないのか、理由はわからないが、今は詮索されたくないのだろうと判断して、ゼティフォールたちはこの善意をありがたく頂戴することにしたのだった。
● ● ●
──しかし、装備品店で用意されていたものを目の当たりにするや否や、ゼティフォールは驚愕して腰を抜かしてしまう。
「な、ななななな……!?
なんだこれは!?!」
「なんだこれは!」
ゼティフォールの悲鳴にも似た雄叫びを楽しそうにステラが真似っこしているが、ちゃんと本当にヤバいものが用意されていた。
「──レッドオリハルコンの糸を編み込んだ魔法の貴族服と、アダマンタイトの剣が内蔵された魔法の触媒にもなる仕込み杖。
お嬢さんのは、世界樹の朝つゆを染み込ませたヒヒイロカネの糸で編まれた純白のドレスです。
あと、うちで用意したわけじゃないんですが、先ほどの方から預かった……素材不明の白い手袋もありますね。
一応、聞くところによると名前は『無垢なる始まりの光』で、効果は『女神の加護を得て聖なる光が力を貸す』だとか」
ドワーフの鍛冶屋は説明しながらゼティフォールとステラの前に装備品を置いていく。
「……金を積んでも手に入らないものばかりではないか……」
用意されていたひとつひとつが一点ものの特注品であり、素材も入手困難では済まされないレア度のもののみ。
しかも防具と武器、そして2人分まで用意するなんて、全盛期の自分ですら可能か怪しい、正真正銘の伝説の装備だった。
「おぉお〜、きれい〜!
このドレス、ステラすきなやつ!
ちゃんと、つばさもでるところあるよ!」
純白のドレスの背中側には、ステラの黄金の小さな翼が通せるように穴が開いていた。
「数年前から発注されてたんですが、今朝ようやく完成したんです。
お客様から素材持ち込みでの製作でしたので、未払いの心配はありませんでしたが、まさか1000万金貨を一括で支払われるなんて本当にすごい方ですね。
まあ、そのせいで倉庫が金貨だらけですがっ!」
無愛想で有名なドワーフも、最高の仕事に凄まじい量のお金でもうウッキウキのニッコニコだ。それほど嬉しいのだろう。
「いやはや、腕はあるのに人気がないからって落ち込んでいた10年前の自分に聞かせてあげたい!
今はディアマンテ陛下に認められる最高の鍛冶屋になったよってなっ。ガハハっ!!」
そう、このドワーフは今回の仕事を経て、王様に認められし素晴らしい鍛冶屋として表彰されたのだ。
まあ、放心状態のゼティフォールの耳にも、ドレスを着てなんか踊り出したステラの耳にも届いていないが。
「やっほー!
ずんちゃっずんちゃっ♪」
こうしてステラと、特にゼティフォールは、身の丈に合わないすんごい装備を不意打ちのように手に入れてしまったのであった。
余談だが、魔法系装備が強すぎる場合は、装備者が振り回されないように自動で出力調整してくれるので、事故の心配がないので安心だ。
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