3話 ご飯を食べて元気があふれ出す
〜炎の国・世界中央都市ディアマンテ〜
この街は炎の国の首都であり、軍事力も活気も溢れ、世界的に見ても最大面積を誇る規模で、街ひとつだけで小さめの国より大きいといわれている。
"炎の国"という名の通り、この国は炎によって発展した国。
炎の巨人『ディアマンテ』が建国し、その力で炎魔法を発展させ、戦いだけでなく鍛治や料理、さらには機関車まで発明。
それによって生産と流通の要となり、名実ともに世界中央都市にまで上り詰めたのだった。
* * * * *
ゼティフォールたちはそんなディアマンテの街に、覇王についての情報収集と、腹ごしらえ、そしてステラがこの時代に来た理由などを話すために転移魔法でやって来ていた。
ちなみに、変に目立たないようにゼティフォールは昔に着ていた古〜い黒の貴族服に着替えて、ステラは幼児服がないので、ゼティフォールのジャケットの袖を裂いて羽織っている。
「──な、なんとか転移できた……」
街の入り口にて、門を通り抜けたかと思うと、ゼティフォールは疲労困憊でよろよろと地面に倒れ込む。
「パパ、そこでねたら、おようふくが よごれちゃうよ?」
ステラはまるで小さなお母さんみたいに、倒れ込んだゼティフォールを叱った。
「しかし、もう疲れてしまってな……。
なにせ、魔力は3歳の時レベルまで落ちてるのに、転移魔法を前回と合わせて2回も使ったのだぞ。
少しだけ……あと5年くらい寝かせて欲しいぐらいだ」
そう、覇王の先兵に力を奪われたゼティフォールは、『吸血鬼族・魔王種ゼティフォール レベル2』相当の強さしかないので、そこそこ難しい転移魔法を使うのは大変なのだ。
例えるなら、3歳児に1日2回ピクニックをさせるようなもん。普通なら1回で疲れて寝ちゃうレベルなのに、ゼティフォールは魔王としてのプライドで2回もやり遂げたのである!
「だーめ!
ほら、いくよ。ごはん、たべるんでしょ」
「あ、ぴっぱらないで……!
ステラの力じゃ、服が破けちゃう! この服は古いんだぞ……!?」
「わがままいわないの!」
──ズルズルズル……!!
「あぁああぁぁあ〜〜〜!
やめろ、やめ……いや、悪くない。このままズルズルっといってくれ!」
そんなこんなでゼティフォールは、ステラに叱られつつ引きずられて移動するのも、いわゆるアトラクションで遊んでるみたいで悪くないかもと思うのだった。
* * * * *
「──楽しかったな!
好奇の目には晒されたが、あの新鮮な心地を味わえることを考えれば、些細なことだ。
……しかし、疲れていないか?」
ステラと向かい合わせにテーブルに着き、ゼティフォールはこの調子で食事のことも忘れて満足げに話していた。すると、メニューを見ていたステラは小さくため息をつき、たしなめるように首を横に振る。
「なにたべるのか、きめてから おはなししよ?
パパ、ステラはもうきめたよ」
「……ああ、そうだな。すまない。
魔王として君臨していた500年前はあまり遊べなかったし、覇王軍を退け危機が一旦去ったことで、私とした事がついはしゃいでしまった様だ。
……あ、私は焦がしチーズのデミグラスハンバーグ」
ゼティフォールの注文を聞くと、ステラは呼び鈴を『チリン』と鳴らして店員さんを呼んだ。
「ご注文はお決まりですか?」
店員に尋ねられると、ステラは今までのお母さんっぽさや、ちびっ子感が鳴りをひそめ、背筋をすっと伸ばして落ち着いた雰囲気に変わる。
「こがしチーズのデミグラスハンバーグをひとつ、ラムにくのトマトにこみをひとつ、ラズベリーパフェをひとつ、いただけますか?」
まるで慈愛に満ちた女神のような雰囲気であった。
──そう、時の女神のよそ行きの話し方をマネしているのだ。
そんな事を知らない店員さんとゼティフォールは驚き圧倒され、一瞬言葉を失ってしまう。しかし、なんとか店員さんとしてのプライドで我に返ると、気合の入った声で注文を承るのだった。
「──かしこまりました!!」
● ● ●
「ああ、回復するのを感じる。
凄まじい充足感、吸血鬼で良かったと実感させられるぞ。
チーズのカリッとした食感に食欲をそそる香ばしさ、ワインの深みと肉や野菜の旨みが溶け出したデミグラスソース。
ハンバーグ本体はスパイスの刺激と玉ねぎの甘みが調和し、溢れ出る肉汁がソースとチーズと混ざり合い、まるで口の中でオーケストラコンサートを開いているみたいだ……」
ゼティフォールは500年ぶりの食事に舌つづみを打っていた。
ちなみにここまでゼティフォールが充足感を得ているのは理由がある。
ゼティフォールは魔王であるが、種族としては吸血鬼。
血はもちろんのこと、肉はもちろん、血のウインナーみたいな血液系食品(乳製品や加熱済みでも可)、そして鉄分を多く含む食材を経口摂取すれば、傷は高速修復され魔力も回復するのだ。
つまり、ご飯と睡眠の満足感を一気に味わってるようなものなので、こんな反応になるのも仕方ない。
……ま、ステラには劣るが。
「──うぉおおおおおおあああああ!!
おいしいいいいいい!!!!!」
「お、お客様!!
お店で騒がれては困ります!!
それに、10万ルクス以上の光は他のお客様へのご迷惑になりますので──
ああ、12万……16万……20万……まだ上がって……!?」
ステラは美味しいラム肉のトマト煮込みを食べてテンション爆あがり。勇者の力が解放されて凄まじい光で店内を照らしていく。
幸いなことに浄化系の光なので他のお客様へのダメージは無いが、いかんせんステラが叫んでるし真夏の日差しぐらい眩しいので、もうみんな目を開けるどころではない。
「す、ステラまぶしすぎる!!
ええい、こうなったら……!!」
ゼティフォールは魔法を詠唱すると、回復したばかりの魔力を全部使って闇魔法を放った。
「暗黒よ、光を飲み込め!
──ダークネスホール!!」
……地味だった。
そう、虚空より現れた暗黒の穴は光を吸い込んでいったが、本当に少しずつだけだった。でも、ちょっとずつ軽減されて、ステラがトマト煮込みを食べ終わる頃にようやく平和(?)が取り戻されたのであった。
● ● ●
「──なるほど。
つまり、私を助けるためにこの時代に来たというわけか。
それで、未来の私はどんな馬の骨ともわからないヤツと伴侶になったのだ?」
過去に来るまでの事情を聞いたゼティフォールは、ステラから『パパ』と呼ばれた時から思っていた疑問を口にした。
「うま?
ママはうまじゃないよ」
しかし、ゼティフォールの遠回しな表現にステラはキョトン顔。
するとゼティフォールは苦笑いを浮かべながら言い直した。
「……ああ、いや。
とりあえず、ステラのママはどんなひとなのか、教えてくれるか?」
言い直したことでステラは理解して笑顔に戻り、パフェを美味しそうに食べながら教えてくれる。
「ママふぁね……もぐもぐ。
あむっ、ふぅちあ!!」
もごもごして大事な名前の部分が聞き取れなかった。
「…………口の中のものを飲み込んでから話しなさい。それじゃ、何を言っているか分からず、私はとても困ってしまうぞ」
「はーい!
……むぐもぎゅ……ごくっ。
あのね、ママはルチアっていうんだよ!」
「る、ルチアだと!!?!」
ゼティフォールは狼狽え背中に冷たい汗が伝う。
なぜならルチアとは、かつて魔王として君臨する前から戦い続け、最後にはゼティフォールを倒すために勇者を召喚した女神の名前だったからだ。
勇者とはなんとか戦いを終えたが、女神とは今まで一度も仲良くしたこともなく、和解も歩み寄りもした事がない。出会えばバチバチに戦い、争い、そしてその因縁は500年前からそのまま。
だからこそ、そんな女神と仲良くするとは思えないのだ。
「まあ、女神の名前は広く知れ渡っているし、その女神にあやかって名前を頂戴する人間がいてもおかしくはないか」
そう納得しようとしたが、ゼティフォールの願いは呆気なく打ち砕かれてしまう。
「ん?
そうなの、ママはねめがみさまだよ!!」
──女神ルチアで間違いないようだ。
「………………」
ゼティフォールがもう何も言えずにいると、ステラが嬉しそうに名案を思いつく。
「そうだ!
ママにあいにいこっか!
ママはやさしいから、きっとパパをたすけてくれるよ。
あとね、ママはとってもつよいんだよ」
ステラの名案はゼティフォールの絶望。
ゼティフォールはその名案を聞いて震え上がる。
「……ああ、いや。今はやめておこう、そう……今はな。
急に行ったら驚かせてしまうし、せっかくだから……ぷ、プレゼントも用意したいからな。はは……。
今度、ママに会っても恥ずかしくないくらい準備して会おうか。
……ええっと、もう少しステラと2人で過ごしたいかな……なんて」
──無理だ!
いま会ってしまえば、きっと消し炭にされる。
勇者からせゼティフォールとの間にあった事について聞いてたり、この500年で心情が多少の変化はあるかもしれないが、わだかまりが残ったままで突然ルチアの元に行けば警戒されること間違いなし。
仮に敵対するつもりがなくても、もしうっかり強めのビンタでも受ければチリひとつ残らないほど力の差があるのだ。
「ステラも、パパとおでかけしたい!
じゃあ、ママにたくさん おみやげをもっていこうねっ」
どうやらステラも納得してくれたようでゼティフォールは安堵する。
しかし、母親に会いたい気持ちが消えたわけじゃないし、この時間稼ぎは何度も使えないだろう。
「……ひとまず、また覇王軍が襲ってきても負けない為に冒険者にでもなって力をつけようか。
それに、冒険者なら各地を旅したり、ギルドでの交流で情報集めもできるからな。
しかも人を救うという使命までまっとうできる。これは冒険者にならない手はない」
「ぼうけんしゃ?」
「そうだ。モンスターを倒し、人を守る。時々ネコを探してお金を貰い、他の者と話をして、美味しい物を食べるのだ。
色んなところに行くから、きっと素敵なお土産もたくさん手に入るぞ」
冒険者に興味を示したステラに、ゼティフォールは追撃をかけていく。すると、ステラの表情がどんどん明るくなり、キラキラ(表情的にも、物理的にも)した目でゼティフォールの服を掴み、待ち切れない様子で嬉しそうに叫んだのだった。
「わぁ〜!!
……わたしも、ぼうけんしゃになる!!!」
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