2話 娘ではなかったとしても
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覇王の尖兵に追い詰められた魔王ゼティフォールを助けたのは、己の娘を自称するステラ(4歳女児)だった。
「ステラ、決めてやれ!!」
にわかには受け入れ難かったが、敵を目の前にしてお喋りする暇もなく、ゼティフォールはひとまずステラの気持ちを信じて共鳴する宝珠を託す。
「──どっかーんっっっ!!!!!!!」
そして、新たな勇者として宝珠に選ばれたステラの力は想像を絶する威力だった。
「──す、凄まじい子だな…………」
ギガースと魔導士を一瞬で倒してしまったのはもちろんだが、魔王城があった場所にはちょっとした山ならすっぽり収まるぐらい大きなクレーターができ、残されたのは技の使用者であるステラと、過去の戦いの記憶を重ねるゼティフォールだけであった。
「……勇者、か」
約500年前に繰り広げた勇者との激闘。
威力こそ劣るが、その際に見た『星の勇者』の光撃にそっくりなのだ。ステラは紛れもなく"新しい勇者"なのだろう。
「……私の知っている勇者が助けに来なかったのは、ステラが来るのを見越していたからか?
しかし、世界のためとは言えど、こんな小さい子を戦場に送り込むなんて星の勇者は何を考えているんだ。
……まあ、今の私では逆立ちをしても勝てないほど強いが……それはそれ、これはこれだ」
他にも、ステラと星の勇者との関係とか、本当に自分の娘なのかとか、もし仮に娘だとして未来の自分はどうしているのかとか、戦闘が生きがいな戦闘狂の自分が結婚するのかとか、色々と疑問は尽きないが、何もないクレーターの真ん中で考え続けていても答えは出ない。
「……まずは、私の新しい使命を手伝った上に、命まで救ってくれた恩人になにか礼を尽くさねばな」
ゼティフォールはプライドが高く、合理的で冷静な人格の持ち主だった。
ゆえに、やると決めた事には諦めずに全力を尽くし、己の意志を貫き通し、結果がどうなっても後悔せず受け止める。
そして、人間関係も必要とあれば適切な距離で接する。敵であれば容赦なく、味方であれば最後まで見捨てないやり方こそが、魔王軍の信頼を勝ち取り世界征服を盤石なものにしたのだ。
それが魔王の名を掲げた者としての誇りであり、これからも変わらないゼティフォールの生き方なのだ。
だからこそ、これからは勇者から託された使命も最期までやり遂げるつもりであり、ステラのことも大切にする予定だ。
「……うぅ」
技を放ったままのポーズでなぜか動かなかったステラがうめくと、お腹を抑えてポテンっと倒れてしまう。
「ステラ、どうした!?」
ゼティフォールはとっさに飛び出て体を支える。
よく見るとステラの顔色は悪く、圧倒されるほどの凄まじい力も今は何も感じられない。
小さな体であれ程までの力を使ったのだから、何か副作用でもあるのかとゼティフォールは危惧するが、当の本人の口から飛び出た言葉は予想外のものだった。
「……おなかへった」
「へ?」
ゼティフォールが素っ頓狂な声を漏らして呆気に取られていると、ステラは寝巻きのポッケから何かを取り出す。
「あった」
「……チーズ?」
そう、ポッケに入っていたのは紛れもなくチーズ。それも、ひとくちサイズのキャンディーチーズだった。
「……チーズを食べて何になるのだ?
まさか、それで治るわけが──」
ゼティフォールが言うが早いか、ステラはキャンディーチーズを包装紙から取り出して口に放り込む。すると……。
「なおった!」
「え?
いや、待っ──」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
──ビガァアアアアアアアアアアアン!!!!
「こ、これは……眩しすぎる!!!?
……って、うぉあああああ!?!?」
ステラからギガースたちを倒した時の数倍の眩しさの光が溢れ出したかと思うと、ゼティフォールを凄まじい勢いで空の彼方まで吹き飛ばしてしまうのだった。
──…………キランッ。
● ● ●
──1時間後。
「──って、おい!!
いきなり上級勇者魔法を発動させるんじゃない。危うく消し炭になる所だったぞ!」
「えへへっ。
ついやっちゃった!」
「ついで済まされる威力ではないぞ、まったく。
ああ…………本当に、転移魔法があって良かった。そして、光耐性を付与してくれた星の勇者に感謝……」
そう、空の彼方に飛ばされたゼティフォールは、勇者が500年前に宝珠をくれた時に得た光への耐性によってなんとか生きながらえた。
ただ、勇者の魔法は特別で、光属性無効になったはずのゼティフォールの耐性を貫通してダメージを与え、凄まじい爆風で大陸を横断するまで吹き飛ばしていたのだ。
その後、ゼティフォールはなけなしの魔力を使い切り、ようやく転移魔法で魔王城跡に戻ってきたのだった。
「命の恩人ではあるが、さすがにこれは少し怒るぞ……」
ゼティフォールがため息をついてそう呟くと、ステラの笑顔がみるみるうちに陰っていき、目に涙を浮かべながらゼティフォールの服の裾を掴む。そして、小さな声で申し訳なさそうに言った。
「…………ごめんね。ごめんね……パパ、ステラをおいてかないで……。
おてつだい、するから。パパをたすけるから。いかないで……」
その様子を見たゼティフォールは、未来の自分に何かがあり、この子を独りにしてしまったのだろうかと考えた。
もしそうなら、今ステラを突き放してしまったら、誰がこの子を守れるのだろうか?
星の勇者が出現するかもわからない以上、今目の前の恩人にできる1番の恩返しは、きっと『パパ』として接してあげることに違いない。
「……済まない、不安にさせたようだな。
ステラ、安心しろ。私はどこにも行かないよ。
なにせ、君が助けてくれないと困ってしまうからな」
ゼティフォールは初めて冗談を言った。そして、それを聞いたステラの安堵したような笑顔を見て、人と歩み寄るのも少し悪くないと思うのだった。
「ほんと……?
へへ……よかった……」
「ああ、本当だ」
まだ娘だとは確信できてないが、少なくとも完全に親子関係を否定されるまでは保護者でいてもいいだろう。子供を持った事がないので、やり方はわからないが。
それに、親子かまでは分からないにしても、吸血鬼の特性である血(乳製品)による急速回復と、ゼティフォールと同じ赤い目をしているし、同族の血が流れている事は確かだ。
まあ、吸血鬼にはない翼がステラには生えているので、純粋な吸血鬼ではなく他の種族とのハイブリッドだろう。
「……そろそろ食事にしたいな。
ステラもキャンディチーズだけでは、満たされてないだろう?
私も目覚めてから何も食べてなくてな、そろそろ限界なのだ」
ゼティフォールはしゃがむと、ステラに目線を合わせて穏やかな声で提案した。
「うん、おなかへった。
あのね、ステラもチーズたべたけど、ピカってしたからおなかへっちゃった」
ステラは照れ笑いを浮かべながら、ゼティフォールの手を握る。
「ん…………?」
手を繋ぐという行為をしたことがなかったゼティフォールは驚いてしまうが、その手を振り解かずに、少し考えた末にそっと握り返した。
「ふふっ。
パパとおててつないだの、ひさしぶりっ。うれしいね」
ステラは元いた時代にて戦いが激化する前、母ルチアがまだ結晶に囚われずゼティフォールの余裕も残っていた頃に、よく家族3人で手を繋いでピクニックに行っていたのだ。
「……そうだな」
ゼティフォールは事情は知らないが、笑顔の中にまぎれる寂しそうな表情に同情して頷いた。
「あのね、パパはパパじゃないけど、パパだから、その……ステラとなかよくしてね?
パパがこまったら、わたしがたすけるからね」
そんなゼティフォールの曇った顔を見たステラは、なんとなくだが心の距離を感じ取ってしまう。
そして、うまく表現できないながらも頑張って気持ちを伝えるのだった。
「……ああ。私としたことが、また気を遣わせてしまったか。すまない。
…………よし!
それでは、このような所にずっと居ても始まらないし、早く街へ行って、食事をしながらお互いのことを話し合おう。
きっとステラも知らないパパの一面も、たくさん知れるに違いないぞ」
「やった!
たーくさん、パパのおはなしきかせて!」
「もちろんだ。
さあ、おいで。……楽しい冒険のはじまりだ」
ゼティフォールは気を取り直して魔法陣を出現させる。そして、ステラをそっと抱き上げると、一緒に街へ転移していくのだった。




