33話 笑って欲しくて
光の神殿の最奥……そこは、荘厳な雰囲気で何人たりとも寄せ付けぬ、神聖な空間。
黄金の宝石が散りばめられた装飾と、オリハルコンでできた家具、オブジェが並んだ女神ルチアのためだけの部屋。
──しかし今日は違った。
「それでね、それでね、ディアマンテって人、すご〜く大きかったの!
大きすぎて、お顔が見えなかった」
「お顔が見えないほど?
それは凄いわね!
あの者は少し見ないうちにすぐに大きくなるからね、妾も毎度のように驚かされるわ」
ルチアは金の糸で編まれたフカフカのソファに座り、膝の上にステラを乗せて憩いのひと時を過ごしていた。
「ママも知ってるの?
ステラといっしょだね!」
この時間軸のルチアはステラを育てたわけではないが、前の時間軸のルチアから記憶を引き継いでいる。それと血のつながりもあるからか、会って間もないのにもう完全に打ち解けていた。
「ええ、一緒よ。
戦いが落ち着いたら、ママと一緒にいろんな所に遊びに行きましょうね」
「うん!
えへへ……たのしみだねぇ」
● ● ●
星の勇者が大きくなったステラだという話を本人にした時は、ステラも困惑し、戸惑っていたのでゼティフォールたちは戦々恐々としていたが、今のステラはその時のステラとは違い(歴史のつじつまを合わせる修正力に影響されない)特異点であること、実際にゼティフォールを助けられていることを分かりやすく伝えると、ステラも納得して『ステラはほんとの勇者になる!』と意気込みを語っていた。
そして、ルチアの私室に一行が通されると、フレアも家族の一員として迎え入れられ、お土産話に花を咲かせるのであった。
● ● ●
「──ブラックオクトパスの包み焼きボール、外はカリッとして中はジュワッとトロトロで美味しかったです。
また食べたいですね。
……そうだ。トロトロと言えば、バトルバッファローのチーズ串も美味しかったですね。
こんがりした部分と、トロッとした部分があって、口の中がミルキーな旨味で満たされました」
フレアもこの輪に馴染み、みんなと楽しそうに話をしていた。
「だが熱すぎて、私は危うく口の中を火傷しそうになったがな」
ゼティフォールとフレアは並んで、ルチアたちの対面のソファに座っている。
「それはゼティフォールさんが『せっかくなのだから、ダイレクトに旨味を堪能したい』とか言って、体を保護するマナを消してふーふーもせずに口に放り込んだからでしょう?」
「あのときのパパ、おもしろいかおだった」
「ふふっ……ゼティフォールはすぐに無茶をするんだから。
無茶のしすぎで、また悪堕ちしないでよ?」
「するか!
さすがにチーズを口に含んだまま絶望して世界征服だなんて、格好がつかないだろ」
こんなブラックなジョークが言えるのは、もうゼティフォールが悪に染まらないとみんな信じているからだろう。
「さすがに同族である僕も、ゼティフォールさんがチーズが熱すぎて悪堕ちなんてしたら斬り…………いや、笑っちゃいますね」
「ステラもわらっちゃうかも」
「おい、斬ると言おうとしたか?
……いや、だが、そんな事になったら恥を晒す前にズバッと倒してくれた方が良いのか?
あ、そんな事より大事なものを忘れていたな」
ゼティフォールの言葉に、ルチアに渡すべきものがあるとステラとフレアが思い出した。
「そうでしたね!」
「おみやげ!」
3人はそれぞれ、カバンやポケットから取り出すと、ルチアに向き直って手渡していく。
「ディアマンテの街が大きすぎて全部は回れなかったが、目につくところには寄り、その時みんなでこれを作ったのだ。
受け取って欲しい」
ゼティフォールは懐から金属粘土で作った2頭身のちびキャラ人形を取り出して渡した。
「……え、これはもしかして妾を作ってくれたの?
あ、ありがとう……!」
ルチアはゼティフォールから人形を貰うと、宝物のようにそっと手で包み込み胸元で抱きしめた。
「僕はこれです。
……初めてにしてはなかなか上手くできたと思いますよ」
ドヤ顔でルチアに渡す。
「……フレアは聖剣を作ったのね!
ふふっ可愛らしい」
穏やかな優しい目でふにゃふにゃの小さな聖剣を見つめる。
そんな中、ステラはもじもじしながらルチアを見ていた。
「……どうした、ステラ?
せっかく作ったのに、ママにあげないのか?」
「……でも、あんまりじょうずじゃないし……」
ここに来る少し前までは渡したくて渡したくて仕方がなかったはずなのに、いざ目の前に来るとママが本当に喜んでくれるのか不安になってしまい、ステラは自信がなくなり、急に渡すのが恥ずかしくなってしまったのだ。
「……大丈夫、ママは喜んでくれるさ。
私から見ても素晴らしいからな、もしママにあげないならパパが貰ってしまうぞ?」
ゼティフォールはそんな気持ちを察して、柔らかな声色で冗談めかして言った。
「ダメ!」
すると、ステラは慌てたようにゼティフォールから離れた。
パパが嫌いなのではない。ただ、ここで手放してしまったら、もしプレゼントしたらママが喜んでくれるかもしれない……そんな小さな希望も完全に無くなってしまうと本能的に察したのだ。
プレゼントしなければ、ステラが作ったものを見てママがガッカリする事もない。でも、プレゼントしないと喜んでもくれない。
しかも、うかうかしてたらパパが取っちゃうかもしれない。
きっとパパはイジワルな事はしないはずだけど、本当に貰われてしまったら……?
……ステラは胸の奥がギュッとなる気持ちが嫌になり、ソワソワして、モヤモヤして、でもママに喜んで欲しくて…………言葉に上手く表せない複雑な気持ちを抱えてさんざん悩み、最後にはいてもたってもいられず少し乱暴に人形を渡すのだった。
「……む〜〜……!
はい、どうぞっ!!」
すぐには顔を見られない。
ママは何も言わなかった。文句は言わなかったが、笑ったり大きな声も出さない。
どんな顔をしてるのだろう?
……2秒、3秒……5秒…………10秒……躊躇いながら、チラリと顔を見た。でも、前髪でママの表情が見えない。
ステラは不安になって泣きそうになるけど、なんとか我慢して強がりを言う。
「いらないなら、ポイしていいよ……」
そんな事して欲しくないのに言ってしまう。
でも、その時に見えてしまった。ママの表情を──
「……え、ママ……ないてるの?」
「…………うん」
ルチアは泣いていた。
雪だるまみたいなルチアを模した人形から、その小さな手で頑張って作った事が伝わってきた。
ママに喜んで欲しくて、そのために一生懸命作ったのだと伝わってきた。
本当に一生懸命だったからこそ、プレゼントするのが不安だったのも察する事ができた。
全てはルチアのために。
「いやだった?」
不安げなか細い声でステラが尋ねる。
「そんな事ない……!」
ルチアは即答してステラを抱きしめた。
「ほんと……?」
「本当よ。
嬉しすぎるとね……泣いちゃうことがあるのよ」
「うれしいの?」
「うん、とっても嬉しい。
……作ってくれて、ありがとう。ずっと宝物にするからね」
ルチアが涙を拭いて優しく微笑みかけると、ステラはようやく安心して照れたように笑うのだった。
「えへへ……よかった」
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