32話 家族
「──だから、記憶をこの時代の妾に移して、元の世界の妾は世界ごと消滅した……。
……だから、ステラにとっての元のママとパパはどちらも生きていないのよ」
ステラがパパを助ける。それだけのために背負った業は、想像を絶する重さだった。
両親を助けるためには、一度両親を見殺しにするしかない。
星の勇者として対峙したステラは何を思ったのだろうか?
ゼティフォールは胸が締め付けられた。……が、ひとつおかしな点がある。
「……それだと、フレアに未来を伝えることはできない」
そう、星の勇者をした18歳ステラは、ゼティフォールを助けに来ることはできなかった。ならば、ゼティフォールが目覚めてのことは知るよしもない。
知らないのなら大きくなって勇者になっても、フレアを育てて先回りさせるなんて不可能だ。つまり──
「うちのステラは将来、時空転移して過去に行き、私たちのために準備をしてくれるのか」
その未来ではハッピーエンドなのかバッドエンドなのかは分からないが、少なくとも消えた時代よりは長く保っている。
確かめることはできないが、少なくともステラの存在がゼティフォールやルチアだけでなく、世界にとっての希望になり得る証拠でもあった。
「……それは知らないわ。
下手に力を使えばこの場所を悟られるから、閉じこもっていたのだけれどまさかそんな事が……。
ディアマンテに宝珠を託して貴方に渡したのも場所を知られないためなの。
それで…………もし、もしも、将来のステラが存在しているなら、前回の妾が経験した滅びは免れているのかもね」
淡い希望。確信はない。だが、絶望に待ったをかけるには十分だ。
「…………それで、今更だが私をこんな所に飛ばしたのは、ステラに聞かせられなかったからか?
それと、私の腹のから退いてくれると助かる」
「……え?
え?!
わ、忘れてた……」
そう、ルチアはゼティフォールをぶっ飛ばした後、飛んでいくゼティフォールのお腹の上に優雅に座ったまま喋っていたのだ。今の今まで。
「……そうね。
難しい話だし、『あなたのママとパパはもういません』なんて言えないでしょう?
だから、先に貴方と話をしておきたかったの」
「確かに、4歳の子に言うには重たすぎる」
「あの子にとっては、もう頼れるのは妾たちだけ。だから愛してあげてね?」
ルチアは顔色を窺うように、そうあって欲しいと願うように、心配そうにゼティフォールに言った。だが、そんな心配をよそにゼティフォールは笑う。
「ふふっ。バカな事を言うな」
「え……?」
ルチアが困惑し、うっすらと裏切られたような感覚に陥りそうになるが……ゼティフォールは間髪入れずに断言した。
「ステラは何と言われようが既に私の娘だ。
愛しているに決まってる。4歳になる前の思い出なんて無いが、会ってさほど月日も経ってないが、しっかり絆を築いたんだからな。
呼吸、仕草、考え方、信頼……それは時間によって培われるものじゃない。どれだけ互いに向き合ったかで決まるんだ。
だから、もうステラと私は信頼しあっているし、愛情も責任もある」
目覚めてから1ヶ月ちょっとで、ゼティフォールの意識は変わっていた。
もうステラは娘なのだ。そして、もちろんフレアも家族だ。……ステラの将来の養子なら、孫になるのだろうか?
そんなゼティフォールの柔らかな優しい顔を見たルチアは、志が高かったあの頃のゼティフォールを思い出し、嬉しそうに笑った。
「そう……そうね」
惚れ直した。……のだが、そんなルチアの気持ちはもちろんゼティフォールには伝わってない。
ただ、ルチアのそんな笑顔を見て、ゼティフォールも嬉しくなったのは確かだった。
「さあ、そろそろ戻ろうか。
ステラとフレアもきっと待ちくたびれているぞ」
「分かった。
……あ、その前に」
「なんだ?」
「……妾が姿を隠すことで敵も警戒して全力が出せないわ。
油断は禁物だけれど、その隙が勝機に繋がるかもしれない。だから頑張ってね、ゼティ──」
* * * * *
ゼティフォールたちはルチアの時を翔ける翼で神殿に戻った。
できるだけ、平静を保つように心がけながら。
「──ただいま」
「おかえりなさい!
パパもママも、お話できた?」
「ああ、しっかりお話しできたよ。ありがとう、可愛いちゃん」
ゼティフォールは優しい声でそうステラを呼びながら抱きしめた。
「うん、かわいいちゃん!
かわいいちゃんはね、ちゃんとおるすばんできたよ?」
「えらいな」
そんなやりとりを見てフレアは懐かしむように、そして寂しげにしていたが、ゼティフォールがふと顔を上げて。
「フレア、君も家族なんだから気にせず来い」
「え、僕も家族……?
でも、さすがに親子水入らずのところに入るのは……」
フレア戸惑いをものともせず、ゼティフォールは堂々と。
「……話は聞いた。
そう、血は繋がってないが……フレアは私の孫、だろう?
だから遠慮するな」
その言葉を聞くとようやく納得したのか、フレアがニヤリと笑う。
「……なるほど〜!
じゃあ、遠慮しませんよ。とりゃっ!」
「ぐはっ!?
本当に遠慮の欠片もないな!
だが、それで良い」
「まごってなに?
どういうこと?
でも、ステラもフレアもいっしょがいい!」
「えへへ〜」
そこに真打ち登場、嬉しそうな表情のルチアが構えを取る。そして──
「妾も、いれなさーい!」
──こうして、親子三代のひとときの仲睦まじい時間を楽しむのだった。
「ぐぁあ〜!?
……ルチアは少しぐらい遠慮してくれ〜!」
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