29話 女神の洗礼
「──パパを助ける、さいきょーのゆーしゃ!
シャイニーステラ!!」
──シャラララ……きゅぴーん!
「素晴らしい!
ステラ、素晴らしいぞ!」
「ステラさんのキメポーズも、良い感じに仕上がってきましたね……!」
「やった〜!」
ステラが血の魔法を習得して数日後、フレア邸の朝は大盛り上がりだった。
一応転移魔法で女神ルチアの神殿まで行けるはずだが、転移ポイントの安全が確認できないので陸路で行くことにしたのだ。
なので、この数日で念のために遠征の準備をしつつ、こうしてステラの魔法少女化計画を進めていた(もちろん、日々のお勉強と魔法の練習も欠かさない)。
「……じゃあ、そろそろ出発しようか」
テーブルに置いてあった荷物の山を、魔法の赤貴族服の懐にしゅるしゅっと収納していく。空間拡張の魔法で、ジャケットのポケットが大容量アイテムBOXになっているのだ。
「はーい。
パパ、ブラッドクッキーとチーズは入れた?」
ステラは星マークが付いた可愛いウエストポーチを腰に巻きながらゼティフォールに確認する。
「いれた。
それに、ステラのウエストポーチにもいくつか入れてあるからな」
「ありがと」
「野営の道具とサバイバルアイテム、食料は僕の鎧の方に入れてます」
「他、忘れ物はないだろうか?」
「回復アイテムもありますし、多分大丈夫ですね。
まあ、仮に忘れててもワープポイント設置のスクロールを使って行き来できますし、そこまで神経質にならなくても良いんじゃないですか?」
そう、ワープポイントを任意の場所に設置すれば、そのポイントを回収したり破壊されなければ簡単に戻れるのだ。
一人旅ならワープポイントが破壊される心配があるだろうが、今回は3人なので見張りを置ける。
「それもそうか。
…………我々はそれぞれがただの冒険者という枠組みには当てはまらない強者だ。
油断は禁物だが、焦らず気楽に神殿まで向かおう。なにせ、その後どうなるか分からないからな」
ステラは知識が少ないが最強格だし、フレアは強い上に経験豊富だし、ゼティフォールはまだ実力こそ伴ってないが賢く誰よりも経験があり、何より確定会心なのでダメージさえ与えられれば格上にも戦える強みがある。
過去に魔王にまで上り詰めたノウハウを活かして、この数日で最高効率で修業をし、今ではホブゴブリンを超えてデミ・リッチぐらいの強さになった。このマナの強さならデミ・リッチ + 数体のアンデッドなら問題なく渡り合えるだろう。
「確かに。
覇王との戦いに向けて、なにか動きがあるかもしれませんからね」
「まあ、それもあるけどな……」
フレアが納得したように言うが、ゼティフォールは苦笑いを浮かべ歯切れの悪い返事をする。
「……?
何かあるんですか?」
「ママはね、パパを見るとどっかーんってなるからね、いまのパパじゃ『ぐわ〜!』ってなると思う」
フレアの疑問にはステラが答えてくれたが、フレアはピンときていないようで、さらに混乱させてしまったようだ。
「…………まあ、行けばわかる……のかな?」
そんな疑問を抱えつつ、フレアはゼティフォールとステラと共に
「ルチアが変わってなければ分かるはずさ。
……はあ、何度消されそうになったことか……」
* * * * *
旅は順調だった。
戦いは最小限に済ませて、大技が必要だったり時間がかかりそうだったり面倒な敵は迂回した。
野営時には簡易結界付きのテント(空間拡張で中身はコテージのようになってる)で快適な夜を過ごし、朝にはステラのお勉強の時間を設け、時に紅茶を楽しみつつも、スムーズに神殿までの道のりを進んだ。そして──
「着いた……!!」
「ここなんですか?」
とある辺境の地の山の頂上にある、一見何の変哲もない寂れた遺跡。
折れて倒れてしまった柱、削れて何が描かれているのかも分からないレリーフ、崩れて地面に散乱した屋根の瓦礫、神聖さを全く感じず寂しさだけが横たわる石造りの遺跡だ。
しかし……。
「うん。
ママのところに行くのにね、ギミックがあるの」
そう、そのギミックをクリアしないと女神のところに行けないのだ。
「石板を指定の順番で祭壇に置き、回転させて、その石板の溝を繋いで、スタート位置から丸い魔石を転がすんだ。
そして、それが終わったら魔法陣が浮き上がる。その魔法陣もなかなかくせものでな、じつはランダムで間違っている部分があり、そこを魔力を使って描き直すんだ。間違えば虚空に送られてしまう生死を賭けた転移魔法陣だ。
しかもそれで終わりじゃない。
さらに──」
つまり一つでも難解なのに、それが何重にもあり、しかもそれぞれが最悪死に至る恐ろしいギミックなのだ。
ルチアの元に行くにはそれを突破しなくちゃならない。
「……なんだか、途方もないですね。それ、クリアできるんですか?」
「ステラはね、これでまちがったことないよ?」
しかも、ステラは知らないが、仮に間違えてもステラだけは合格にしちゃう甘々設定なのだ。
そんなこんなでしばらく語った後、ゼティフォールはこう締め括った。
「ま、安全は確保されてるし、時間のかかるギミックは無視して転移魔法陣だけ呼び出して起動しちゃおうか」
そう、ギミックをスルーして最終プロトコルを呼び出すチート魔法を、ゼティフォールは勝手に作ってしまっているのだ。
「え、それって大丈夫なんですか?」
「呼ばれてるのだから、大丈夫だろ」
ゼティフォールはフレアの心配も意に介さず、祭壇に手をかざして無理やり魔法陣を起動した。
「うぅ〜!
やっとママに会えるね。ステラのおにんぎょう、よろこんでくれるかな?
ワクワクしてきた〜!」
* * * * *
──時と時の狭間、永久不可侵の光の神殿。
光以外何もない空間に浮かぶそれは、黄金の宝石でできた荘厳な神殿だった。
そして、一行が宝石の扉を開けると、人影が見えた……かと思うと、その刹那──
「ゼティフォール〜〜!!!!」
真紅の何かが光速で真っ直ぐ突き進む。
「ひぃっ!!?」
──シュッ…………チュドォォォオオオンッ!!!!!
「ぐあぁぁぁあああああ〜〜〜!!!?」
そして、ゼティフォールはそのタックル(?)してきた何かとともに、彼方へと飛ばされてしまうのであった。
「ぜ、ゼティフォールさ〜〜ん!??!」
「……もう、ママったら。ふふっ」
お話を読んでくれて ありがとうございます。
良いなと思ったら 気軽に
ブックマークと ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎(ポイント)を
よろしくお願いします。




