26話 贈り物
金属粘土のアクセサリー作りを終えたステラたちは、互いにお披露目していた。
「ステラのはねぇ、これ!」
丸々とした雪だるまのようなフォルムをした、翼のある白金色の人型金属人形だ。
ステラの手のひらに収まる可愛いサイズで、かろうじて顔があるのが分かる。そして、縦ロールツインテールはとても頑張って作った痕跡が見える。
「ルチアだな、よく出来てる。
なかなか形を整えるのが難しかったのに、誰だか分かるように作れるなんてすごいぞ。
私の血を継いでいると、感じてしまったな」
ゼティフォールは感動したように頷いた。
「えへへ……ママも、よろこんでくれるかな?」
ステラはパパに褒められて照れ笑いを浮かべる。
「必ず喜んでくれるさ」
「やった!」
「……僕はこれ!」
今度はフレアが得意げに塊を見せつけた。
「えっと……とり?」
その翼を広げたぐちゃっとなった棒状のものを見て、ステラが首を傾げるが、フレアはその表情を崩さずに答える。
「ちっちっち。
聖剣グローリアですよ⭐︎
しかも、展示室にあったのはグリップとツバだけですが、これは刃も付いてる完全版!
師匠の持ってた本物を見たことがあるからこそ作り上げられた、自身の逸品です」
雰囲気だけは巨匠だった。
刃はぐにゃぐにゃ、翼型のツバのサイズは左右で違い、唯一グリップがまっすぐなのが評価点。
とは言え、その勇者の剣はまるでちびっ子が作った作品みたいでとても微笑ま可愛い。
「グローリアか。
あれで刺された時は、お腹がとても温かかったな」
星の勇者との戦いで刺されたゼティフォールは、その聖剣から溢れる神聖な光で内側から照らされた。
今思えば物理的な痛みは無く、なんだか腹痛の時にお腹を温めてくれた時みたいに心地よかった気がする。まあ、それがトドメになったのでダメージ自体は受けてたのだろうが。
「みんなの分あるので、受け取ってお守りにでもしてください。はいどうぞ、はいどうぞ!
ルチア様も喜んでくれると嬉しいな……」
「ありがとう、フレア!」
ふにゃふにゃグローリアを貰って本当に嬉しかったみたいで、ステラはハンカチを取り出して包み込むと、大切にウエストポーチにしまった。
「私の分もあるのか。
ありがとう、宝物にする」
ゼティフォールは優しく笑うと、ふにゃグロを懐の内ポケットに入れる。
「傑作でしたから、そう言って貰えると作った甲斐がありました」
「それで、パパは何作ったの?」
「私はこれだ」
ゼティフォールが作ったのは、ステラとフレアの2頭身ちびキャラ人形だった。
まるでプロが作ったみたいな出来栄えで、デフォルメされているのに特徴もよく捉えており、ゼティフォールがどれだけ2人をよく見ていたかが分かるものだった。
「ふぁあああ……!!
すご…………!
パパありがとう……!!!」
「ぼ、僕が…………ベリかわキュートちゃんになってます……!!
こんなの、もう小さき命ですよ、まったく……。
可愛さで罪に問われるなら、このちびフレアとちびステラさんは島流しにされちゃいますね」
2人とも大喜びだ。
「ほ、褒めすぎだ……っ」
真剣に作ったし、喜んでもらえるだろうとは思っていたが、ここまでくると予想外で、ゼティフォールはどんな顔をして良いか分からず赤面してしまった。
そんなこんなで、たまたま見かけた金属粘土のアクセサリー作り体験は大成功に終わったのだった。
* * * * *
ゼティフォールたちはその後、バトルバッファローのチーズ串や、ブラックオクトパスの包み焼きボールなどを食べ歩きしながらディアマンテの街を見て回った。
流石に街が大規模過ぎて全部は見て回れないが、城と金属粘土と食べ歩きで、観光の醍醐味はほぼ味わえただろう。
「おひさま、もうまっかっか」
夕焼けの柔らかい赤で街が染まり、反対側の空には静かな紺色が迫っている。もう夜が近い。
「そろそろ帰りますか?」
名残惜しいが楽しい時間はもう終わってしまう。
明日は血の魔法をステラに教えて、近々ルチアのところに向かわなければならない。
そうなると、忙しくなるだろう。
「…………ん」
ステラは頷いたが表情は曇っていた。まだ帰りたくないのが伝わってくる。
そんなステラを見たゼティフォールは、少し考えて静かに言った。
「遊ぶには時間がないんだ。
でも、少しだけ寄り道しようか」
「……いいの?」
「今日はステラのための観光だからな、最後に楽しかったと笑顔になってほしいのだ」
「うん!」
「ゼティフォールさん、どこに行くんですか?」
「先ほど街を回っていた時に良いところを見かけたんだ。来なさい」
ゼティフォールが2人をそっと抱えると、風魔法で飛翔する。
「ぅわっ!?」
ステラは急な出来事に驚き、目を瞑ってパパにしがみついた。
「ゼティフォールさん、ここまで魔法が使えるようになってたんですね!」
空中移動の魔法は比較的難しく、ただ飛ぶだけでなく2人も抱えて、しかも体に負荷がかからないように調整して高速移動までするのは、ゼティフォールだからこそ為せる技だ。
「威力とか出力が必要なものはまだまだだし、飛びながら他の魔法を使ったりもまだ出来ないがな」
それでも、魔王時代に培った経験は生きていた。
「…………さあ、着いたぞ」
ゆっくり2人を下ろすと、ちょうど少し冷たくも心地いい風が吹いてきた。
「……め、あけていい?」
「ああ。綺麗だぞ」
パパの許可を得たステラが目を開ける。すると、眼前に広がる黄金に染まった世界が広がっていた。
「……………………」
言葉が出なかった。
フレアもその光景に目を奪われ、静かに佇んでいる。
「ここの景色は変わらず美しい」
ディアマンテの城にある尖塔の頂上。そこから見渡す景色は息を呑むほど神秘的だった。
地平線をまっすぐ光がなぞり、中心を太陽が照らして、それはまるで世界にはめられた荘厳な指輪のようだ。
「……きれい」
「こんなの、初めて見ました。
一生忘れないと思いますよ」
「気に入ってくれて何よりだ」
そう言いながらゼティフォールがポケットから何かを取り出す。
「それは?」
フレアが気がついて尋ねると、ゼティフォールは後ろを向くように促した。そして、言われるがままに背を見せると──
「事前に買っておいたのだ」
銀髪に映える黒いシルクのリボンを使い、フレアの後ろ髪をまとめた。
「え……いつの間に。
その、あ……ありがとうございます」
大きなリボンで少し幼なげな雰囲気になったが、元の儚げな雰囲気と相まって深層の令嬢のようだ。
「ステラ、君にもプレゼントだ」
「……え?
プレゼント?」
声をかけられ我に返ったステラが訳もわからず振り向くと、ゼティフォールが真紅の宝石がはめられた金細工があしらわれたネックレスを首からかけた。
「ブラッドルビーで作ったネックレス。
特に決まった魔法はかけてないが、ステラが笑顔になれるように願いを込めてある」
父親になると決めた日から準備していた、初めての娘へ贈り物だった。
意味を察したステラは目に涙を溜めて、くしゃりと一瞬顔を歪めると、次の瞬間感情が溢れ、涙を流しながらパパを抱きしめた。
「……パパ〜!!
ありがとう〜……!!」
この日はステラにとって、そしてフレアにとっても大切な日になったのであった。
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