25話 保留、そして観光
「──聖杯だ」
女神ルチアからのお贈り物。
それは、真紅の闇と掛け合わせることで聖杯になる宝珠だった。
血の魔法が使えない覇王はもちろん、血の魔法は個々人で違うものが発現するものなので、実質ゼティフォールにのみ宝珠の真価を発揮できるのだ。
とはいえ今はそのダークローズを使えるほどゼティフォールは強くないのでまだお預けだが、いずれ宿敵を倒す時の切り札になるだろう。
「その、聖杯を使った魔王の力って、ゼティフォールさん個人が編み出した魔王の力と、どう違うんですか?」
フレアが疑問に思うのも無理はない。
ただ強いだけなら、現状実力が上でゼティフォールから奪った魔王の力を持つ覇王にどうやっても勝てない。なら、それを打破できる何かが必要なのだ。
「魔王は、本来魔族の王ではなく魔法王だというのは伝えたな。
魔法とはそもそも、魔力を使う特殊効果全体を指す言葉だ。
もちろん、奇跡と呼ばれる神聖光魔法も。そして、世界のすべての存在には魔力が流れる。
つまり、魔法も奇跡も自分の意思で思うままに操る、至高の願望器。
不可能も可能にする、持つ者の意思を世界のルールにしてしまう恐ろしいものだ」
「『………………」』
フレアとディアマンテは、聖杯の凄まじさに言葉を失ってしまう。
だが、ステラは怖がる様子もなく。
「でも、わるいことしたらママがおこっちゃうよ」
そんなステラの指摘にゼティフォールはクスッと笑う。
「……そうだな。
きっと私が悪いことに使おうとしたり、不必要に乱用しようとしたら、きっとこの宝珠の効果はなくなり、聖杯も消えるのだろう。
……つまるところ私とルチア、双方の意思が合致した瞬間のみ力を得られるというわけだ」
聖杯の力を完全に引き出すことができれば必ず勝てるだろう。
そして、それと同時にその難しさも悟るゼティフォール。
「そうか、未来の私とルチアは……聖杯を扱えなかったのだな」
聖杯をコントロールできなかったのか、もしくは作り出すことすらできなかったのかは定かではない。だが、ステラの元いた時代の2人は、その域に達することができず負けたのだ。
きっと、ただダークローズを使うだけでは聖杯を扱えない。ただ難しいだけでは済まされないのだ。
時の女神と血の魔王、かつて敵対していた2人が全てを出し切り協力しあうからこそ得られる奇跡の力。
奇跡を扱うためには、先に奇跡を起こさなければならない。
それが聖杯だった。
* * * * *
ゼティフォールたちはディアマンテと別れを告げて街に戻ってきた。
だが、ゼティフォールは宝珠を手に入れてずっと考え込んでいた。聖杯を手に入れるために何をすればいいのか、何が必要なのか。
未来の自分でも成し得なかったのに、今の自分に何ができるのか。
「……2人でできないなら、どうすれば……」
行き詰まる。
魔法に詳しく、人類で唯一魔王の頂に触れたゼティフォールでも打開策が浮かばなかった。
「──パパ、きいてる?
パパ……パパ!」
「……え?
あ、ああ……すまない」
深く考えすぎて、ステラの声が聞こえていなかったようだ。
「ちゃんと、おはなしをきかなきゃダメだよ?」
「……そうだな。ステラのいう通りだ」
「聖杯のことですか?」
「ああ。ただ真紅の闇を加えるだけでは光と闇が混ざりきらないのかもしれない。何か他にも必要なはずだ。
だが、その何かがいくら考えても分からないのだ」
「こまったら、ステラがたすけてあげるからね」
「……そうだな。
ステラは頼りになるし、困ったら言うよ」
ステラのその当然のように言った何気ない言葉で、解決こそしていないもののゼティフォールは少し心が軽くなるのであった。
「……あ、パパ!
ねんどであそべるって!」
「粘土?」
ステラの指差す方を見ると、看板には『金属粘土・アクセサリー手作り体験』と書かれていた。
「金属粘土というのは特殊な金属で、元々は本当にただの粘土にしか見えないんですけど、1万度で焼くことで光沢のあるすごく硬い金属になるんです。
この街の名産でもあるんですよ」
名産というだけあり、お店の中には地元の人はもちろん観光客らしき人もたくさんいる。
「ステラやりたい!
ママつくるの」
「ママ?
……ふむ、それはきっと喜ぶだろうな。
じゃあ、入ってみるか」
「いらっしゃいませ、3名様ですね?」
店に入ると優しそうな店員さんが店員さんが出迎えてくれた。
「はい、3人です。
金属粘土のアクセサリー手作り体験をしたいんですが」
中には金属粘土で作られた壺や人形などの工芸品が棚に並べられ、いくつものテーブルが並び、奥にはかまどが設置されていた。
案内の店員さん10人の他にも、焼成をする職人さんが10人、お客さんも50人以上で大賑わいだ。
「手作り体験ですね。では、先に料金をいただきますね。
……あ、8歳以下は無料ですので2名様分だけで大丈夫です。
お席はこちらをお使いください」
「1人銀貨1枚と銅貨5枚(1500円)か。手の込んだものなのに思ったより安いな」
「……あれ、すずしいね」
席に着くと、ステラがキョロキョロしながら
首を傾げる。
かまどからそんなに離れてないのに、暑いどころか涼しいのだ。
「氷と風の魔法で気温を一定に保ってるんだろう」
「あ、金属粘土が届きましたよ」
フレアの声に振り向くと店員さんがトレーと光沢のない鈍色の粘度の塊を持ってきてくれていた。
「おまたせしました。
焼き上げるまではいくらでも作り直せるので、、ごゆっくりお楽しみください」
「はーい!」
ステラの嬉しそうな返事に店員さんも笑顔になる。
「元気なお返事ですね。
分からないことがあれば、いつでも駆けつけますので声をかけてくださいね。では、失礼します」
店員さんはそう言い残して、ステラに軽く手を振って持ち場に戻った。
「パパ。あのひと、てをふってくれたよ」
「良かったな」
「うん!」
「では、作っていきましょうか」
こうして、各々試行錯誤しつつ、楽しくアクセサリーや小物を作っていくのだった。
お話を読んでくれて ありがとうございます。
良いなと思ったら 気軽に
ブックマークと ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎(ポイント)を
よろしくお願いします。




