20話 魔王は口が上手い
デミ・リッチとの騒動を終えたステラは、同じく一悶着あったらしいフレアと合流し、見つからないゼティフォールをどうするかを相談しながら一度屋敷に帰ったのだった。
「パパ、どこにいっちゃったのかなぁ?」
自分の弾いた魔石に直撃して遠くまで吹き飛ばされた……なんて夢にも思っていないステラ、とても不安げにフレアに手を引かれて歩く。
まあ、そもそも魔石がちょうど直撃するなんて、ふつうは思わないのでこの反応になるのもしかたない。
「途中までは痕跡を追えたんですけど、急に途切れてしまって……」
凄まじい勢いでぶっ飛んだのだから、痕跡なんて歩いてたら見つけられるわけがない。
「僕が側についててあげられたら良かったんですけど」
そう、フレアはフレアで敵と戦っていたのだ。
デミ・リッチはステラ達と出会ったやつの他にも、もう一体存在し、そのデミ・リッチはゴブリンゾンビを率いて近くの村に侵攻していたのだ。
それを見つけたフレアは見過ごせず、苦渋の決断で村を助ける選択をした。
ステラ達と戦った方がゴブリンのアンデッドを引き連れていなかったのは、フレア側のデミ・リッチが全員引き連れていたからに他ならない。
「……パパ……うぅ」
未来ゼティフォールとの別れの辛さを思い出し、ステラの目に涙が溜まっていく。それを見たフレアはワタワタと慌てて、必死になぐさめようとした。
「え、ああ……そ、そうだ!
も、もしかしたら近くに敵がいたから移動したのかも!
それか……転移魔法とか!
あ、でも神聖光魔法でダメージを受けた満身創痍の状態じゃ、転移魔法なんて難しいですね」
自分で言っておきながら墓穴を掘ってしまった。
「うにゃぁあああああ!!!」
ステラは泣きながら怒ると、全身からさらに強力になった勇者の光を解放しようとする。
「ままままままままママって!!?」
流石のフレアもびっくり仰天。
光魔法がいくら得意でも、上位互換の勇者の光を受ければ防護すら貫通して大ダメージだ。……しかし、フレアのその情けない命乞いを聞いたステラは、ピタッと涙を止めて閃いたように目を見開いて頷いた。
「そっかー!」
「へ……?」
「ママ?」
「ママ……?」
「そう、ママ!」
「ママがどうしたんですか?」
フレアが首を傾げると、ステラは嬉しそうに話し始めた。
「あのね、ママはね、パパが『つらいよ〜』ってなったら、いつもたすけてくれるんだよ」
だからこそ、未来ではゼティフォールを守り封印されてしまったのだ。ただ、それは未来の話である。
「そうなんですか?」
「うん!
でもね、すなおじゃないから、パパにもんくをいうの。『むちゃをしすぎなのよ。もうすこし、わらわのおっとということを、じかくしなさいな』って。
でもでも、パパが『ごめんなさい』とか『ありがとう』っていったら、うれしそうにするんだよ」
これが、元の時代でステラが見てきたゼティフォールとルチアの姿だった。
ステラにとっては、ほんの1年前には当然のようにあった現実だった。
「……仲良しさんですね。
じゃあ、きっとゼティフォールさんは助かってますね」
フレアは言葉に悩みながらも、ステラの胸にある希望を信じることにした。
「……ついた〜!
ごはんをたべたら、ままのところにパパをむかえにいこうね!」
ステラはこの時代のルチアの居場所は分かる……というか、未来でもよく訪れる場所なので、ステラも行ったことがあるしピクニックもそこでしたので忘れるはずがない。
だから、行こうと思えばいつでも行けるのだ。
「はい。
……ルチア様に会うのは僕も初めてだから、緊張するな……」
「ママはやさしいから、だいじょうぶだよ!」
そして、そんな話をしながら屋敷のドアを開けると、そこにいたのは──
「……おかえり」
「パパ!?」
「ゼティフォールさん!?」
傷こそ治ってるものの、なぜかたんこぶだけはそのままの意気消沈ゼティフォールがそこに居たのだ。
「……はは。
気がついたらここに居たのだ」
そう、ゼティフォールは誰かに助けられ、ここまで運ばれていたのだ。
「……ママだ!!
ぜったいそうだよ!」
ステラはぱぁっと表情を明るくして小躍りをはじめる。
「……ルチアが?
いや、まさかそんな事はあるまい。魔王と女神はまだ和解どころか、敵対したままなのだからな。
しかし、目を覚める瞬間……なぜか背筋が凍るような、心臓を掴まれるような感覚がしたな」
そう言いながらゼティフォールは身震いをした。やはり、ルチアが助けたのだろうか?
もしそうなら、助けた理由は?
ステラに会わなかった理由は?
たんこぶを残した理由は?
疑問は尽きないし答えも出ないが、荒野で干からびてハゲワシに頭を突かれなくて済んだのは事実だ。
「そうだ、ママのおみやげかおう!」
パパはもう迎えにいく必要が無くなったので、パパを助けてくれた(暫定)お礼にお土産(感謝の粗品)を買いたいようだ。
「しかし……」
「何か気になることでもあるんですか?」
ゼティフォールは悩んだ。
本当ははまだ会いたくないので渋っていた。しかし、すぐにさらに恐ろしい事実に気がついてしまう。
仮に助けてくれたのがルチアだったとして、もしお礼すら言いに来なかったらどうなるのか?
全盛期ならまだしも、今の自分ならなすすべもない。ゼティフォールは全身に恐怖が駆け抜けるのを感じ、慌てて意見を変えることにした。
「……いや、なんでもない。礼はせねばならん。
そうだな、ドライフラワーや日持ちするものにしよう。形として残った方が嬉しいだろう」
嘘だ。
そんな理由ではない。少しでも会う日を遅らせるために、日持ちするものをチョイスしたのだ。
「わかった!」
「……そうだ!」
ゼティフォールは嬉しそうに叫ぶ。なにか姑息な手段を思いついたようだ。
「なになに?」
「血の魔法を教えると言っていただろう。
会いにいく前に試してみないか?
お土産と一緒に完成した血の魔法を見せてあげたら、きっとママも喜ぶはずだからな」
口が上手いのは魔王時代からだ。
「確かに、唯一無二の血の魔法は、吸血鬼一族にとって成長の証であり、それを見せるのは親孝行だと言われてますもんね!
さすがゼティフォールさんです」
「ママ、よろこぶの!?
わかった!
おみやげかったら、ちのまほうする!」
フレアの援護射撃もあり、なんとかステラを説得することができたようだ。
「ああ、そうしよう。
さあ、明日朝1番で出かけるから、今のうちに準備をしておくぞ」
安堵からか、それともステラの嬉しそうな顔を見たからか、ゼティフォールは穏やかに微笑んでお土産を買いに行く準備を整えるのであった。
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