19話 母の怒りは恐ろしい
デミ・リッチが魔石に還った事で、ワイバーンゾンビは主人を失い暴走してしまう。
そして、それよりヤバいのがステラの身体から取り出されてしまった宝珠だ。
「ステラ、できるか?」
ゼティフォールは宝珠の凄まじい光の前に、光耐性がなすすべなく貫通し、離れてるはずなのに髪の毛がチリチリと消し炭になっていく。心なしか半透明だ。
「うん!!
……あれ、パパはたたかわないの?」
逆にステラは元気いっぱいで、悠長にのんびりお話をする。
「その……なんだ、えっと……」
光球は雲を消しとばし、大地をえぐり、草木を焼き尽くし、岩を灰に変えてどんどん広がっていく。幸いその光球が大きくなるのはゆっくりだが、範囲が元から広いし少しでも範囲内に入ればひとたまりもない。
「……なに?」
ステラは逆にポカポカ陽気に当てられてお昼寝の時間とばかりにおめめを擦る。どうやら、ステラには危害が加わらないようにできてるらしい……というか、ステラだけを守り、ステラ以外は全部攻撃対象みたいだ。
「……す、ステラ!
寝るな、寝ないでくれ! 時間がない!
あの光の感じは、500年前勇者と戦った時に第1形態の私がなすすべなく倒されたあの光と同じなのだ!」
「ふぇ?!」
「あれを放っておけば、確かにワイバーンゾンビどころか最終的に確実に覇王を倒せるが、同時に世界もぜんぶ消え去ってしまうぞ!」
ステラから宝珠を切り離されるなんて、ステラが負けたか、そうでなくとも危機的状況。
ステラのママは味方には優しいが、それ以外には結構容赦がないタイプなので、仮にステラが危険に晒されたとなれば当然怒り狂う。
つまり、これは『娘をイジメたやつもその環境も絶対許さない』という凄まじい母の怒りを体現した《世界自動浄化モード》……と言う名の《ママ本気憤怒モード》なのである。
もちろん、ゼティフォールは守る対象に入ってない。なので消される。
「全盛期ならまだしも、今の私ではどうにもできないから、ステラだけが頼りなのだ!
あれを止めてくれ!!」
ゼティフォールは灰のように真っ白になりながら懇願した。
すると、ステラは嬉しそうにはにかみ。
「……えっと、ステラ……だけ?
パパもできないの?
ステラ、これしたらパパはよろこんでくれる?」
「喜ぶ喜ぶ!
命の尊さと、今日を生き延びたことへの感謝、そして後世にステラの銅像を作りたくなるぐらい嬉しいぞ……!
……あ、そろそろヤバい……」
「じゃあ、きょうのばんごはん、チーズインハンバーグにしてくれる?」
「約束しよう……!」
ゼティフォールはそう言いながら、本当に限界なので最後の力を振り絞り走っていく。
「わかった!
じゃあステラ、がんばってくるね!
いってきま〜すっ♪」
「いってらっしゃ〜…………」
ゼティフォールはもう、声が聞こえないところまで離れてしまったようだ。
「よぉおおし!
いくよ〜!!」
ステラは小さな翼を広げると、宙に浮かぶ宝珠目掛けて飛び上がった。
「ギャォオオオオン!!」
その時、器用に光を避けていたワイバーンゾンビが、ステラを見つけるとエモノを見つけたとばかりに一直線に飛んでくる。
強い冒険者パーティでも苦戦する強力モンスターであり、半端な攻撃ではすぐに再生して永遠に勝てないヤバい相手。
最後まで邪魔をしてくるようだった。が────
「どいて」
──パァァァアアアンッ!!!
一撃必殺!!!
ステラの振り払いが直撃すると、あまりの威力に爆散。ワイバーンゾンビは再生する暇もなくたおされてしまったのだった。
そう、ステラは宝珠がなくてもフィジカルだけでも最強クラス、A級近接職レベルなんて数日前のこと。子供は日々成長するものなのだ。
余談だが、ドロップした魔石は遙か彼方に飛ばされてもう見当たらない。
……誰かの頭に当たっていなければいいが…………それはまた別のお話。
「あとすこし!」
光の中に飛び込んだステラは、その中心にある宝珠目掛けてまっすぐ進む。
「あったかい……。
ママとおなじにおいする」
まるでママに抱っこされているような温かさに、ステラはリラックスしてしまい、思わずあくびが出てしまう。
「……ふぁ〜。
………………はっ!」
しかし、寝てしまう寸前でなんとか踏みとどまり、パパからの頼まれごとだと思い出すと、気合いを入れて一気に飛翔した。
そして…………。
「──ぱくっ!!」
ステラは宝珠を丸のみした。
すると、周囲を消し炭に変えていた光は収まり、なぜか消し炭になったはずの草木や大地がよみがえる。
どうやら、宝珠がステラの無事を検知して、ステラの周りの環境を修復したようだ。つまり、デミ・リッチとワイバーンゾンビは倒されたままで、不憫なゼティフォールのダメージもそのままだ。
「ゆうしゃのチカラ、もどった〜!」
こうして、予期せぬ覇王軍との邂逅と、宝珠の暴走事件はなんとか一件落着したあのであった。
* * * * *
一方その頃、避難していたゼティフォールは──
「……ステラ……よくやったな。
だが、魔石を飛ばす方向は……確認して欲しかった……ぞ……ガクンっ」
ステラが飛ばした魔石が頭に直撃し、遙か彼方の荒野まで飛ばされて気を失うのだであった。
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