18話 デミ・リッチの追撃
ホブゴブリンを無事倒したゼティフォールだったが、運悪く覇王の手下デミ・リッチと遭遇してしまう。
覇王の指示ではなく、デミ・リッチ個人の意思でゴブリンたちをアンデッド化して手駒を増やす算段だったが、戦いの音を聞いてゼティフォールの所に来てしまったようだった。
戦闘力ならステラがいるので大丈夫だと思われるが、ゼティフォールの時のように勇者の力が万が一奪われてしまったら、最悪の場合ステラが元いた未来と同じ結末になってしまう。
「……ふむ。ここで油断して足元を掬われたくないから、予定通り転移するぞ。
《ワープ》」
なのでゼティフォールたちはここで交戦せず、冷静にフレアと合流する道を選んだのだった。
* * * * *
しかし──
「……フレアがいないよ!?」
「おかしいな、スクロールに描いた魔法陣は完璧だし、魔力も感じられた」
「どこかにいっちゃったのかなぁ?」
「だろうな……」
そう、フレアも交戦中だったのだ。
そして、よく見ると……いや、よく見なくても凄まじい斬撃の後がそこかしこに刻みつけられ、至る所に魔石が落ちている。
「先ほどのデミ・リッチと似た匂いがするな。手下は他にもいたのか」
覇王の手下はデミ・リッチだけではないようだ。
フレアはモンスターを追いかけて、ゼティフォールが転移してくる直前に移動したのだろう。
「じゃあ、どうするの?
フレアをさがす?」
それができれば1番いいのだが……もう猶予はなかった。
「──ゼティフォールぅうう!!
このデミ・リッチ様から逃れられると思うなよぉおお!!
かすかな貴様の血の匂いを辿ってきてやったわ!!」
真っ黒なワイバーンのゾンビに乗ったデミ・リッチが、音速に迫るスピードでこちらに飛んでくる。
「……このまま戦うしかないようだ」
きっとフレアはそれほど離れているわけではないし、もしかすると戦闘中に大きな音を出せば万が一の時に駆けつけてくれるだろう。
万が一がないのが1番だが、今は贅沢を言える状態じゃない。
「ステラもてつだう!」
ゼティフォールと敵の力量差を察したステラが前に出る。
今回の敵は格が違う。
虫相撲で例えるなら、ホブゴブリンがカブトムシだとするとチワワとライオンを相手にするようなものだ。
ちなみに、デミ・リッチがチワワだ。
「……心強い。
しかし、腐ってもアンデッドの王リッチ系統のモンスターだな。
格上のモンスターでもゾンビ化によって従えられるのか」
「パパ、なんか『ぺっ』ってしてきたよ!」
その瞬間、ブラックワイバーンゾンビが黒い炎の球を飛ばしてきた。
その炎の球は直径5mもあり、しかもよく見ると追尾までしてきている。
「これは、回避できないな。
慣れていないが、いちかばちか……」
魔法陣を展開すると──
「──《ホーリーブラスト》!!」
アンデッド系特効の神聖光魔法を放った。
サッカーボール大のサイズの弾光はまっすぐ飛び、炎の球と正面衝突。
「……無理みたいだ!!」
しかし、あまりの威力の違いに《ホーリーブラスト》は情けない音を立てながら消し飛ばされ、炎の球は一切の威力減衰もなく直進。ゼティフォール目掛けて飛んできた。
「ぬわぁあああ!!?」
「パパ〜!!?」
大爆発とともにゼティフォールは空中でグルングルン回りながら吹き飛ばされてしまった。
ダサすぎる敗北を喫したゼティフォールだったが、一命を取り留めるそのしぶとさは魔王級である。
「ふはははは!
何がゼティフォールには下手に手を出すなだ!
一瞬で倒してやったぞい! レジェモニアは心配性なのだ!
やっぱり覇王の座はこのデミ・リッチ様のものよのう!!」
デミ・リッチはワイバーンゾンビの上で上機嫌で踊り出す。
「パパはまだつよくないから、イジメないであげて!
──ぱんち!!!」
ステラは怒ってその場でパンチモーションを取る。すると、エゲツないエネルギーを内包した光の弾(ステラのグーの形)がデミ・リッチ目掛けて飛んでいった。
しかし──
「よっと!」
ワイバーンゾンビを器用に操り最低限の動きで回避してしまう。
「よけないで!」
「よけないと我が消滅しちゃうだろうが!!」
ふざけているようで意外と抜け目のないやつだった。
「もう!
つぎはもっと、すごいのだすからね──って、あれ?」
ステラが構えたその時、上空のワイバーンゾンビに乗っていたはずのデミ・リッチの姿が消えていたのである。
「ギャォオオオオン!!」
すかさずワイバーンゾンビが突撃。
「おわっと!?」
難なく回避。でも、その隙を見逃さなかった。
「貰ったぁああ!!」
透明化をしていたデミ・リッチが背後から出現。ステラの背中に手をかざして宝珠を抜き取る。
「きゃあぁあ!!?」
宝珠を抜かれた反動でステラは全身の力が抜けてしまい、ドサっと地面に倒れてしまった。
「ぞうさもない。
力があってもしょせんは子供。このデミ・リッチ様には足元にも及ばないんだぁ〜」
得意げにデミ・リッチが笑う。
「うぅ〜……ちからが、でない……。
クッキーも、チーズもないみたい……」
ポッケ(アイテムBOX)を漁っても空だった。回復用のブラッドクッキーも、キャンディーチーズもどこかに落としてしまったようだ。
「無様だなぁ〜!
勇者の力を持っていても、こんな簡単に倒されるなら宝の持ち腐れってか?
イ〜ッヒヒッヒヒ!
それなら、このデミ・リッチ様が有効活用してやろう!!」
そう言いながら宝珠を自らの胸に埋め込む(身体が骨なので人で言う心臓がある所)。すると──
「ぐっ、うおおおおああああああ!!
力が、力があふれてくるぞぉおおお!!
これはすごい、凄すぎる!!」
宝珠が周囲を真っ白に染め上げてそのエネルギーを大放出し始める。そのエネルギーはデミ・リッチを満たし……満たし満たし、あふれて──
「ちょっ!?
あふれすぎ!!
やばいヤバい!!?
すごいというか、すごすぎるというかぁあああああ!??!?
これはマズイぞぉお!!!」
完全にキャパオーバーだ。しかも、それだけじゃない。
「そ、そもそも……アンデッドに神聖魔法は相性最悪だし、取り込めるはずがないじゃん!!」
そう、デミ・リッチはうかつだった。
内側から弱点の力を取り込めば、こうなるのは明白。そして、耐えきれなくなったデミ・リッチは──
「わ、我が1番……無様だったと言うわけかぁああああああああ!!!!」
──チュドォオオオン!!!
大爆発とともに散って行ったのだった。
「……ステラ、私の分だが食べなさい」
いつの間にか返ってきたゼティフォールが、ステラをそっと抱いてブラッドクッキーを食べさせる。
「おいしゃぁ〜。げんきでてきた」
デミ・リッチは魔石に還った。しかし、まだ終わりじゃない。
そう、主人を失って暴走しているワイバーンゾンビと、主人を失って暴走している宝珠が残っているのだから。
「ステラ、できるか?」
「うん!!」
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