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救われなかった世界のために  作者: 無徒 静
第二章
180/200

エピローグ3 首都アルタにて

 リンドベル共和国の首都アルタ。

 そこにある軍本部の一室で、マーベリック・ノストフェラーは旧伯爵であるアルフレッドから届いた報告書を読み上げていた。


 先日、シャリアンが怪物に襲われた。

 幸い、出現した怪物はアルフレッドの私兵によって討伐されたとのことだったが、マーベリックはそれが虚偽の報告であると確信をしていた。


 軍の暗部からもシャリアンが怪物たちに襲われたという情報が入っていたからだ。ただ、戦いの痕跡を鑑みるに、出現した怪物はアルフレッドの私兵が倒せるような相手とは考えられないとのことだった。


 では、一体誰がその怪物を倒したのか?


 その疑問に回答を持って来たのが、マーベリックの前で微笑を浮かべている女性だった。


「……どうやら、あなたの言う通りだったようだ。Ms.アナベラ」


「お役に立ったかしら?」


「ええ」


 アナベラから得た情報によると、サフィ・ガーランドは、シャリアンにあるアルフレッド邸に匿われていたらしい。さらにシャリアンに現れた怪物は、サフィとその仲間たちによって討伐されたそうだ。


「彼女の仲間には、軍人も含まれているようですわね」


「……それは、ナッシュ・ホーネットの小隊ではないですか?」


「さあ? そこまでは。生憎と軍人さんのお名前までは把握していないものですから」


「まあ、そうでしょうな」マーベリックはそう言うと、ぎしっとソファにもたれかかる。「しかし何にしても……。これで、サフィ・ガーランドを捕まえることが出来る」


「ふふ……。あんな小娘に随分とご執心ですわね、大将閣下?」


「彼女はこの国を滅ぼすことが出来る唯一の存在ですからね。まあ、あなたのことだ。どうせレズモンド卿からその理由も聞いているのでしょう?」


「そうですね」隠す素振りも見せずアナベラが答える。


「しかし、何故今になって我々に協力を? あなたとレズモンド卿はサフィ・ガーランドを擁護しようとしていたのではないですか?」


「ええ」


「では、何故?」


「もう、その必要もなくなりましたから」


「はあ? それはどういう?」


「彼女の役目は終わったということです」


 この女はいつもこうだ。絶えず見惚れるような微笑を浮かべながら、その本心はまるで窺い知ることが出来ない。レズモンドの内縁の妻であるということ以外に情報はほとんどなく、ある意味ではサフィ・ガーランド以上に謎の多い人物だった。


「このことをレズモンド卿は知っているのですか?」


「もちろん。私が大将閣下にご報告に窺うと伝えた時も快く送り出してくれました。……まあ、ちょっとだけ複雑そうな顔もしていましたけれど」


「複雑そうな顔?」


「ええ」そう頷き、アナベラは楽しそうに肩を揺らす。「あの人、意外と嫉妬深いんですよ」


 無邪気に笑うその姿は、まるで十代の少女の様だった。

 それがマーベリックには余計に不気味に思えた。

 

 アナベラと初めて会ったのは八年前。

 その時から、彼女はまるで歳を取った気配が感じられなかった。


「それは仕方がないでしょう。あなたほど美しい女性が他の男の元に行くとなれば、彼も気が気でないはずです」頭の中では別のことを考えながら、マーベリックが答える。


「ふふ、そこが彼の可愛い所なんですけれどね」


 この国の文民でもっと大きな影響力を持つと言われるレズモンド・フォン・ランドール。そんな人物を可愛いと言えるのは、おそらくこのアナベラだけだろう。


 本当に何者なんだ、この女は?


「しかし、驚きましたよ。まさか、あなたが態々お越し下さるとは思っていなかったので」マーベリックはそう言うと、不意に軍人としての貌を浮かべる。「何が、目的なんですか?」


「目的だなんて、そんな大それたものではありません。ただ、早く危険分子を捕まえて欲しいというだけです」


「危険分子ですか……。確かにサフィ・ガーランドの存在は危険ではありますが」


「いえ、それだけではありません。彼らの中には大層、腕の立つ剣士もいるようですので……」


 おそらくハンザウェスト・ロンバートのことだろう。

 ナッシュ・ホーネットを初め、あの小隊の全員が軍を裏切ったことはすでに裏が取れている。


「心配には及びませんよ。仮にそのような者が出て来たも、私が出れば済む話です」


「自信家なのですね?」


「ただの事実です。この国に、私以上の戦士はもう存在しませんから」部屋の壁に掛けられた馬鹿みたいな大きさの剣を見つめてマーベリックは言った。


 アナベラも同じようにその剣に目を向けると、「そうですわね」と楽しそうに笑顔を浮かべた。


「それでは私はこれで失礼いたします」


「分かりました」

 

 そう言ってマーベリックがベルを鳴らすと、すぐに数名の軍人が部屋に入って来た。


「Ms.アナベラがお帰りだ。馬車までお連れして差し上げろ」


 命令を受けた軍人たちは、一糸乱れず敬礼をすると、アナベラを連れて部屋から出て行く。

 だが、開かれた部屋の扉の前まで来た時、アナベラがふと視線をこちらに向けて来た。


「大将閣下、くれぐれも油断のないように」


 最後にアナベラが残していったその言葉が、妙にマーベリックの頭にこびりついていた。

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