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救われなかった世界のために  作者: 無徒 静
第二章
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第七十六話 アイナを呼ぶ声

 これまでアイナは幾度となく怪物の出現を予見して来た。

 だが、今回ほど状況が好転したことは一度もなかった。


 先程、アルフレッドの指示により、シャリアンの住民への避難勧告が発令された。エレノアが必死に説得してくれたおかげだった。アイナが予見した怪物の出現場所には、既にステインとハンザが向かっており、先程、エレノアもその後を追って屋敷を出た。


 今頃は、ナッシュもラピスに話を聞いて、持ち場に向かってくれているはずだった。

 ステインの担当するシャリアンの東口はもっとも強い怪物の出現が想定されるが、彼は過去にも同等の怪物を倒している。おそらく問題はないだろう。


 西口に現れる怪物も強力だが、ハンザなら大丈夫だとステインが言っていた。

 ステインもハンザと同じ剣士だから、何となく相手の力量が分かるのかもしれない。


『――ヤバくなったら、逃げるよ』


 屋敷を出る時、自信満々でそう言ったハンザには気が抜けてしまったが、どこか余裕も感じられた。

 エレノアも援護に向かっている。今は彼らを信じるしかないだろう。


 そして、もっとも多くの怪物が出現する街の西口を守ることになるナッシュだが、エレノアたちによると、どうやら彼は多対一の戦いを得意としているらしい。実際、彼は先日のアルベスタで大量に出現した怪物たちをたった一人で殲滅している。また、自分でも不思議に思っているのだが、アイナ自身、あの人なら大丈夫だという根拠のない信頼を持っていた。


 アイナが予見をしてから短時間で、皆が最善を尽くしてくれている。

 現状、考え得る限りの備えが出来ていると思えた。


 それなのに、先程からずっと胸のざわつきが止まらない。

 まるで、誰かに呼ばれているような落ち着かない気分だった。


 それは、いつも唐突に向こうからやって来る予見(ヴィジョン)とよく似た感覚だった。今度はそれを自分から迎えに行くようにアイナは意識を集中した。深く、深く、洞のような暗い闇の中へと潜って行く。


 そして、その闇を(くぐ)り抜けた時、アイナの意識はシャリアンの上空に浮かんでいた。


 街を見下ろすと、人々が少しずつ避難を始めているのが窺えた。それを確認したアイナは、次に怪物が出現する場所へと目を向ける。


 街の北口では、ハンザがすでに怪物を討伐し終わっていた。ハンザが受け持った怪物は決して弱くはないはずだったのに、戦い終わった彼の体には傷一つ見当たらなかった。


『あいつの剣の腕は本物だよ。……羨ましいくらいに』


 旅の途中、そんなことをナッシュが言っていた。その時はあまり信じられなかったが、今なら納得出来る気がした。いつも軽薄な態度が目立つ人物だが、ナッシュやエレノアの仲間なだけはある。


 ――あちらは大丈夫そうね。


 そう思い、アイナは街の西口へと目を向ける。そこではナッシュが怪物と交戦中だった。夥しい数の怪物が襲って来ても、彼に動じた様子は見られなかった。疲労の色は見られるが、淡々と怪物の数を減らして行くナッシュに、アイナは安堵の息を漏らした


 最後に東口へと視線を移すと、そこにはアイナが予見した中でもっとも強い怪物が出現していた。

 だが、その怪物をステインは苦も無く倒していた。


 初めて視えた勝利の予見。

 これならきっと大丈夫だとアイナが確信した時、不意に背筋の凍るような感覚に襲われた。

 先程からずっと感じていた絡みつく様な視線だった。


『誰なの? 私を見ているのは!?』


 視線の主に向かってアイナが大声で呼び掛ける。

 すると、


『……ムカエニキタヨ』


 そんな声が聞こえ、街の西口に白い靄のようなものが湧き出しているのが目に映った。その靄は、少しずつ人の姿を形作り、やがて頭部に浮かび上がった瞳がこちらに向かって笑い掛けて来た。


     ※


 悪夢から覚める様に目を開けたアイナは、あまりの気持ち悪さに(うずくま)ってしまった。

 予見から目覚める直前、あの気味の悪い怪物の足元には、無残に殺されたナッシュが居た。

 怪物は、体から切り離されたナッシュの頭を掴み上げると、笑いながらアイナに見せつけて来た。

 まるで、早くここに来ないとこうなるぞと言っているようだった。


 理由は分からないが、あの怪物の目的は自分だという確信があった。

 それなのに、震える足が立ち上がることを拒絶していた。

 

「怖がっている場合じゃないのよ!」


 アイナは自分を鼓舞するように、足を力一杯叩きつけた。太ももに伝わる痛みが恐怖を打ち消し、立ち上がったアイナは急いでナッシュの元へと向かおうとした。


 その時だった。客室の扉がひとりでに開いた。


「……サ、サフィ?」


 ステインたちが不在の中、誰よりも頼りになる人がそこに居た。

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