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救われなかった世界のために  作者: 無徒 静
第二章
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第七十二話 緊急事態

「やっぱ、ストレスが溜まってたのかな?」食事を終えた後、ぽつりとハンザが呟いた。


 それが誰を指してのことなのかは言うまでもなかった。

 二つある空席の内の一つに、その場の全員が目を向ける。


「自分が王家の血筋だったなんて、容易に受け入れられる話ではありませんからね」


 エレノアの言葉に、誰かが嘆息を漏らす。


「でも、それなら相談してくれたらいいのにな。吐き出しちまえば、少しは楽になるだろ?」


「まあ、あなたならそうでしょうね。ですが、サフィは……」


「あの娘は何かと自分で抱え込むきらいがあるからな。そういう所は父親によく似ている」


「あー、そういえば、ステインの旦那は、サフィちゃんの両親と知り合いだったんだっけ? どんな人たちだったんだ?」


「父親は馬鹿が付くほど真面目な男だった。その所為でよくハズレくじを引かされていた。母親はそれとは真逆で良く言えば自由奔放、悪く言えば傍若無人な人物だった」


「それ、どちらも悪口なのではないですか?」


 エレノアの言葉に、「そうとも言う」とステインが苦笑を浮かべる。


「まあ、だからバランスが取れていたのかもしれないが……」


「ふーん。でもさ、それだったらサフィちゃんも母親似なところがあるんじゃない? 一人で旅に出て、結構、自由にやっているわけだしさ」


「……だといいんだがな」


 皆の話を聞きながら、アイナは先程サフィが見せた顔を思い出していた。

 そこには、自身の出自に悩んでいるというよりも、もっと別の何かに追い詰められているような感じがした。

 

 それは一体何なのか?

 どれだけ考えても適当な答えは見つからない。

 その代わりに、凶悪な異物が思考に紛れ込んで来た。


「…………」


 どれくらい時間が経ったのか。

 アイナがいつの間にか瞑っていた目を開くと、隣に座っていたステインが言った。


「見たのか?」


「うん」


「規模は?」


「北と東の入口に強いのが一体ずつ現れるみたい。多分、東に現れる方が強いと思う。あと強くはないけどすごい数の怪物が西の入口からなだれ込んで来るのが見えたわ」


「そうか」


 しんと静まり返る食堂。

 ステインとアイナを除いて、全員がぽかんと二人を見つめていた。


「えっ!? ちょ、ちょっと待って?」沈黙を破ったのはハンザだった。「何、いまの会話? もしかして、怪物が現れるの?」


「そのようだ」とステインが答える。


「いや、そのようだって、旦那……。どうしてそんなに落ち着いていられんだよ?」


「もう慣れた」


「あ、ああ、そう……」


「それより、アイナ様。怪物の出現はいつ頃になるのですか?」身を乗り出す様にしてエレノアが尋ねる。


「正確には分かりません。一時間、もしかしたらもっと早いかも」


「それではすべての住民を避難させるのは難しそうですね」


「マジかよ……。ったく、何だってここ最近はこんなに怪物が増えているんだ?」


「とにかく、今は早急に対策を練らなくては。私はこのことを叔父様に報告して来ます」


「それはいいが、アイナのことは……」


「分かっています、ステイン殿。他言無用と仰るのでしょう? アイナ様の力が明るみになれば、多くの勢力に狙われることになるでしょうから。それこそサフィと同じように。私もそれは本意ではありません」本心でそう言っているエレノアに、ステインは値踏みするような視線を向ける。


「大丈夫だよ、ステイン」


「アイナ?」


「私はエレノアさんを信じているから」


「え、エレノアだけ? 俺は?」


「あ……、えっと、はい。ハンザさんも信じています?」


「何で疑問形!?」


 ハンザが泣きそうな声を上げた所で、「っていうかさあ」と、それまで黙っていたラピスが口を開く。


「そんな無駄話をしている余裕はないんじゃない?」


 最年少のラピスに指摘され、全員が口を噤む。


「ひ、一先ず、私は叔父様に報告をしに行きます。兵も出してもらわなければなりませんし」


「間に合うのか?」言外に説得が難航するであろうことをステインが指摘する。


「分かりません。ですので、皆さんに可能な限り怪物の足止めをお願いします」


「では、俺は東の橋に向かおう」剣を取って立ち上がったステインが当たり前のように言う。


「分かりました。ですが、宜しいのですか? これは本来なら軍の仕事……」


「そんなことを言っていられる状況ではないだろう?」


「ごもっともです」エレノアはそう答えると、ステインに頭を下げる。「ステイン殿。申し訳ありませんが、力をお貸し下さい」


「そんな真似をする必要はない。頭を上げろ。まったく君は何というか、見た目通りの堅物の様だな?」


 ステインがそう言うと、「だよなあ、旦那」とハンザが相槌を打つ。


「こいつ、昔っから頭が堅いんだよ」


「あなたはもう少し、礼節を弁えて下さい」


「ほら、そういう所だよ」ハンザはからかう様にそう言うと、北の方角を指差す。「じゃあ、俺は北の橋を受け持つよ」


「……お願いします。私も、叔父の説得が出来次第、そちらに向かいます」


「えっと、それじゃあ僕は?」


「ラピスさんは、ナッシュに西の入口を防衛して欲しいと伝言をお願い出来ますか? それからサフィをここまで連れて来て下さい。避難所まで向かうより、この屋敷に居た方が安全でしょうから」


「はーい、分かったよ」


 一通り指示を出し終えたエレノアは、改めてその場の全員に目を向ける。


「皆さん、くれぐれも無理だけはしないように。危険だと思ったらすぐに撤退して下さい」


「了解」とそれぞれが返事をする。


「……あの、エレノアさん。私は?」


 アイナが自分を指差して尋ねると、腰に手を当ててステインが短く告げる。


「お前は留守番だ」

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