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慈悲深く残酷な神々の箱庭 序奏  作者: M
第1部 第2章 仏国の少年Eにまつわる挿話(近侍リオネル視点)
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第2話 銀白色の獅子 ①

大変不親切なことに作中で示されていませんが、七年前、リオネル十四歳の時の過去話になります。

人を殺傷する描写が入ります。苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。

 ふと、目が覚めた。


 窓へと視線をやれば、カーテンのわずかな隙間から見える空は暗く、白む予兆さえない。まだ深夜だ。

 ならば隣の主室にいる何者かは、暖炉に火を入れに来た使用人ではない。そもそも当家の使用人に、上階の住人の部屋に気配を消して忍び足で入室するような教育はしていない。


 枕の下から取り出した剣を手に、寝台を下り、扉の脇へと移動する。気配はもう、扉のすぐ外へと迫っていた。


 ドアノブが音もなく回される。同じく音もなく、ゆっくりと扉が開いていく。

 人影が見えた。体格からして男だ。一人、二人と、足音を立てないように寝室内に入ってくる。


 三人目が完全に室内に入ったのを見届けて、俺は体当たりするように扉を閉ざすと、手近な男から抜き放ちざまに斬りつけた。一振りで、その首を()ね飛ばす。

 残った二人が慌てたように身構えるが、遅い。左手に持った(さや)(こじり)を一人の鳩尾に突き込みつつ、もう一人の喉を切り裂く。噴き出した血を浴びるがかまわず、鳩尾を押さえて前かがみになった男の首を一刀で落とす。


 素早く剣を振り払って血脂を飛ばしてから、呼吸を整え、主室の様子を探る。気配は四つ。突然閉まった扉を警戒しているのか、近くにはいない。


 室内に転がる男たちを見やる。三人とも頭部をなにかで覆っているため、人相はもちろん髪の長さも色もわからない。

 手に持っているのは縄と布。刃物らしきものが見当たらないところをみると、目的は俺の殺傷ではなく捕縛か。どちらにしろ、複数人で就寝中の人間を襲おうというならまともな連中でないのは確かだ。


 主室の気配が動く様子はない。だがいずれこちらへ来るのも時間の問題だろう。

 剣を握り直し、体勢を低くして、扉を開けると同時に飛び出る。もっとも近くにいた男を、下から斬り上げる。


「アルノー!」


 もう一人に斬りかかりつつ、近侍に呼びかける。

 無駄だとわかっていた。アルノーが手引きしたのでなければ、賊が俺の寝室にまで踏み込んだ時点で、主室の外を守る彼は倒されているか、あるいは。


「アルノー返事をしろ!」


 それでも生きてさえいてくれたら。

 三人目の心臓部を刺し貫いたところで、主室の扉の外へと視線を走らせる。薄明かりの中、廊下の床に倒れ伏している赤毛の青年が見えた。


 四人目を斬り捨て、青年、アルノーのもとへ駆け寄り、そのかたわらに(かが)む。


「アル……」


 見開かれた目。深く切り裂かれた首。おびただしい出血の跡。一目で、息絶えているのがわかった。


 廊下にも数人の人影。その中にナイフを持った男が見えた。血が付着している。アルノーを殺した者に違いない。

 俺を見て戸惑うような素振りを見せるが、声をあげ、ナイフを突き出してくる。その手を肘から斬り飛ばし、喉もとへと切っ先を突き付ける。


「誰の差し金だ。言え」


 男は耳障りなうめき声をあげるばかりで答えない。背後に気配が迫る。男の喉を貫き通し、返す刀で背後にいた男を斬りつける。

 硬い手応え。受けようと構えられた剣ごと叩き切る。そこらの量産品の剣で、この神鋼の刃が防げるはずもない。


 目視できる賊は前に四人、後ろに二人。獲物なしに俺を取り押さえるのは不可能と察したのか、腰に下げていた剣を抜く。さらに近づいてくる足音が聞こえる。


 増援が到着する前にこの場にいる全員を始末する。


 剣を振り払って血脂を飛ばし、まずは一人目と身構えた、そのとき。


「若様、リオネル様。ご無事ですか」


 間延びした声が響いた。家令の声だ。思わず舌打ちする。賊の目的はわからないが、侵入者がいるなら家令が守るべきは当主たる父が最優先だろうに。


「ディディエ! おれはいい、父上と母上を」


 明るさを絞られた照明の光に浮かび上がった家令の姿に、俺は言葉を切った。

 節くれだった無骨な手に、生首を提げている。その顔は見えないが、鷲掴まれた髪は俺と同じ銀髪。


 この世界(テルース)に銀髪を持つ者は、いつどんな時代であっても二人以上はありえない。我がブランダルジャン家の当主と後継者。それ以外には現れないよう、神によって図られている。

 脱色でも染色でも再現できない、神々がもたらした金属・神鋼と同じ銀白色(ブランダルジャン)。現在は当主である父と、後継者の俺だけが持つそれ。ならばあの首は、父のもので相違ない。


「おぉ、おぉ、麗しきご子息様。ご当主様をうっかり(しい)してしまいましたのでな。御身がご無事でなにより」


 俺に剣を向けていた賊たちが、こちらへと歩み寄ってくる家令のために道をあける。なるほど、そういうことか。


「ディディエ、きさま!」


 一息に斬りかかるも、男たちにはばまれる。行きがけの駄賃とばかりに、一人、二人と斬り捨て、三人目の首を刎ね飛ばす。


「リオネル様。こちらを」


 四人目の喉を貫いたとき、家令の声がかかる。剣を振り払いながら目を向ければ、家令の横に、母が立っていた。その身には縄を打たれ、口に猿轡を噛まされている。


「母上!」

「おっと。どうかそのまま。リオネル様」


 母の喉もとに、家令が短剣を向ける。父の首を捨て、その手で母の身を引き寄せる。


「下郎! きさまごときが触れるな!」


 母は王家の生まれだ。降嫁したとはいえ、家令風情が気安く触れていい身ではない。だが家令は短剣を突き付けたまま、無遠慮に母の体に手を這わせる。


「まだ若輩とはいえ、獅子は獅子か。ここまでの手練れとは、予想外でしたな」


 家令が廊下に転がる(むくろ)を見回して、肩をすくめる。


「ですがリオネル様。お母君の命が惜しくば、どうぞ剣をお捨てに」


 家令が短剣を持った手をわずかに動かす。それだけで、母のなめらかな肌に血の玉が浮かぶ。


「なにが目的だ。言え。父上やおれを殺したとて、当家の地位も財産もおまえのものにはならない」


 上層階級の持つ地位や財産は、それを所有する当主や後継者を殺害することで、強制的に奪い取ることができる。それは神によって定められた法だ。


 だが当ブランダルジャン家はそれに当てはまらない。

 創世の時より、仏国(フランス)王家を守護し補佐するため、神に選定された五家。上層階級の中でも最上位に位置する五つの家門に関しては、万が一その血が絶えた時には、所有していたすべてが仏国(フランス)王家に接収されるものと決められている。


 家令が権力や金欲しさに父や俺を殺そうとも、それを手にすることは叶わない。家令ともなった男が、そのことを知らないとも思えないが。


「いいえ。わたしはこの家のすべてを手に入れる。そのためにリオネル様、あなた様には我が娘と婚姻を結び、子を儲けていただく」

補足。神鋼について。

創世時に神々が当時の最上層階級(各国の王族や元首)と上層上位階級に贈ったとされる、伝説級の金属。一度形状が定まると損壊することはもちろん欠けることも曇ることもない。色は至上の銀白色。

伝説級といいながら上層階級は現代でもわりとふつうに所持・携帯・使用している。おおむね実用品のため、過度な装飾を施されたものはほぼない。

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