役立たずの説明会 ー ⑶
二ヶ月ぶりです。
「次は武器かな?」
と、僕は尋ねた。
これは本を使う必要はないかもしれないけど、確か四つあったはずだ。
僕の言葉で、三人の視線が床下の武器に集中する。
……うん。確かに四つ。
「ロングソード、ダガー、ボーガン、あとこれは……鞭?」
「……あぁ。そうみたいだな。」
カイトによって、僕のその言葉は肯定される。
「じゃあ武器の分配でもするか?」
そう提案したのは、カイト。
……まぁ多分、それが大事だ。
「腕力とかから考えて、女子であるミオがボーガンがいいとは思うけど、どうしようか。」
「いやでも十二歳の腕力なんて男女でもさほど変わんなくね?」
「あ、確かに。」
──さて、ほんとにどうするべきか……。
僕は特に運動とかしてないし、どれを取ったって上手く使いこなせる自信は皆無。
……物語の異世界転生とかでいきなり大剣振り回してる人とかよく聞くけど、どう考えても非現実的。
……剣術習ってる人以外は転移転生できないっていうんなら話は別だけどね?
でもそれは、僕がここにいる時点でありえない。
「三人とも、“自分が使いやすそうな武器”ってある?」
「「ないね/ねぇな。」」
なんという見事なシンクロ率……。
さすが双子。OK、ライトとミオは特にない、と。
でもカイトは何も言わなかったってことは……。
僕は訊ねる意味を込めてカイトの方を見る。
「俺はある。」
と、カイトは言った。
へぇ、あるんだ……。
一体なんなんだろう。割と気になる。
って言うか、気にならないはずがない。
「へえ、それはどれ?」
「これ。」
ライトもミオも僕も、こぞってカイトの手元を覗き込む。
彼が手に取ったのは…………。
「鞭……?」
そう、カイトが手にしているのは鞭。
正直一番使いにくそうな武器だから、使える人がいるんなら助かるけれど。
「鞭は殺傷能力は低いが、使い方を覚えればかなり便利なんだ。」
「へぇ……。」
誰かが感心の声を漏らした。
いや、誰だかわからないけど、僕だったのかもしれない。
なんせ本当に感心したのだから。
「だから鞭は俺が使う。異論はないな。」
「「「ないないあるわけない。」」」
皆、口を揃えて賛同。だってそうなってくれるのが有難いわけだから。
なんせ一番使いにくそうだもんな、鞭とか。
カイトには申し訳ないけど、自分が持ちたい武器ではない。
「他の武器割りは?」
“部屋割り”ならぬ“武器割り”。まぁこんな言い方があっても面白いだろう。
「俺の意見、言ってもいいか?」
またも口を開くのはカイト。
どうやらそういった分類とかは得意のようだ。
ここは意見、絶対聞いておいた方がいい。
「もちろん。」
「イクスとライト、腕力があるのはどっちだ?」
そりゃもちろん……。
「「ライト。」」
僕とミオは口を揃えて言った。
「え、そんな即答する事?」
どうやらライトは、自分が「力がありそう」に見えることに気がついてないらしい。
だけどカイトも僕とミオの方に頷いているのだから、正解なのは絶対ライトだ。
そもそも僕、腕力ないし。あるなら暗記力だけだな。
カイトのように機転が効くわけでもない。
「腕力のあるライトが“振り回す系”のロングソード、ミオとイクスは体格が似ているから、ダガーとボーガン、どちらでも大丈夫だと思う。」
えぇ?僕そんなに体格女子っぽい?
それともミオが体格が良かったりするの?
……いや、前者なんだろうな…………。
不満に思わないわけではないけど、これは言わないでおくか。
「ライトがロングソード……は、まぁ確かに。イメージがすでに適任っぽい。」
「だろ?」
カイトはニカッと笑う。セリフが完全にお遊び気分だ。
物事を深刻に捉えていないだけなのか、はたまた“場慣れしている”とかいうもっと異常なことだったりするのか。
……僕は前者だ。
場慣れしてるっていうのはまず持って異常だし、深刻に捉えられるほど、物事も把握できていなかったからだ。
「じゃあ私、弓矢がいいかも……。
これ、ゲームなんでしょ?私、ナイフ持って接近戦とかできる気がしないもん……。」
そう言ったのはミオ。そのセリフに思うところがないわけではないけど……。
「じゃあダガーは、僕が受け持つことになるね。」
僕は言った。……が、ミオのセリフから暫くの間ののちだった。
「正直僕だって接近戦なんかできる気がしないけど、ここは女子の意見を尊重することにするよ。」
ダガーを手に取ってみるけど、その重みにしっくりはしない。
……まぁしてたらそれはそれで異常なんだけどさ。
そもそも“RPGのようなゲームをしなきゃいけない”っていうこと自体良く分かってないんだ。
何をすればいいのかも深く理解していないこの状況で、そこまで考え込むこと自体が悪手な可能性もないわけでもないしね。
「じゃあ外に出てみようぜ。」
いつの間にやらその場の全員が、それぞれのものを手に持っていた。
鞄の中に“グレシャム貨幣”の入った袋を入れて、めいめいの武器を身につける。
鞭は腰のベルトに丸めた状態で括り付けることができて、すでにカイトもそうしている。
ミオのボーガンは鞄の中にしまったらしい。
既に手に持ってはいなかった。
そして刃物を持つ僕とライトには、専用らしきベルトが付属で用意されていた。
それぞれ鞘をはめることができて、両手が開くから便利だ。
まぁライトは刀身が長い分、なんか大変そうだけど。
カイトが外に出ようと言ったことで、みんなが扉の方を見た。
おそらくみんな、外の景色がどうなっているか気になっているのだ。
“異世界”……。その名に期待と、恐れと、何よりも高揚感を抱いているのだろう。
一体どんな世界なのか。
それが気にならない者は、この4人の中にはいないのだ。
暫くの硬直ののち、最初に動いたのはライトだった。
ゴクリと唾を飲み込んで、そのノブに手をかける。
それを開けた先に見えたのは────
「っ、これは……!」
「へぇ……!」
「わぁお……!」
「これはすごいな……!」
三者三様……いや、四者四様、それぞれが驚きの声を上げた。
見えたのが、想像した景色とは異なる物だったからだ。
……いや、“景色”ですらなかった。
それは誰もが想像だにしない……。
「ワーム……ホール……?」
最初に口を開いたのは、ライトだった。
……そうか、ワームホール!
これワームホールとかゲートとかいう類のやつか!
そういうのに抗体がなさすぎて、それが何かも分かっていなかった。
これはワームホールなのか。
「じゃあこれを潜ったら、この部屋に戻って来れない可能性ある?」
「そうなるな……。」
ゲームやファンタジー小説でよく聞くゲートの類のものは、一度入ったら戻れないものが多い。
こうやって未知の場所にいる場合なんかは特にそう。
だから、これも戻ってこれないって判断したほうがいいかも……。
「じゃ、じゃあ、行こうぜ!」
「え、ちょ、」
真っ先にライトはその光の向こうに消えてしまう。
「じゃあ、俺も。」
「私も!」
二人も後を追ってそこを潜る。
「最後になっちゃったな……。」
呟きながらも、跡を追う。
何だか楽しいことが起こるって、わくわくしててもいいのかな。
そんなことを考えながら、光の幕を潜った。
この作品のリメイクを書き始めました!
「L’autre Monde〈オートルモンド 〉」
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